第3話

  数秒お互いに沈黙し見つめ合っていた2人だが、ルクレティアはふぅと軽く溜息をつき


「まぁ、その辺りの話は明日にしよう」


と、言って片手を上げた。話をはぐらかそうとするルクレティアに疑いの眼差しを向けるレティシア。そんなレティシアを見てルクレティアは更に言葉を付け加える。


「別に今更お前さんを信用出来ないからとかで話さない訳じゃないさ。お互いにクロックダウンからこっちに来るまで色々あって疲れただろ?お前さんの事をちゃんと皆に伝達もしたいし、明日まで待ってくれないか?」


  ルクレティアにそう言われ、レティシアは先程の視線やルカの行動を思い出し納得した。あまり疲れはないが、自分の事をしっかりと伝達する必要性は十分に感じた。

  レティシアが自分の言葉に納得した様子を察したルクレティアは、辺りをキョロキョロを見回し、目的の人物を発見し声をかけた。


「お〜い!マリアナ!」


「は〜い。ルクレティアちゃん。御用かしら?」


ルクレティアに呼ばれてやって来たのは、腰まである長いウェーブのかかった青い髪に、青い瞳の女性だった。


「紹介するぜ。彼女の名前はマリアナ。この拠点で家事全般を取り仕切ってる。マリアナ。彼女がレティシアだ」


「あぁ、あの今噂になってる娘ね!初めまして。私はマリアナです。よろしくね。レティシアちゃん」


自分に物怖じせずにニコニコと挨拶を交わすマリアナに、若干驚きながらも「よろしく」とぶっきらぼうに返すレティシア。


「空き部屋が一つあったろ。あそこをレティシアの部屋として使わせたいんだが……」


「大丈夫よ。部屋の片付けや掃除も済んでるから」


「んじゃあ、案内任せても大丈夫か?」


「えぇ、任せてちょうだい」


  ルクレティアとマリアナがそう会話した後、ルクレティアはレティシアの方を向き


「という訳だ。今日はマリアナが案内する部屋で休んでくれ。その間に私とチェルシーで皆にお前さんの事伝えとくからさ」


「……いいの?私に部屋まで与えたりして」


「私の中ではお前は立派な私の協力者。つまり私の客人さ。だから、問題ないさ」


軽くそんな事を言うルクレティアにレティシアは溜息をつくも、話は終いだと言わんばかりに手を振ってルクレティアは去って行った。


「それじゃあ、レティシアちゃん。お部屋に案内するわね」


こっちは笑顔を浮かべながらそう言うマリアナに、若干の脱力感を味わいながらも、レティシアは大人しくマリアナに案内され部屋に向かった。




「ここが、レティシアちゃんの部屋よ」


マリアナに案内された部屋は、簡素なベッドが一つと、丸いテーブルと椅子が一つずつの質素でこぢんまりとした部屋だったが、マリアナが整えている為か、清潔感は保たれていた。


「何か部屋に関して問題があるようなら言ってちょうだいね。可能な限り何とかするから」


「……問題ないわ。ありがとう」


そもそも、4年間拘束されベッドに横になる事すら出来なかったレティシアにとっては、ベッドがあるだけ十分だった。

  久々の、ベッドがある部屋を見て少し気が緩んだのか、レティシアはふと疑問に思った事をぶつけた。


「貴方は黒髪・黒目じゃないのね」


レティシアの言葉に、マリアナはここで初めて若干の悔恨を含んだ表情を浮かべた。


「……そうね。私は黒の魔女でも、黒の成りそこないでもないわ。ただ、黒の魔女達の扱いに疑問を感じている人もいるわ。例えば……お腹痛めて産んだ子が黒髪・黒目だっただけで、奴隷と言う扱いで連れ去られた母親とか……ね……」


その表情とその言葉で全てを察したレティシアは


「……ごめんなさい。つまらない事を聞いたわ」


と、すぐに謝罪の言葉を口にした。それを受けたマリアナはまたすぐに笑顔を浮かべ


「気にしないで。レティシアちゃんが疑問に感じるのは当然でしょうから」


と言って、「それじゃあ、何かあったら呼んでね」と言ってマリアナは頭を下げ部屋を出て行った。

  部屋に1人になったらレティシアは、ベッドに腰掛け、窓から見える月夜を眺めている内に、やはり自身でも気づかず疲弊していたのか、そのまま知らず知らずのうちにに意識を閉した。

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