第4話
「ッ!!?」
悪夢から目覚め、跳ねるように起き上がったレティシアは、荒い深呼吸を繰り返しながら息を整える。窓から見える外の景色を眺めれば、日が昇り始めたぐらいの時間だった。
「……最悪」
レティシアはそう呟いて溜息をつく。恐らく、時間が経てばルクレティア辺りが自分を呼びに来るかと思ったが、あの夢のせいで気分を変えたいレティシアは部屋を出た。
部屋を出て、あてもなく歩いているが、誰の姿も確認出来なかった。あえて人気が少ない区画に案内したか、レティシアがいるので寄って来ないかのどちらかだろう。と、レティシア的にはどちらでも構わないようなそんな考えが頭をよぎった時、ある部屋が目に留まり立ち止まる。
「……花……」
その部屋は、辺り一面多種多様な花々が咲き誇っていた。
『もし……本当に外に出られるなら……花畑を見てみたい……』
この美しく咲き誇る花々を見たせいか、マナが言った言葉を思い返す。
「そんな場所で眺めてないで近くで見ればいい」
突然背後から声がして後ろを振り返ると、そこには黒髪のショートヘアで黒い瞳の少女が、ジョウロを手にして立っていた。
どうやら、花に水をやりにきたのだと思い、レティシアはすぐに道を空けた。少女はレティシアの存在に臆する事なく花の水やりを始める。そんな少女の姿をぼんやりと眺めていたレティシアだったが
「入って来ないの?」
レティシアの方を振り向いて少女が声をかけてきた。レティシアは思わず「いいの?」と確認すると、少女は小さく首を縦に振る。
レティシアが部屋に入ってからも、少女はレティシアを気にする様子もなく花の世話する。レティシアの目に、少女と数種類の花を笑顔で育てていたマナの姿が重なって見えていた。
「……花……好きなの?」
思わずそんなくだらない質問をしてしまうレティシア。好きでなければこんな美しい花々を育てられるはずがないのに。当たり前だが少女はまた小さく首を縦に振る。
「ん。花は綺麗。それに、私でもこれだけの花を咲かせられるのが嬉しいから」
黒の魔力を持つ者は汚れていて、花々も触れるだけ枯らしてしまう。小さい頃から誰もがそう教わってきた。レティシアもそうだ。故に、少女の言葉を聞いてレティシアますます少女とマナの姿が重なって何とも言い表せない気持ちになる。
「おっ、ここにいたか。お〜い!レティシア。朝食いるだろ?案内するぜ」
ルクレティアが部屋の前でレティシアを呼んだので、レティシアはすぐに振り向き「今行くわ」と言ってレティシアの方へ向かおうとする。
「来たいならいつでも来て」
少女にそう声をかけられ、驚いて少女の方を振り向くレティシア。
「花好きなんでしょ?」
少女は無表情でそう言った。少女の言葉に少し迷いながらもレティシアは答えた。
「……そうね……嫌いじゃないわ。この世界よりは……」
そう言ってレティシアは、今度こそ少女の方を振り向く事なくルクレティアの方へ向かった。少女は、そんなレティシアの言葉を気にした様子もなく、再び花の世話を再開した。
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