過去話1

  4年前、レティシアが黒の魔女マナをエルメシア王国から連れ出し数週間後の話……


「もう日も沈み始めたし……今日はここで野宿かな?」


「うん。そうだね……」


レティシアの言葉に素直に頷くマナ。2人はすぐに野宿の準備を始める。貴族の令嬢だったレティシアに、ほぼ生まれた時から黒の魔女を閉じ込める施設にいマナも、数週間何度も野宿の経験をすればもう手慣れたもので、あっという間に準備は完了。もちろん、レティシアは誰も侵入してこないように不可視の結界を張る事も忘れない。


  そして、2人他愛のない会話をしながら用意したご飯を食べ、簡易寝袋に入り夜空を見上げた。

  世界の全てが醜く汚いと感じていたレティシア。が、不思議と愛しい人と一緒に見上げる夜空はとても綺麗だと感じ、そんな風に思う自分にレティシアは自然と笑みが溢れる。


「ん?どうしたの?シアちゃん。私の顔に何かついてる?」


レティシアが自分を見て笑っていると勘違いしたマナが首を傾げる。あながち間違いではないが、そんな愛しい人の可愛さについ悪戯心が芽生える。


「うん。口元に食べカスが付いてる」


「えっ?どこどこ!?どこに付いてるの!?」


レティシアに嘘の指摘をされ、マナは慌てて自分の口元を触れて確かめる。そんなマナの手を掴んで口元から離し、自分の唇でマナの唇を塞ぐ。


「んぅ!?」


「……はい。取れたよ」


ニヤッと笑ってそう言うレティシアに、揶揄われたと気づいたマナは、顔を真っ赤にして怒る。


「もう!シアちゃん!食べカス付いてるなんて嘘でしょ!」


「あっ、バレた」


レティシアが舌をペロっと出してそう言うと、マナは「もうッ!」と言ってそっぽを向いてしまったので、レティシアは直ぐに謝罪の言葉を口にした。


「ごめん。マナがあまりにも可愛いかったからつい……」


何度か謝罪の言葉を聞いてようやく機嫌を直したマナは、ようやくレティシアの方に向き直った。まだ少し膨れっ面ではあるが、そんな姿もレティシアは愛おしいと思えた。


  そして、また2人は再び静かに夜空を眺める。しばし、2人共を静かに夜空を眺めていたが、ふいにマナがその静寂を破った。


「……星空が綺麗だね。シアちゃん」


それは、何気ない一言。だが、それはマナにとってかけがえのない一言であるとレティシアは知っている。何故なら、マナは空を見上げる事すれ出来ない場所にずっと監禁され、星空が綺麗だと感じる事すら出来なかったのだから……


「シアちゃんに一緒にこの国を出て、誰も知らない場所で2人で暮らそう。って、そう言われた時は色々迷いはあったけど、今ならシアちゃんと一緒に国を出て良かったと思ってるよ」


「マナ??」





「だからね……シアちゃん……」


気づくと、寝袋は消え真っ黒な空間に、レティシアとマナだけしかいなくなっていた。しかも、先程はあれだけ近かった2人の距離もだいぶ離れてしまっている。


「マナ!?マナッ!!?」


どれだけ足を動かして走ろうとしても、前に進めず、マナとの距離を縮められないどころか、どんどん遠ざかっていく。


「シアちゃんは……私の事は忘れて……幸せになって……」


「待って!?マナ!?お願い!?マナあぁ〜!!?」










「愛してるよ……シアちゃん……」


そう言って、マナの首が切断されその場に転がり落ちる。4年前に見たあの断頭台と同じように……


「いやああぁぁぁぁぁ〜ーーーーーーー!!!?」


レティシアの悲痛な慟哭が空間全体に響き渡っても、切断されたマナの首が戻る事はなかった……

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