第2話 ドラえ◯んの欲しい秘密道具は人生やり直し機
私立神薙学園高校。
昨年まで女子校だったこの学校は、今年から共学化した。
そのため、二、三年生には男子がいない。
今年から入学した男子の数も、学年全体の二割程度しかいないため、肩身が凄く狭いのだ。
しかし、この学校に入学した男子はそんなこと承知の上である。
それでも男子たちは、大海へ挑む船乗りの如くこの学園へやってきた。
多少は女子から避けられていようが、それは承知の上。その上で彼らは女子たちと仲良くなりたいと思っているのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと……。
「あ、お、おはよう、宮代さん」
「……チッ。気安く話しかけないでくださる?」
俺が一年間過ごす一年C組の教室に入ろうとすると、教室を出ようとしていた女子と鉢合わせした。
彼女は
アニメや漫画でしか観たことがない金髪縦ロールの美少女なのだが、俺を含めた男子をまるでゴミを見るような目で睨みつけてくる女子だ。
言わば彼女は、C組の女王。
クラスの女子の大半が彼女に従う、いわばスクールカーストの頂点である。
「ぐはっ」
「……何をしておりますの?」
「い、いや、何でも……」
メンタルの弱い俺は、格上の相手に睨まれると心臓がキュッとなる。
そう、俺には覚悟がない。
多少は女子に避けられたり、煙たがられたりする覚悟があってこの学園に来たわけじゃないんだ。
とどのつまり、友達ができない言い訳を作りにこの学園へやってきた俺は、宮代さんみたいな反応をされると傷つく。
クソザコナメクジメンタルな俺は、宮代さんに道を譲ってから教室に入った。
「ぐっ!!」
そして再び、精神的ダメージを負う。
教室の扉を潜った俺の目に映ったのは、始業式から僅か一週間で形成されてしまったグループだ。
女子たちは言わずもがな。
数少ない男子ですら、一週間もあれば交友関係を築いているというのに……。
「……何故、俺は未だにぼっちなのか……」
誰にも聞こえない小さな声で呟きながら、俺は自分の席に腰掛ける。
まだ一週間、されど一週間。
ここから俺の交友関係が広がる可能性は絶望的だろう。
まあ、元からぼっちになっても言い訳ができるようにこの学校へやってきたのだ。
気にしたら負けである。
「……ぼっちの特権、朝からおやすみー……」
俺は自分の席で顔を伏せて、授業が始まるまで眠ることにした。
あと数分もすれば担任の先生が来るし、ぼっちタイムはあと少し。
と、思っていたのだが。
「ヘイ、鈴木一馬くん!! いや、かずかず!!」
「……え?」
「ありゃ、起こしちゃった? ごめんごめん!!」
「……えっと……?」
顔を上げると、クラスの女子が一人、俺の顔を覗き込んでいた。
黒髪ポニーテールで、元気が全身から滲み出ているような少女だ。
クラスの女王、宮代さんの取り巻きではないが、そこそこの地位を持つクラスメイト。
いわゆるカースト中位の人間であり、最も一軍に近い二軍の女子。
名前はたしか……。
「
「正解!! ちなみに下の名前は?」
「……」
「残念!! 下の名前は
「えっと、ごめん」
名前を把握していなかったのは、流石に申し訳ない。
人の名前を覚えるのが苦手なのも、俺に友人ができない理由なのだろうか。
「んーん、気にしなくて良いよ!! ところで、好きなドラえ◯んの秘密道具は?」
「人生やり直し機」
「え? どうしたの? 何かあった? 相談乗るよ?」
ドラえ◯んの欲しい秘密道具を正直に答えたら、布留川さんが凄く心配そうに俺を見つめてくる。
できることなら、子供の頃からやり直したい。
言葉を交わしたら友達!! みたいな、友達のハードルが激低だったあの頃に戻りたい。
まあ、戻ったところで友達がいたわけじゃないし、できるわけでもないだろうけど。
なんて考えていると、布留川さんの後ろから女子がもう一人、ひょこっと姿を現した。
艶のある黒髪をショートカットにした少女で、可愛いというよりも美人という言葉が似合うかも知れない。
「千里、あんたはん話しかけるの下手かいな。すんまへんなぁ、一馬はん?」
「あー、えっと……ごめん、名前分かんない」
っていうかこんな子、クラスにいたっけ?
「酷いわぁ。これから一年一緒に過ごす仲間やのに。しくしく」
「いや、るりるりは今日が初登校だし、知らないのも当たり前では?」
え? 今日が初登校?
「なんやつまらへんなぁ。ネタばらしには早過ぎるんよ」
「こっちの性格悪い子は
「あだ名はあんたはんが勝手に言うとるだけやけどね」
「私と同中で、この学校来る前からの友達!!」
良いなー、中学の友達と一緒に学校通うとか。
俺も一回で良いからやってみたかった。
まあ、それは置いといて。
布留川さんのような、一軍にも物怖じせずコミュ力を発揮する女子が俺に何の用だろうか。
「おっと。その顔は『クラスで二、三番目くらいに可愛い布留川が俺に何の用だ』って顔だね?」
「当たらずとも遠からず」
「地味に自己評価が高いんも腹立つね」
「たはー!! ほら、私ってば自己肯定感高い系女子だからさ!! ま、冗談はさておいて。おーい、そろそろ出ておいでよー!!」
「ん?」
布留川さんが振り向いた先には、教室の扉に隠れるようにこちらの様子を窺う少女が一人。
その純白の髪は、今朝見たばかりだった。
古神である。
「あ、あの、その、す、鈴木くん!!」
「あ、うん。えっと、何?」
「その、えっと、あの、あのね!!」
な、なんだ? 妙に迫力があるな……。
「はい、めいめい。一旦落ち着こう。深呼吸しよ。吸ってー、吐いてー」
「う、うん。すぅー、はぁー」
めいめいというのは、古神のあだ名だろうか。
俺がかずかずで、坂本さんがるりるり。なんというか、分かりやすいあだ名だな。
布留川さんが古神に深呼吸するよう、助言した。
「吸ってー、吸ってー、吸ってー、吸ってー」
「すぅー、すぅー、うっ、すぅー」
吐かせる気配が無い。
すると、坂本さんが布留川さんの頭をチョップした。
「あいた!!」
「アホなことさせとらんと早し。授業始まってまうよ、めいはん」
「う、うん!! すぅー、はぁー。あ、あのね、鈴木くん!!」
「あ、はい」
古神さんが俺の目を真っ直ぐ見つめながら、勢い良く頭を下げてきた。
「あ、朝は痴漢から助けてくれてありがとうございました!!」
「うん?」
なんだ? まさかお礼を言いたかっただけなのか?
「け、今朝お礼言いそびれちゃったから。それで、ちゃんとお礼言わなきゃと思って、それを千里ちゃんに相談したら……」
「で、その話を聞いた私がお膳立てしたってわけ」
「あー、そうだったんだ? お礼なんて良いのに……」
律儀なんだなぁ、古神さんは。
「ところでかずかず」
「俺のあだ名、かずかずで固定なんだ。なに?」
「ドラ◯もんの欲しい秘密道具が人生やり直し機って、何かあったの? 相談乗るよ?」
「そこは掘り返さないでくれると嬉しいな」
布留川さんが人生やり直し機についての話題を掘り返そうとしたところで、予鈴が鳴る。
同時に、担任の先生が教室に入ってきた。
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