第15話 林間学校③

 俺は、走っていた。たくさんの荷物を持ち、後ろに一緒に走っている美保を気にかけながら。

 

 どうしてこうなっているかと言うと、またもや美保と気まずくなり、林間学校が始まる前にはっきりしておきたいと、俺が衝動的な感情のまま美保との知的な(?)話し合いを始めた。


 結果としては、無事に解決できたと思うが美保から今後もあるだろうと言われ、幼馴染がめんどくさい女になったとよくない考えをしてしまった。でもなんだかんだ言って、このような話し合いは無駄じゃないと思える。こんな考えは以前のやる気のない俺には考えつかないだろう。なんとなく父さんの言っていたことが自分でも感じられる。


 ……で、今の問題は林間学校なのに遅刻しそうだと言うこと。俺たちは話に盛り上がりすぎてしまい、集合時間どころがバスの出発時間に間に合うかの瀬戸際だ。


「今、何時?」


「8時14分」


「半には出るんだっけ?」


「そうだけど、少しくらいは待ってもらうと思うよ」


「それでも急ぐことは変わらないだろ! いつも時間通りに行動するのが裏目に出たか」


「でも、普通に行っていたら8時にはついていたんじゃない?」


「いや、山口にちょっと用事があったから」


 俺は山口に、とあることを頼んでおいた。実際にそれができるのかは分からなかったが、もしできていたなら林間学校はもっと楽しいものになると俺は確信していた。


「なんの用事?」


「なんでも良いだろ。ほら遅れるから急ぐぞ」


 そう言って、無理やり美保との会話を終わらせて俺たちは、風邪のように……とはいかないが目一杯走った。







「すみません! 遅れてしまいました」


「私も遅れてしまいすみませんでした」


 俺たち二人は遅刻してしまったことを担任とバスの運転手に言った。


「確かに集合時間には、遅れていますがバスの出発まで5分あります。

 トイレは大丈夫ですか?」


「じゃあすみませんが、借りてきます。すぐに戻りますから!」


「私も一応借りてきます」


 俺たちがトイレを借りたあと、バスはすぐに国立魔法科学センターに向かって出発した。先生にはなぜ遅れたのか聞かれたが、楽しみで寝坊と適当に言い逃れたが、少し注意を受けた。バスの運転手は何も言ってはいなかったが特に怒っている雰囲気もなく安心した。


「二人で仲良く遅刻なんてどうしたの? 春人はともかく美保ちゃんはそう言うイメージないのに」


 俺の乗っているバスは、現在東名高速道路を走っている。国立魔法科学センターは、あらゆるものを大量消費するため日本で1番貿易学の多い名古屋にある。片道4時間はかかるために途中に休憩がてらの早めの昼食を挟み、14時ごろには着く予定だ。


 ただこれが林間学校といっていいとは思わないが、俺というかおそらく全員が楽しければ良いと思っているに違いない。

 ……と考えていたところに車酔いで俺の隣の席から帰ってきた山口が俺に話しかけた。


「いきなりなんだよ。酔いは覚めたのか?」


「おかげさまで、治ったよ。最近の酔い止めってすごいね」


「なら良いんだけど。さっきの質問だがただ単に寝坊して、たまたま美保に会っただけだよ。美保も楽しみで眠れなかったんじゃね」


 そんな俺を見て、山口は嬉しそうに優しい笑みをした。


「なんか面白いことでもあったのか」


「なんでもないよ♪ 話が変わるけど、例のできたよ」


「まじか! じゃあ今日の夜はそれで決まりだな」


「でも、あくまで試作品だから多少の不備はあるかもしれないよ?」


「それでもいいよ。また直せば良いんだから」


「言うのは簡単だけど、それをやるのは僕だよ」


「そこら辺の話はやってみないとわからないだろ」


「それもそうだね」


 俺は更なる楽しみに胸をふくまらせた。







 13時53分


 予定通りより少し早いが、俺たちは無事に国立魔法科学センターに着いた。途中に菊池が何か問題でも起こすんじゃにかと思っていたが、そこまではしゃぎすぎることもなく普通にクラスメイトたちと楽しんでいた。いまいち菊池のキャラが分からなくなってきた。


 このあとはいきなりだが、国立魔法科学センターの施設を見学することになる。降りてすぐとは、少しハードだと思うがこれは施設が大きすぎて一日じゃ案内しきれないことと、施設側の人が少しでも多くのものを見せてやりたいと言う親切心からであった。


 中には少し不満がある人がいるかもしれないが、最近また魔法に目覚め出した俺としては、本当にありがたいことであった。なんなら三日後ぐらいまで起きられる自信があるほどアドレナリンが出ていた。


「なんか興奮してんな」


 いつもは言われるほうが多い菊池に若干引き気味に言われた。


 バスから降りた俺たち全員は、バスの運転手にお礼を言い列に並び、施設に入る前に休憩を兼ねた施設内の注意事項を案内の人から聞くことになった。


「こんにちは、私は谷というものです。遠くから来られてお疲れでしょうが、この施設にとってもみなさまにとっても大切なことですからよく聞いてください。

 まずはこの施設に入るためには専用のパスポートが必要です。今回は特別に君たちのためのパスポートを作りました。このパスポートは魔力を込めれば防御用の魔法が発動できるようになっており、もしもの場合はすぐに使ってください。中では色んなものがあるので、私たちも把握しきれないほどですからw」


 そう言って、谷さんは笑った。


 「人それぞれ違う魔力に反応して識別してますので絶対に無くさないでください。そしてスマホなどの電磁波がでる機械類は持ち込まないでください。中にある機械がごさどうをおこしてしまうかもしれませんから」


 そう言うと谷さんは先生のほうに向かって、


「ではこれは先生方に渡すので配るのをおねがいします」


「わかりました。ちょうだいします」


「ああ、言い忘れていましたがこのパスポートは明日までしか使えないので注意してください」


 そうしてパスポートが俺たちの手に渡った。パスポートと共に特製のしおりも貰い、そこにパスポートの登録の仕方が書かれていた。



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