第18話 林間学校⑥

「とりあえずここに飾ってある魔道具から選んでくれ」


 佐藤さんはそう俺たちにいい、奥の部屋に入って行った。俺は山口と菊池と共に魔道具を見ていたが、俺の魔法体質に合わないと思い佐藤さんに相談することにした。


 コンコン


 俺が奥の部屋のドアにノックすると佐藤さんは


「あ〜、別に入ってきてもいいけどここには大事な書類があるから一切物には触らないでくれ」


 そう言われたが構わず入ることにした。


「失礼します。少し相談ごとがあって」


「どうした? ちゃんと魔道具が使えるように実験場の場所も確保したから大丈夫だぞ」


「いえ、それとは違って。俺の魔法体質のことなんですが、かなり特殊な体質で魔力放出ができないんですよ」


「そうか〜 でもちゃんと君にも使える魔道具もあるよ。派手なやつじゃないけど少しの魔力放出ができれば問題ないよ」


「その少しとは、このパスを登録するときの魔力放出と同じくらいですか?」


 そう言って俺は秋人からもらったパスを制服の胸ポケットから取り出して見せた。


「そうだよ。それはうちが作ったんだ。これも魔道具の1つでうちの代表作に入るね。後少しすればこの技術を社会に出せると思うよ」


 佐藤さんが少し嬉しげに自慢するので、俺は申し訳なさそうに口を開いた。


「これなんですけど……実は俺が登録した物じゃなくて、友達のなんです」


「だ、だめじゃないか! そんなことしたら防犯システムの意味がなくなってしまうよ! ……もしかして体質って、登録ができないほどの魔力放出しかできないってこと?」


 さすがは研究者のことあって、俺が一から説明することもなく、俺の言いたいことを理解してくれた。


「その通りです。このパスは同級生の神木秋人のものなんで大丈夫だと思います。 谷さんも知っているので。ですから僕は自分の使える魔道具を聞こうと思ったのですが……」


 しばらく佐藤さんは考え込み、少し悩んだような顔をしたが満面の笑みを浮かべた。


「実はさ、さっき他の職員が研究中って言ってたでしょ。その研究がまさに君みたいな体質の子のための魔道具なんだよ! せっかくだから今からその魔道具使ってみない? てか使って欲しい!」


 ずっと落ち着いた様子だったのに、急に興奮して話し始めて俺は少し引いたが俺としても嬉しい提案だったので乗ることにした。


「ぜひ使わせてください!」


「じゃあ早速いこうか!」







 俺と佐藤さんの話がまとまり当初使う予定であった実験場には行かず、魔道具専用の実験場に行くことになった。山口と菊池も魔道具を選び終わったようで一緒に、実験場に向かうことにした。


「春人がそんな珍しい体質を持っているのなんて知らなかったよ」


「まあ、俺も詳しく知ったのは最近なんだけどなw」


「最近のお前が元気いいのはそれを知ったからか?」


「そ……うかもしれない。自分でも最近の俺は調子がいいと思う」


「そうか、俺も最初はなんだか変だと思っていたんだけど今のお前を見ていれば何も心配することないなw」


 そう言って菊池は俺の肩を叩きながら笑った。


「菊池って案外人のこと見ているんだね〜」


「おう、そうだぞ! 太郎が海良のこと目で追っかけっていることもな!」


 そう言い終わると、菊池は山口の方に親指を立てた。


「ち、違うよ! 鈴木さんだけじゃないし」


「その言い方だともっとヤバい奴になるよw」


 山口は急に話題の矛先が菊池から自分に変わって、焦り出したのか俺の話題になるように話をすり替えた。


「春人こそ、美保ちゃんとはどうなのさ?」


「美保のこと?」


 俺は急に言われてよく分からなかったが、話の流れからは美保の恋愛についての話だと考えたので秋人のことを話した。


「もしかして、美保と秋人のこと? あの二人はお似合いだと思うよ。二人とも付き合ってもいいと思うけど、もしそうなると俺は少し寂しいかな」


 そう答えると、山口と菊池は何やら俺に聞かれないように離れて小声で喋っていた。


「どう思う?」


「俺はもう春人に直接言ってもいいと思う」


「でもそれでややこしくなったらどうすんのさ?」


「でも、今の調子じゃわかんないだろ。それに二人はずっとそばにいたのにすれ違っているのはこないだの喧嘩からでもわかるだろ?」


「確かにそうだね。ならこの状態が半年続くならやんわりと伝えてみようか」


「それでいいと思うぜ」


 話が終わったみたいで、俺もその内容を聞こうと尋ねようとしたが、その前に佐藤さんが口を開いた。


「話が盛り上がっているところ悪いがもうそろそろ着くぞ。入るにはその服の上から俺の着ている同じ白衣を着てもらう。衛生的にも安全的にもな」


「わかりました」


「話を中断して悪かったな。でも、もう着いたからその話は今夜の布団の中でしな。鉄板だろ?」


 そう言って佐藤さんは更衣室らしき部屋の中に入って行った。俺たちも佐藤さんの後に続いて入ったが、俺の中では未だに山口達の話が気になったままであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る