第13話 林間学校①

 林間学校(りんかんがっこう)とは、小学校や中学校などで、春から秋にかけて山間部や高原の宿泊施設に宿泊し、ハイキングや登山、博物館見学等を行う学校行事の一つである。

 


 もちろん俺の学校もあり、1年生全体が林間学校の雰囲気になっており、みんなどこか浮かれていた。俺はみんなと違ってそこまで……って言いたいどころだが、楽しみで気づかないだけで俺も浮かれているに違いない。(なるべく浮かれないように装っているが)


 そんな自分との戦い?が二週間ほどあったが、それもここまでだ。なぜなら、もう明日には林間学校があるからだ。特に今回の林間学校は国立魔法科学センターに行くとなっているため、なかなか寝付けなくて困っている。だけど俺がそんな贅沢な悩みが、恋しくなるとは思ってもいなかった。

 


 




 俺は意識を朦朧としながら周りを見渡し、林間学校で起こったことを思い出しながら、立ち上がり自分を奮い立たせた。


「ここはどこだ……いやどこでもいい。俺がどこにいようが俺だ! 絶対に俺は強くなる! たとえ魔法が自力で使えなくても強くなる……そう決めたんだ……」


 そう言って、寂しさや悲しみを感じていた。


 そして俺は改めて、実感した。


 ……世界が変わった、文字通りに世界が変わったんだ。 林間学校で……いや異世界転移で。







 土曜日


 俺は普段は十時くらいまで寝てしまうのだが、今日は六時に起きた。


 何故って? 


 それは林間学校があるからだ! 


 もう一度言う! 


 林間学校があるからだ!


 そう心の中で復唱していると、母さんに呼ばれた。


「春人〜ご飯だよ〜」


「は〜い、今行く〜」


 そう答え、俺はいつもの朝より素早く一階に降りた。降りるとすでに父さんが朝ごはんを食べており、父さんの食べている卵焼きを見て、俺のお腹が鳴った。


「おはよう、春人。よく眠れたかい?」


「おはよう、父さんに母さん。今日が楽しみで少し眠いけど大丈夫かな」


「そうか、ならよかった。それにしても少し明るくなったね」


 父さんと話しているうちに、母さんが俺の分の朝ごはんを用意してくれた。


「母さん、ありがとう。ではいただきます。父さん、話が途切れちゃったけど俺が明るくなったって?」


「そうだよ。 今だって母さんにちゃんとお礼を言って、いただきますも言っているじゃないか。以前なら、どちらも言わずに食べてすぐに部屋に戻っていたじゃないか」


 そう言われるとそうだったため俺は少し恥ずかしくなりながらすこし反論した。


「でも、ちゃんとご馳走様は言っていたはず……」


 そんな苦し紛れの俺の言葉に反応したのは母さんだった。


「ちっさい声でね」


 母さんのトドメの言葉で、俺は何も言うことができなくなってしまし、黙り込んでしまった。そんな俺を見て、父さんが俺に話かけてくれた。


「今日は魔科研に行くのかい?」


「え、ええっと国立魔法科学センターのこと? それなら行くよ」


「そうよ。それぐらいだいたいわかるでしょう?」


 父さんのセリフを奪ってそう言い、ご飯の準備が終わった母さんが食卓にやってきた。


「はは、父さんたちのような職員はそう言うことが多いからね。春人にわかりやすく言った方が良かったね」


「俺もなんとなくはわかったよ」


「まあ、呼び方なんていいわ。春人は早く食べて荷物の最終チェックでもしなさい」


「そうだね、せっかく貴重な体験できるんだ。忘れ物なんかしてる場合じゃないぞ」


 と母さんが呆れるように、父さんが笑いながら言った。


「それもそうだね」


 俺はそう答え、ご飯をかきこんだ。







「ちゃんと準備した? 忘れ物ないでしょうね?」


「何回も確認したから大丈夫だよ。なんか言うのさ?」


 そんなありふれたことを俺と母さんがやっていると、父さんが俺に話しかけてきた。


「さて、初めての外泊だけど春人なら大丈夫だと思ってる。そして母さんから聞いたように、春人は特殊な魔法体質を持っている。これから行くところは、春人にとっては苦痛になるかもしれない。でもそんなの気にしなくていい! 俺がちゃんと春人に魔法が使えるようにするから」


 普段優しい父さんが、『俺』と言う言葉を使って力強くしゃべっていたので少しびっくりしてしまった。


 でも、俺は父さんの言葉が嬉しく父さんのことが改めてかっこよく見えた。


「うん、わかった。でも俺は俺のやり方でも探ってみるよ。今回の林間学校で何か見つけられるかもしれないし、それにもともと俺は楽しむつもりだよ」


「そうか、父さんも春人に負けられないな」


「二人とも、詳しい話は春人が帰ってきてからね。遅刻するわよ」


 母さんに言われて、俺は慌てて時計を見て時間を確認すると、もう家を出た方がいい時間だった。そうして俺は荷物を持ち、二人見送られながら学校に向かった。


「行ってきます」


「「行ってらしゃい」」

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