聖女会談
聖女会談。文字通り各国の聖女が集い話し合う場である。聖女ならば、どんなに離れていても聖樹を通し会話を行う事は可能ではあるが、かなりの魔力を必要とする為、年に数度決められた日と、緊急性の高い日にしか行われる事はない。そして、今回はその決められた日ではない急遽開かれた会談である。議題はもちろんクロックダウンの惨状についてである。
「それで、クロックダウンを消滅させたのは大罪の聖女レティシアで間違いないのね?」
藍の聖樹を抱える藍の国の聖女アイシアが、クロックダウンの調査に同行した、青の国の聖樹を抱える青の国の聖女アクアに尋ねた。
「はい。間違いありません。クロックダウン跡地に実際に赴きましたが、間違いなく4年前と同じ……あのレティシアと同じ魔力を感じました……」
「あははは!それは困った事になったねぇ〜!」
アクアの言葉に、黄の聖樹を抱えし黄の国の聖女クレアが、とても困ってるように見えない笑顔でそう答えた。
「クレアさんの言う通り。これは確かに由々しき事態です。今はごく一部の者しか知らされていませんが、いずれは世界中の人々に知られるでしょう。それは、混乱を招き世界を乱す要因となるでしょう」
クレアの言葉に、橙の聖樹を抱えし橙の国の聖女ウェンティは淡々とそう答える。
「はっ!だったら!4年前と同じだ!もう一度あいつをぶっ倒してやればいいんだよ!」
勝ち気な発言をするのは、赤の聖樹を抱えし赤の国の聖女フレアである。フレアの発言に、アイシアはまるで小馬鹿にするように溜息をついた。
「はぁ〜。これだから脳筋聖女は困ります。退治するにも、4年前と同じ訳にはいかないから、こうして会談を行っているのでしょう」
「はっ!じゃあ!だったら奴を倒す意外に何か策はあるってのかよ!?自称頭脳派の聖女さんよぉ!?」
フレアの言葉に、アイシアは舌打ちをするも、返す言葉は出てこない。アイシアもフレアの意見が正しいのは分かっているし、そうするべきであるとは思っている。しかし……
「落ち着いてください。お二人共。フレアさんの言葉通り、大罪の聖女を倒すのが正しいと思います。しかし、大罪の聖女がクロックダウンを消滅させたとなれば、彼女は4年前と変わらぬ魔力量を保有しているとしか思えません」
「今や名前だけの古い監獄施設とは言え、建築資材に使われているのはどれも魔力耐性の高いのを使ってるしねぇ〜!」
ウェンティの言葉に、クレアはケラケラと笑いながらそう返す。
「で、あるならば……4年前と同じく我々が集って彼女を退治するしかないでしょう。しかし、それは現状難しいのは皆さんご存知であるはずです」
4年前、レティシアが緑の聖樹を枯らし消滅させて以降、世界を乱す黒の魔力が溢れ出してきていた。緑の聖樹が消えた事により、聖樹による世界の浄化が行き渡らせる事が出来ていないのが要因と思わられている。
故に、聖女達は常に聖樹に力を注ぎ込む事を求められ、自国の聖樹から離れられないのが現状である。よって、聖女達がレティシアを退治する為に動くのは不可能である。
「んじゃあ、どうするんだよ!?このまま奴を放置するってか!?」
フレアの言葉に、他の聖女は全員沈黙した。が、たった1人、紫の聖樹を抱えし紫の国の聖女アメリア。現在の聖女の中でトップの実力を誇る彼女が今ようやく口を開いた。
「このまま。皆さんには聖樹の守護の役割を果たし続けてください」
アメリアは皆に現状を維持せよと言った。現聖女の中でトップの実力である彼女の言葉は絶対だ。しかし、そうであってもアクアは口を挟まずにはいられなかった。
「おっ……!恐れながら!アメリア様!それは!あの大罪の聖女を放置せよという事ですか!?」
アクアが不安に思い口にした言葉、この場にいる誰もが思った事だ。ただ、アメリアの言葉が絶対で口に出せなかっただけで……
「いいえ。放置するという訳ではありません」
アクアの発言に機嫌を害した様子もなく発言するアメリアに、アクアは安堵の息を吐きつつもアメリアの言葉に耳を傾ける。
「フレアさんの言葉通り、すぐに彼女を退治するのが正しい選択肢でしょう。しかし、彼女は4年間脱獄しなかったクロックダウンを脱獄し、クロックダウンを消滅させました。つまり、彼女の脱獄には第三者の介入があったと思われます」
「まさか……ノワールナイツ……」
アメリアの言葉に、ウェンティは真っ先に思い浮かんだ言葉を口にした。
聖女達も、かつて黒の魔女達によって組織されたノワールナイツの存在は知っていた。実際、ノワールナイツによって世界にかなりの被害が出たが、それもかつての聖女達により鎮圧された。そのかつての聖女達の1人がアメリアである。
鎮圧されて以降は、その名はあまり聞かれなくなったが、黒の魔女と思わしき者達が組織だって、黒の魔女や、黒の魔力を持たずとも黒髪・黒目になった黒の成りそこないと呼ばれる彼女達を救い出しているという噂は聖女達も耳にしていた。
「ウェンティさんの言う通りでしょう。黒の魔女や黒の成りそこないに対する不満を持つノワールナイツ。世界に憎しみを持つ大罪の聖女。両者が手を組んでも何もおかしくはありません。そうであるならば、4年前と違い、彼女1人だけに対応していては、後ろを突かれる可能性があるでしょう」
4年前は1人だったレティシアも、今はノワールナイツという組織と一緒にいる可能性が高くなった。そうなると、アメリアの言う通りレティシアにばかり目を向けていたら、ノワールナイツに聖樹を狙われる可能性がある。
「どのみち、彼女の狙いは世界を破滅させる事。ならば、狙いは聖樹と私達でしょう。故に、こちらから仕掛けなくてもいずれ彼女の方からやって来るでしょう。その時、皆さんでそれぞれ対処する。それでいきましょう」
アメリアの言葉に全員が数秒間沈黙を貫いた。それが肯定とみなされ、本日急遽開催された聖女会談は終了した。
「ふふふ……とうとう始まるのね……女神へと至る聖女達による聖戦が……」
月夜を眺める1人の聖女がそう口にしなが微笑みを浮かべていた……
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