第4話 黒猫と魔女
心が台所で昼食のペスカトーレを作っていると、横からひょっこりと奏が心の手元を覗き込んで、
「何作ってるの?」
と言った。
心は、
「奏の好きなペスカトーレ。奏、ムール貝とか好きじゃん?」
と言った。
奏は目を輝かせて、
「ムール貝は、黒いからね!」
と言った。
心は手を止めることなく、水が流れるように率直な手つきで料理を続けながら、
「奏は何で黒いもの好きなん?」
と尋ねた。
「私は黒猫が好き! だから……黒いものが好き」
「へえ。奏は黒猫が好きなんだ」
「そう。黒猫が好き。心はどんな猫が好き?」
「私は三毛猫かな。特にスコティッシュフォールドの三毛猫」
「私も三毛猫も好き。でも……黒猫が好き!」
……などのようなやり取りを二人がしているうちに、心のペスカトーレは完成した。心が器に出来立てのペスカトーレを盛ろうとすると、奏が自分で盛りたいと言ったので、心は盛りつけを奏に任せることにした。
心が見守る中、奏は不器用な手つきでそっとペスカトーレを皿の上に盛りつけていた。ちなみに、ところどころ具材が皿からはみ出していた。
「……上手くいかない」
と奏は言って、心に切なそうな目を向けた。
心は笑って、
「ちょっと貸してみて」
と言い、華麗にペスカトーレを盛りつけして見せた。
奏は、心の芸術的なまでに洗練された盛りつけの手つきの簡略さと速効性に目を輝かせ、
「……心はすごい」
と言った。
心は、
「でしょ?」
と言って、得意気に胸を張った。
心は自分で盛ったペスカトーレを奏に渡し、
「奏はこっち食べなよ」
と言う。
奏は嬉しそうにそれを受け取りつつも、もう一皿の奏が自分で盛りつけた方のペスカトーレをじっと見つめている。そして、
「心は私の盛ったペスカトーレ食べるの?」
と尋ねる。
「うん」
と言って、心は奏の盛ったペスカトーレを手に持った。
奏は申し訳なさそうに、
「私のヘタクソな盛りつけのペスカトーレでいいの?」
と恐る恐る尋ねる。
心は、
「奏が一生懸命盛ってくれたんだから、これがいい」
と言った。
奏は心の言葉に感心したように、キラキラと目を輝かせて、
「ありがとう」
と言い、彼女はフォークとペスカトーレを持って、テーブルについた。
心も奏と一緒にテーブルにつく。
そうして二人でニコニコしながら、
「「いただきます」」
と言った。
その後、心は二人分の紅茶を淹れて、軽くミルクを入れた。紅茶の種類は、これもまた奏の好きなもので、アッサムだった。
心と奏のティータイムは、賑やかである。とてもとても。
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