第9話 幼馴染②

 そう答えてしばらく沈黙が続いたが、30秒ほどたって美保がその沈黙を破った。


「なんでこんな質問したの? 怒ってるってわけじゃなくて、純粋な疑問」


 そう言われて、俺は少し考えたあと空を見ながら口を開いた。


「美保の言う通り俺は小さい頃、世界一の魔法使いになるって言っていたし、憧れていた。それこそ小学校に入ってからもこの夢は変わらなかったし、なんなら何でもできるほうだった。

 でも、少しずつ俺は周囲の成長についていけなくなっていると感じ始めた。最初はスポーツ、次に勉強と、俺よりもできるやつが増えていった。それでも、俺には魔法があると、どこか安心していた。

 そんな中、お前が小3で飛び級でFランクになった。それに触発されて俺も負けてられないと、勝手に焦りだして心の中でお前と競い合っていた。しかし俺は最低のGランクどころか試験を受けるところまでいかなかった。ところがお前はどんどん上に上がって今やBランクになっていった。

 

 まあ、そんなことがあって、俺は魔法を頑張れず勝手に劣等感を感じていたけど、今は頑張ろうと思っていている。

 そのためにもお前に頑張る秘訣を聞こうと思っていたんだけど……まさかそれが俺の言葉なんて思いもよらなかったよ。

 でもさ、今一番勢いのある天才魔法使いの原点であるなんてとても光栄だね」


 そういって美保の顔を見ると、美保は泣いていた。それを見て俺は慌てて、


「どうして泣いてんのさ?」


 美保は大粒の涙をこぼしながら、震える声で


「私が……私が、春人を苦しめていたんだ……」


「いやいや、それはただ単に俺が勝手にお前を敵視していただけだから」


「でも……それでも私は春人の気持ちを考えずに、嫌みを言ったり煽ったりして苦しませていた」


 俺は頭を掻き、美保の言葉に戸惑いづつも俺の気持ちを言葉にした。


「確かに、お前の言葉に苦しめられたかもしれないけど、お前だけが、俺と魔法をずっとつないでくれていたと思う。母さんも父さんもほかの道など示してくれたけど、俺の憧れいたものはずっとお前が見せていてくれたと思っている。じゃなきゃ今頃、俺はガリ勉になってたかもw」


 苦し紛れのギャグを言ったが、美保は俯いたままで俺が「すべったかなぁ」と思っていると、美保は顔を上げて泣き止んで笑った。


「春人がガリ勉なんて、想像できないよw」


「分かんないぞ。ぐるぐる眼鏡かけて、こないだのテストなんか学年一位だったかもしない。

 ……ってまあ、何があれお前のおかげで俺が魔法を続けられるんだ。それに今のお前は俺の憧れなんだよ。その憧れが泣いているのは、ちょっと困るわw」


「そうだよね。憧れの人が泣いていたらヤダよね。

 でも、私はその憧れが不貞腐れていたんだけどねw」


「そりゃぁ悪かったよ。でもすぐにお前に追いついてやるから、待ってろよ!」


「え~本当にできるの~? 私も素直に止まっているわけにもいかないしw」


「なめるなよ。最近の魔道具は凄いし、なんなら上位のランクでも魔道具が活躍してるんだぞ!」


「じゃあ、今後は魔道具使いとなるの?」


「まあ、父さんの開発がうまくいけばな。それでお前を追い抜かしてやる」


 そういうと美保は笑顔で、


「うん、待っているよ」


 と言った美保の顔は夕焼けに照らされ、不覚にも俺はかわいいと思ってしまい、顔を背けた。


 俺は少しの沈黙の後、顔の火照りが冷めしゃべろうとすると、


「ごめ~ん二人とも、ちょっと研究所の掃除で遅れちゃって……って美保ちゃんどうしたの?」


 と母さんは慌ただしく帰ってきた。


「あ、おばさんこれは……」


「春人、美保ちゃんに何したの! 女の子を泣かすようなことはするなって言ったでしょ!」


 そういって母さんは俺に拳骨を食らわせた。そうして俺は美保が誤解を解くまで1時間ほど説教され、さらになぜこうなった理由を美保がバカ正直に話してしまい、もう一時間説教コースとなり、今日の魔法の練習はおじゃんとなった。

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