第2話

  先程よりもレティシアから距離を置いたチェルシーを、ルクレティアが宥め、ようやくチェルシーはレティシアに自己紹介を始める。と言っても、まだ距離を離しての挨拶だが


「あの…… 初めまして……私はチェルシーと言います。一応ノワールナイツに所属してますが、主は雑用とかサポートです……」


「これでも一応魔力はそこそこ高いんだが、戦いは嫌いらしくてなぁ……基本私は無理強いはしない主義だからな。この拠点の事とかで困った事があったらチェルシーに聞くといいぞ」


チェルシーの自己紹介に追加するようにルクレティアがそう付け加える。そして、ルクレティアからの「お前も自己紹介しろよ」と言わんばかりの視線を受け、レティシアは軽く溜息をついて自己紹介という名の挨拶を交わす。


「レティシアよ。私が世界を壊す邪魔をしなければ危害を加えるつもりはないわ。よろしく」


レティシアの淡々とした自己紹介を受け、チェルシーは頰を引き攣らせ、ルクレティアに耳打ちする。


「ちょっ!?この人世界を壊すとか言ってますよ!?本当に危険人物じゃないんですか!?」


「まぁ、私がやろうとしてる事は彼女の目的と重なるしな。それは、お前さんもよく知ってるだろ」


「それは……まぁ……確かにそうなんですけど……」


ルクレティアの目的を知っているチェルシーとしては、そう言われると何も言えなくなる。もう反論の言葉がないと分かり、ルクレティアはニィと笑い


「まぁ、そういう訳だ。彼女はまぁ……私達の協力者だって事で、私の名を通して皆に伝えてくれ」


「…………分かりました。けど、間違いなくルカちゃんはいい顔しませんよ」


チェルシーは軽く溜息をついてそう言った後、ルクレティアの言葉を伝える為に拠点に入って行った。


「さて、それじゃあ私達も行くか」


チェルシーが中に入って数分間その場で待機した後、ルクレティアはレティシアにそう声をかけた。


   拠点の中に入ると、早速レティシアは中にいる者達から様々な視線を受けていた。大半は聖女に対する畏怖だか、殺意や憎しみの視線をぶつけてくる者もいた。ただ、少数ではあるがレティシアの美貌に見惚れる視線もあった。


「悪いな。ここは基本黒の魔女や、黒の魔力を得られなかった黒の成りそこないと呼ばれてる子達ばかりたからな。元とは言え聖女であるあんたにいい感情を抱けないんだ」


レティシアが受けてる視線を察したルクレティアがそう言うと、レティシアは「別に気にしないわ」とだけ答えルクレティアについて行く。






「団長から離れろッ!!!聖女!!!」


そんな叫び声と同時に、レティシアの前に魔力が練られた火球が飛んできた。が、すでに察知していたレティシアはその飛んできた火球を片手に魔力を込め触れるだけでかき消した。

  そして、レティシアの前に、黒い髪に一部だけ赤が混じった黒い瞳のチェルシーと同じぐらいの少女が、レティシアに殺意の視線を向けて立っていた。


「おい!ルカ!?何やってんだ!?チェルシーからちゃんと話は聞いたんだろ!?」


突如、レティシアに襲いかかってきたルカと呼ばれた少女に、ルクレティアは慌てて声をかける。が、ルクレティアが声をかけても、ルカは殺意の視線をレティシアに向けたまま


「団長!!こいつは聖女です!しかもあの大罪を犯した聖女です!こんな奴!我々の協力者として信に置けませんッ!!」


ルカはそう言って再びレティシアに練り上げた火球を放とうとする。が、それを放つ前にルクレティアが黒の魔力で練り上げた剣で、ルカの火球を斬って消し去ってしまう。


「ッ!?団長ッ!!?」


「ルカ。団長命令だ。彼女は私達の協力者だ。敵対する事は私が許さん。皆も!いいな!?」


ルクレティアはルカだけでなく、騒ぎを聞きつけ集まってきた者達にもそう命じる。ルクレティアの一言で、周りの者達は「団長がそう言うなら……」と言って去って行ったが、ルカだけは未だにレティシアに殺意の視線を向け


