第21話 林間学校⑨
俺が魔法を使う。
その事実に俺は何度も想像してきた。幼い頃からずっと願っていたことで、もはや一種の夢になっていた。それが今現実になるのが私人られなかった。ずらずらと言葉を並べているが、結局簡単に言えばずっ〜〜〜〜とやりたかったことができるんだ。
「準備はいいか?」
魔道具の性能の記録を取るために準備をしていた佐藤さんが声をかけてきた。
「大丈夫です!」
「こっちもOKだ。初めてくれ」
佐藤さんの合図とともに、俺は身体中にある魔素を操作して、魔道具に魔素を移動させた。魔道具は銃みたいな形をしており、側面には計量カップのような、おそらく魔素の量を測るであろうメモリがついていた。最初はわからなかったが、徐々に俺の体の中にあった魔素が魔道具に流れていくのがわかった。
「よし、そのまま魔素を送ってくれ。魔素の量が撃つのに十分になったら魔道具についているトリガーを君の合図とともに引いてくれ。それで魔法が発動するはずだ」
「魔素の量はどれくらいで十分ですか? この横のメモリを見ればいいですか?」
「そうだ、メモリのMaxは100だが10で打てる設計となっている。だけど魔素の量が足りないかもしれないから、余分に入れておいてくれ」
「わかりました。喋っているうちに溜まり終わりました。打っていいですか?」
「思ったより早いが、撃ってみてくれ」
佐藤さんから許可をもらったので、俺は魔道具のトリガーに指をかけ押した。
火が出た……
どんどん大きくなる。
顔ぐらいの大きさの球になった。
そして俺の前に行った。
だんだんと消えていった……
魔道具のトリガーを押して、魔法が生成され放出されるまでに30秒ぐらいあったと思う。でも、俺には30秒という短い時間に感じられなかった。まるでスロー再生されているように感じた。炎が揺れる姿、炎が消えていく姿全てが俺の記憶の中に刻まれた。
これが佐藤さんの言っていた世界が広がるって言うことなんだろう。俺はこの光景を見て、魔法を使いたい、そう言う気持ちになった。
「無事成功したみたいだな。君……いや春人君、初めての魔法どうだったかな?」
初めての魔法の余韻にのめり込んでいた俺に、佐藤さんが感想を聞いてきた。
「俺、もっと魔法が使いたい! そう思いました。いや必ず使います!」
「もしよかったら、それ君にあげるよ。いや持っておくべきだ」
突然そう言われ、俺は嬉しい気持ちになったが林間学校にいく前に父さんが口にした言葉が不意によぎった。
「あの、気持ちは嬉しいんですが、僕の父は開発者で佐藤さんと同じく魔道具を開発しています。研究に協力しておいてあれなんですけど、俺は父さんの魔道具で魔法が使えるようになりたいと思っています」
「水方博士のことだね。君のお父さんだってことは今知ったけど、僕は前から君のお父さんについて知っているよ。君のお父さんと俺の研究は結構違っていて、僕のは魔道具に魔法を使わせるので、君のお父さんのは、魔法の工程の一部を魔道具にあるいは、その体質の欠点をなくすような魔道具を作っているんだ」
「つまり、父さんは原因を直接治そうとしているわけですか?」
「そうだね、僕のはあくまで魔道具そのものしか研究していないからね。だから本物の魔法はお父さんにやってもらって、偽物の魔法は僕が初ってことで魔道具を持ってもらえないかな? と言っても、試作品だしそこまでのものじゃないんだけどね」
俺は少し勘違いしていた。母さんから聞いたようにこの体質は治らないと思っていたし、長年の感覚からも無理だと思っていた。
でも、父さんはそんなふうに決めつけず、本気で俺のために直そうとしていた。俺がこの話を聞いたあと、俺は周囲に魔道具使いになると言っていた。だからこそ俺が林間学校にいく前に、再度俺に言ってきたんだ……。
「その魔道具を引き受けます。ただし、僕はこの魔道具で魔法使いにはなりません」
少し失礼かもしれないが俺はこう答えた。
「それでいいと思うよ、ただ練習とかで使ってくれない? あまり使ってくれないとデータが取れないから」
そう言って、俺と佐藤さんは笑った。
「話終わったか?」
笑っている俺に話しかけたのは、山口と一緒にいた菊池だった。
「ああ、ちょうど終わったところだ」
「初めての魔法どうだった?』
「最高だね、もっと撃ちたいよ! 佐藤さんいいですよね? ほらお前らも」
そう言って俺は佐藤さんから許可をもらって魔法を撃ちまくった。
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