電車で痴漢されそうな同級生の女の子を助けたら、クラスの二軍女子グループと仲良くなった件。

ナガワ ヒイロ

第1話 天才的な発想でぼっちを誤魔化す





 俺は友達が少ない。


 すまん、見栄を張った。実を言うと、友達が一人もいない。いたことすらない。ぼっちである。


 子供の頃から人と話すのがどうも苦手なのだ。


 あ、別にコミュ障ってわけじゃないよ?

 必要最低限のことは話せるし、周囲と関わりを持つことはできる。ただ維持ができないだけである。


 しかし、高校生にもなって友達が一人もいないのは色々と不味いだろう。


 だから俺は言い訳を作った。


 俺が高校生になる年から、自宅から電車で一駅先にある女子校が共学化すると聞いたのだ。


 女子校から共学化したばかりの学校は、きっと女子生徒が多いはず。

 すると、自然に男子という存在は浮いてしまう。


 そう、友達がいないのは俺のせいではなく、周りに女子しかいないから、ということにするのだ。


 我ながら天才の発想だね。


 俺はそう思って、私立神薙女子学園高校もとい、私立神薙学園高校の受験をしたのだが……。



「ねー、かずかずー!! るりるりが辛辣だよぉ!!」


「何が辛辣やの。うちは事実言っとるだけやし。なあ、一馬かずまはん?」


「あらあら、うふふ。一馬さんが困ってるわ、二人とも」



 一馬というのは、俺のことだ。


 そう。

 俺はどうしてか、クラスの二軍女子グループに囲まれていた。


 いや、二軍と言っても、それぞれが結構ハイレベルな美少女たちだ。


 どうして友達が一人もいない俺が、女子たちに囲まれているのか。


 全てはそう、あの日から始まった。



「あ、お、おはようございます、鈴木くん」



 そう、全ては彼女と出会った日から、始まったのである。











「おい、兄貴!! 起きろ!! もう朝飯できてんぞ!!」


「んぅ、あと五分間……」


「おら!!」


「へぶっ!! お、おま、兄の腹に容赦なく拳を叩き込むとか、どんな教育されてんだ!!」


「うっせー!! 飯が冷めんだろ!! さっさと着替えて顔洗え!!」



 俺の名前は鈴木すずき一馬かずま


 筋肉ゴリラな親父の血を濃く受け継いだせいか、図体ばかりデカくなってしまった準ゴリラ。


 それが俺、鈴木一馬という男だ。


 両親は海外で働いており、今は一つ下の妹のあきらと二人暮らしをしている。


 まあ、俺は家事がまるでなってない駄目な男、略してマダオなので、家のことは晶が全部やってくれているんだが……。


 もう少し、お兄ちゃんに優しくして欲しい。


 俺の心はガラスなんだ。強く当たられると簡単に割れてしまう。



「お、今日の朝飯は目玉焼きと味噌汁、白米か。しかも味噌汁は俺が好きな油揚げマシマシの味噌汁!! 最高だね」


「うるせーよ。さっさと食え」


「へいへい」



 口は悪いが、俺の好物をよく作ってくれる妹はツンデレなのだろうか。



「じゃあアタシ、もう学校行くから。ちゃんと家の戸締まりしとけよ!!」


「おう、いってらー」


「行ってきまーす!!」



 晶が通う中学は結構遠いところにある。


 対して俺が今年の春から通っている高校は、自宅付近にある駅から電車で一駅行った先。

 その駅で降りれば、目と鼻の先の距離にある学校なのだ。


 つまり、割と遅い時間に家を出ても、余裕で間に合ってしまうのだ。


 だから晶とは家を出る時間に差ができてしまう。


 中学時代は一緒に登校して、近所で噂のおしどり兄妹だったのになぁ。


 今は何か言うと拳が飛び出すバーサーカーになってしまった。

 これが反抗期って奴だろうか。



「っと、そろそろ出なきゃ不味いな」



 俺は食器を片付けて、家を出る。玄関の戸締まりも忘れない。



「だいふくー、今日も留守の我が家を守っといてくれよなー」