「……絶対に私はお前を認めないからなッ!!」


と言って、一応は引き下がった。そんなルカの様子にルクレティアは軽く溜息をついた。


「すまんな。許してやってくれ。ルカの奴は特に聖女を嫌悪してるんだ」


「別に。問題ないわ。ただ、やはり私はここにいない方がいいんじゃないかしら?」


ルカや先程まで受けていた視線を鑑みてレティシアはそう言うと、ルクレティアは再び溜息をついた。


「……ここの者の大多数は聖女によって酷使された者が多いんだ。特に、ルカは赤の国の生まれだからな……」


「赤の国?」


赤の国とルカのあの態度が結びつかず、レティシアは首を傾げる。


「あんた。赤の国の聖女の事をどこまで知ってる?」


「脳筋の戦闘狂」


4年前、聖女会談で何度か交わした会話と、大罪を犯し、戦ったあの時の赤の国の聖女フレアの印象を率直に伝えた。


「脳筋か私にはよく分からんが……戦闘狂は当たりって言うか、有名な話だな。彼女は戦う事を誰よりも好んでいる。彼女が従うのは自分よりも強い奴のみだ。まぁ、だから大聖女アメリアの言葉には素直に従ってる」


確かに、4年前に彼女と初めて戦いという場で会った時も、他の聖女の言葉は一切無視して自分に襲いかかってきたのをレティシアは思い出していた。アメリアの言葉には渋々ながらも従っていた様子も……


「んで、そんな戦闘大好きな聖女様は、1日に一回以上は戦わなきゃ気が済まない性分だ。最初こそは、それを魔物との戦闘で補っていたんだが、聖女様があまりにも狩尽くすから赤の国ではすっかり魔物がいなくなっちまってな。まぁ、民からしたら嬉しい限りだろうが……」


魔物は自然災害と同じくどこからでも沸いてくる。いくら倒してもすぐに沸いてくるので、各国も定期的に狩ってはいるが、全く減らないのが実情である。それを、狩り尽くしてしまうというのはとんでもない話である。


「が、聖女様を支える神官達からしたら頭の痛い問題だ。なんせ、戦闘好きの彼女に戦闘をさせられないんだからな。そこで、神官達が思いついたのが……」


「……黒の魔女達を差し出した訳ね……」


ここまで説明を受け察したレティシアがそう口にすると、ルクレティアが「その通り」と言って溜息をついた。


「ただ、赤の聖女様は戦闘が好きであっても、一方的に嬲るのが好き訳じゃない。だから、自分に勝てたら自由にしてやるっていう条件を出し、黒の魔女達を自分達に本気で向かってくるように仕向けた訳だが……まぁ、結果は……言わなくても分かるよな?」


フレアが未だに五体満足で生きている。それが、黒の魔女がフレアに本気で挑んだが敗北して2度と帰って来なかったという証だ。


「ルカの奴は、自分と同じ存在が赤の聖女殺されていく場面を何度も目にしている。んで、とうとうルカの番って時に私が何とか救出したんだ」


「……よく彼女から救出出来たわね」


「もちろん。真っ向から殺り合ったら負けてたさ。ハンデ付きの勝負を申し込んだ。私が一撃を入れたら私の勝ちってルールでな」


  ルクレティアは事もなげにそう言うが、フレアと直接対峙した事のあるレティシアは、あのフレアに一撃を入れたというルクレティアにたいして驚愕の視線を向ける。


「まぁ、とりあえず勝負は私が勝ったから、私もルカも解放してもらった。んで、ルカは私達の元で鍛えられ、一人前のノワールナイツとして活動出来るようになり、各国の聖女も黒の魔女達を自分達と同じような扱いをしているのを目にして、ますます聖女への憎しみが募っていたという訳さ」


「………やっぱり、私はいない方が平和に過ごせるんじゃないかしら?」


黒の魔女達の実情を改めて知ったレティシアはそう口にしたが、ルクレティアは首を横に振った。


「この世界を壊したいあんたの目的は私の目的と重なってる。そして、私の目的を達成するには、あんたの力が絶対に必要だと……クロックダウンの一件で更に確信したよ」


「……そう言えば、まだ聞かされてないけど……貴方の達成したい目的って何?」


レティシアはルクレティアの瞳を真っ直ぐ見てそう尋ねた。

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