第20話 林間学校⑧

 木下さんが疲れて眠てしまい、また部屋を移動することになった。


「すまんな、あっち行ったりこっち行ったりして」


「いえ、僕は全然。むしろ山口や菊池を突き合わせてしまってる僕が悪いんで」


「いやいや、全然。むしろ貴重な体験できてよかったよ。これも春人のおかげだよ」


「俺も同意!」


「二人ともありがとな」


「でもよく考えてみれば、春人の体質の持った人たちが初めて魔法になる技術なんだから、いわゆる最先端技術になるわけだろ。魔法が盛んな日本での最先端ってめっちゃすごいことじゃね?」


 佐藤さんは菊池の話を聞き、その発言に一言付け加えた。


「日本の魔法技術は世界でもトップクラスだ。人口に対してのCランク魔法使い、つまり魔法のプロト呼ばれる人は日本がぶっちぎりで1位だ。さて君たちが待っていた魔道具の威力をここで試そうか」


 俺たちの入った部屋は家具など一切なく、部屋全体が白かった。


「ここはもともと一番でかい部屋だったんだが、うちは見ての通り実験をバンバンやるんじゃなく、紙と睨めっこしているのが多いから自然と魔法をぶっ放せる部屋が小さくなちゃったんだ。でも必要最低限の広さ以上あるから安心して!」


『ファイア』


 いきなり菊池がぶっ放した。しかも魔道具を使うんではなく、自力でだ。驚いた俺は菊池に抗議した。


「いきなり危ねーよ! 少しぐらい合図しろよ! あと何で魔道具使わないんだよ!」


「ごめんごめん、何か言えばよかったな。魔道具を使わなかったのはそれこそいきなりはまずいと思ったから」


「とりあえずはわかったよ。でも俺の人生初の魔法になるんだから、もっとこう……なんていうか、俺を見守ろうとかないの?」


「「ない」」


 菊池どころか山口までか!


「話はいいから早くやろうぜ」


 菊池はめんどくさそうにして言った。


「いや、俺が魔法を使うんだよ? それこそさっき山口が言っていた貴重なことなんだぞ! 菊池もこれは最先端の技術で、もしこれが成功したら、目の前で歴史が変わる瞬間かもよ?」


 俺は必死に熱弁していたが、二人はもう魔道具に夢中で聞いてすらいなかった。


 何だよ、さっきまで俺に調子のいいこと言っていたのに…


 そう思って不貞腐れていた俺に佐藤さんは、話しかけてくれた。


「二人は、別に君に嫌がらせしているとは思わないよ。 俺もかつてそうだったけど、初めて魔法……正確には体外魔法を使えた時はとても感動した物だよ。なんて言うか、初めて自転車に乗れて世界が変わるみたいな感じかな? 

 でも、君は今まで経験したことなくて、それに憧れていたみたいだから人一倍感動するんじゃないのかな?

 だからこそあの二人はあえてそっけないふうにしたんじゃないかな?」


 佐藤さんの言葉を聞き、俺はあの二人に照れくさいがあとでお礼を言おうと思った。それにそんな二人の考えを察して教えてくれた佐藤さんにお礼を言った。


 佐藤さんは俺にお礼を言われ、『青春だね〜」と言いながら離れていったが、魔道具の使い方がわからないのですぐに連れ戻した。


「えっと、使い方だったね。使い方は簡単でまずは普通に魔力操作で魔力を……って本当は魔素だけど。あっでも実際のところはあまり変わらなく……」


「いえ、そこら辺はすでにわかっているので大丈夫です!」


 俺は佐藤さんが魔道具の使い方のはずなのに、魔法の講義になりそうなのを食い気味に阻止した。


「なら、話は早い。この魔道具は君が体外魔法を使う際に行う魔力操作以外のことを行うって……もう何で今の魔法用語はややこしいんだ! すまんが、うちで使っている用語でもいいか? 来年の春からこれらが公で使われるはずだ。今までとは格段にわかりやすいはずだ」


 そう言って佐藤さんは内ポケットに入っていたメモ帳を出して、書き込み始めた。書き終わると書いたページの紙を破り俺に見せてくれた。



 魔素の操作→魔素操作(旧魔力操作)


 魔力の生成→

 魔力生成(魔素操作によって魔素を一カ所に集めてできる、属性などをここでつけれることができる)


 魔力の操作→

 魔力操作(魔力を体内で移動すること、腕や足に集めること)


 魔力の放出→

 魔力放出(腕や足に集めた魔力を体外に出すこと)


 魔素の量(人が持っている)→

 魔素量(これがゲームでいうMP)


 魔法生成、魔法放出は今まで通りの解釈でよし!


 魔力の量や、魔力の出力はまだ詳しくわからないため、具体的にはないが、魔力量は1分あたりに体の中に入れられる魔力の量(属性ごとによって違うから、適性はここで測れると考察される)、魔力出力は1分あたりにどれだけ早く、体から外に出す魔力の量



 メモには大体このように書かれていて、俺も感覚としては納得できた。


「それに書いたのは今の魔法学における基本的なことで、これからも用語は増えていくかもしれない。でも最低限この用語を理解して、実践できるようになれれば、体外魔法は使えるようになる。それ以上は応用かな」


「これらが来年から使われていくんですか〜 概ねわかりましたので説明の方よろしくお願いします」


「じゃあ渡したメモの用語を使って説明するぞ。この魔道具は使い手の代わりに、魔道具が魔法を発動するようなものだ。今までの魔法使いが使う魔道具ってのは魔法の出力を上げるものだったが、これは日常で使う魔道具の延長線上にある。君も使ったこともあるだろうが、魔法ライターと呼ばれるやつと構造的には似ている。しかし、それをそのまま強くするってわけにも行かなかったんだ。最初はつまらない実験だと思ったが、すっかり夢中になってしまっ……」


「すみません、話が脱線しています」


「あ、ごめんごめん。えっとその魔道具を使うには魔道具に魔素を込めるだけでいいよ。さっきの話の続きなんだけどさ……」


「あの、テストしなくていいんですか? 俺たちもこのあと他の場所にも行きたいんで早く始めたいんですけど……」


 佐藤さんはよほど魔道具に自信があるのか、もしくは実験自体が好きなのかはわからないが、何回も話が脱線しそうなので、俺は素直に早くやりたいことを遠回しに言った。


「あの、僕たちもう終わりにしようと思うんですが……」


「ほら、佐藤さん。山口達も飽きちゃってますよ! 早くやりましょう!」


 そう言うと、佐藤さんは渋々俺の提案に乗っかった。

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