電車で痴漢されそうな同級生の女の子を助けたら、クラスの二軍女子グループと仲良くなった件。
ナガワ ヒイロ
第1話 天才的な発想でぼっちを誤魔化す
俺は友達が少ない。
すまん、見栄を張った。実を言うと、友達が一人もいない。いたことすらない。ぼっちである。
子供の頃から人と話すのがどうも苦手なのだ。
あ、別にコミュ障ってわけじゃないよ?
必要最低限のことは話せるし、周囲と関わりを持つことはできる。ただ維持ができないだけである。
しかし、高校生にもなって友達が一人もいないのは色々と不味いだろう。
だから俺は言い訳を作った。
俺が高校生になる年から、自宅から電車で一駅先にある女子校が共学化すると聞いたのだ。
女子校から共学化したばかりの学校は、きっと女子生徒が多いはず。
すると、自然に男子という存在は浮いてしまう。
そう、友達がいないのは俺のせいではなく、周りに女子しかいないから、ということにするのだ。
我ながら天才の発想だね。
俺はそう思って、私立神薙女子学園高校もとい、私立神薙学園高校の受験をしたのだが……。
「ねー、かずかずー!! るりるりが辛辣だよぉ!!」
「何が辛辣やの。うちは事実言っとるだけやし。なあ、
「あらあら、うふふ。一馬さんが困ってるわ、二人とも」
一馬というのは、俺のことだ。
そう。
俺はどうしてか、クラスの二軍女子グループに囲まれていた。
いや、二軍と言っても、それぞれが結構ハイレベルな美少女たちだ。
どうして友達が一人もいない俺が、女子たちに囲まれているのか。
全てはそう、あの日から始まった。
「あ、お、おはようございます、鈴木くん」
そう、全ては彼女と出会った日から、始まったのである。
◆
「おい、兄貴!! 起きろ!! もう朝飯できてんぞ!!」
「んぅ、あと五分間……」
「おら!!」
「へぶっ!! お、おま、兄の腹に容赦なく拳を叩き込むとか、どんな教育されてんだ!!」
「うっせー!! 飯が冷めんだろ!! さっさと着替えて顔洗え!!」
俺の名前は
筋肉ゴリラな親父の血を濃く受け継いだせいか、図体ばかりデカくなってしまった準ゴリラ。
それが俺、鈴木一馬という男だ。
両親は海外で働いており、今は一つ下の妹の
まあ、俺は家事がまるでなってない駄目な男、略してマダオなので、家のことは晶が全部やってくれているんだが……。
もう少し、お兄ちゃんに優しくして欲しい。
俺の心はガラスなんだ。強く当たられると簡単に割れてしまう。
「お、今日の朝飯は目玉焼きと味噌汁、白米か。しかも味噌汁は俺が好きな油揚げマシマシの味噌汁!! 最高だね」
「うるせーよ。さっさと食え」
「へいへい」
口は悪いが、俺の好物をよく作ってくれる妹はツンデレなのだろうか。
「じゃあアタシ、もう学校行くから。ちゃんと家の戸締まりしとけよ!!」
「おう、いってらー」
「行ってきまーす!!」
晶が通う中学は結構遠いところにある。
対して俺が今年の春から通っている高校は、自宅付近にある駅から電車で一駅行った先。
その駅で降りれば、目と鼻の先の距離にある学校なのだ。
つまり、割と遅い時間に家を出ても、余裕で間に合ってしまうのだ。
だから晶とは家を出る時間に差ができてしまう。
中学時代は一緒に登校して、近所で噂のおしどり兄妹だったのになぁ。
今は何か言うと拳が飛び出すバーサーカーになってしまった。
これが反抗期って奴だろうか。
「っと、そろそろ出なきゃ不味いな」
俺は食器を片付けて、家を出る。玄関の戸締まりも忘れない。
「だいふくー、今日も留守の我が家を守っといてくれよなー」
「わふっ」
だいふくというのは、うちの庭で飼っている大型の犬の名前だ。
全身が真っ白なのでだいふく。
名前を考えたのは大福が大好きなうちの妹、晶である。
自宅の鍵はだいふくの犬小屋の床下にある隠しスペースに入れて、鍵もしておくので防犯は問題無い。
何よりうちのだいふくは不審者が近づくと吠えるからな。我が家の頼れる番犬だ。
「っと、急がないと電車が来ちゃう。んじゃ、だいふく、行ってきまーす」
「わふっ、わっふ」
俺は自宅を飛び出し、急いで駅へと向かう。
ちょうど俺が駅に到着したタイミングで、電車がホームに入ってくる。
満員と呼べる程ではないが、そこそこ人が多い。
俺と同じ高校の制服を着た女子生徒が多く、男子はあまり見られなかった。
そりゃそうだろう。
何故なら俺が先週から通っている高校は、去年まで立派な女子校だったのだから!!
ああ、先に言っておくと、下心は一切無い。
ただ俺には昔から友人と呼べるものができず、それを「周りには女子しかいないから」という理屈で誤魔化そうと元女子校の学校を選んだのだ。
我ながら天才の発想だね。
「ん? あれはうちのクラスの……」
人が多い電車の中で一際目立つ少女が一人。
美貌も然ることながら、純白の長い髪と真紅色の瞳の女の子。
名前は確か、
クラスではあまり目立たないが、コミュ力は普通にあってカースト中位に位置している女の子。
つまりは二軍グループってやつに所属している女子生徒だ。
背が低い割に胸がとても大きく、学校で初めて見た時は失礼ながら凝視してしまった。
下心は無いと言ったな? あれは嘘だ。
低身長白髪巨乳美少女と来て下心を抱かない男は男じゃない。
それにしても古神のやつ、顔色が悪いな……。
「ん?」
古神の背後に、太った男が近寄る。
やたらと脂ぎっており、なんというか、もの凄く嫌悪感のある容姿の男だった。
親父の血の影響で背が高い俺は、周囲より頭一つ分高い場所から辺りを見渡せる。
だからこそ、気付くことができた。
その男が古神の身体に手を伸ばそうとし、今にも痴漢しようとしていることが。
これは許せん。
古神みたいた美少女を痴漢なんて、それはもう極刑だ。
ここはあの脂ぎった男に、痴漢の怖さというものを教えてやろう。
俺は人の間を縫うように移動し、脂ぎった男の背後に立って一言。
「おっさん、良いケツしてんじゃねーか」
「ヒッ!!」
痴漢する奴は、痴漢される恐怖が分からないから痴漢なんかするんだ。
自らのケツが危ないと悟ったのか、脂ぎったおっさんは慌てて別の車両へと逃げ出した。
ふん、口ほどにもない。
まあ、未遂なので見逃してやろう。
「……す、鈴木くん?」
「あ、どうも鈴木です。じゃ」
「あ、ま、待って!!」
電車の中で大声を出し、周囲の注目を浴びる古神。
自分でも思っていた以上の声が出たのか、恥ずかしそうに俯いた。
なんだこの生き物、可愛いなぁオイ。
「えっと、さ、さっきの人から助けてくれたんですよね?」
「いや、助けたって程じゃないけど……」
「その、あの人いつも私の後ろに立って、鼻息荒くしてて……その、凄く怖くて。今日に至っては触られそうになって……だ、だから、その、えっと」
「?」
何か言いたそうにしているが、古神が口ごもる。
そうこうしてるうちに電車が駅のホームで止まり、人が一斉に外へ出始めた。
「えっと、じゃあまた、学校で」
「え? あ、う、うん。ま、また学校で……」
「おう」
俺は人の波に混じって電車を降り、学校へと向かうのであった。
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