「わふっ」



 だいふくというのは、うちの庭で飼っている大型の犬の名前だ。


 全身が真っ白なのでだいふく。

 名前を考えたのは大福が大好きなうちの妹、晶である。


 自宅の鍵はだいふくの犬小屋の床下にある隠しスペースに入れて、鍵もしておくので防犯は問題無い。


 何よりうちのだいふくは不審者が近づくと吠えるからな。我が家の頼れる番犬だ。



「っと、急がないと電車が来ちゃう。んじゃ、だいふく、行ってきまーす」


「わふっ、わっふ」



 俺は自宅を飛び出し、急いで駅へと向かう。


 ちょうど俺が駅に到着したタイミングで、電車がホームに入ってくる。


 満員と呼べる程ではないが、そこそこ人が多い。


 俺と同じ高校の制服を着た女子生徒が多く、男子はあまり見られなかった。


 そりゃそうだろう。

 何故なら俺が先週から通っている高校は、去年まで立派な女子校だったのだから!!


 ああ、先に言っておくと、下心は一切無い。


 ただ俺には昔から友人と呼べるものができず、それを「周りには女子しかいないから」という理屈で誤魔化そうと元女子校の学校を選んだのだ。


 我ながら天才の発想だね。



「ん? あれはうちのクラスの……」



 人が多い電車の中で一際目立つ少女が一人。


 美貌も然ることながら、純白の長い髪と真紅色の瞳の女の子。


 名前は確か、古神こがみだったか。


 クラスではあまり目立たないが、コミュ力は普通にあってカースト中位に位置している女の子。

 つまりは二軍グループってやつに所属している女子生徒だ。


 背が低い割に胸がとても大きく、学校で初めて見た時は失礼ながら凝視してしまった。


 下心は無いと言ったな? あれは嘘だ。


 低身長白髪巨乳美少女と来て下心を抱かない男は男じゃない。


 それにしても古神のやつ、顔色が悪いな……。



「ん?」



 古神の背後に、太った男が近寄る。


 やたらと脂ぎっており、なんというか、もの凄く嫌悪感のある容姿の男だった。


 親父の血の影響で背が高い俺は、周囲より頭一つ分高い場所から辺りを見渡せる。


 だからこそ、気付くことができた。


 その男が古神の身体に手を伸ばそうとし、今にも痴漢しようとしていることが。


 これは許せん。

 古神みたいた美少女を痴漢なんて、それはもう極刑だ。


 ここはあの脂ぎった男に、痴漢の怖さというものを教えてやろう。


 俺は人の間を縫うように移動し、脂ぎった男の背後に立って一言。



「おっさん、良いケツしてんじゃねーか」


「ヒッ!!」



 痴漢する奴は、痴漢される恐怖が分からないから痴漢なんかするんだ。


 自らのケツが危ないと悟ったのか、脂ぎったおっさんは慌てて別の車両へと逃げ出した。


 ふん、口ほどにもない。


 まあ、未遂なので見逃してやろう。



「……す、鈴木くん?」


「あ、どうも鈴木です。じゃ」


「あ、ま、待って!!」



 電車の中で大声を出し、周囲の注目を浴びる古神。


 自分でも思っていた以上の声が出たのか、恥ずかしそうに俯いた。


 なんだこの生き物、可愛いなぁオイ。



「えっと、さ、さっきの人から助けてくれたんですよね?」


「いや、助けたって程じゃないけど……」


「その、あの人いつも私の後ろに立って、鼻息荒くしてて……その、凄く怖くて。今日に至っては触られそうになって……だ、だから、その、えっと」


「?」



 何か言いたそうにしているが、古神が口ごもる。


 そうこうしてるうちに電車が駅のホームで止まり、人が一斉に外へ出始めた。



「えっと、じゃあまた、学校で」


「え? あ、う、うん。ま、また学校で……」


「おう」



 俺は人の波に混じって電車を降り、学校へと向かうのであった。

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