プロローグ3

  レティシアの返答を聞いて、ルクレティアはニィと笑い


「よし!それじゃあ契約成立って事で……まずはあんたを連れ出す為にもその拘束具を外さなきゃなんだが……」


レティシアを拘束している物は、魔力封じの腕輪に足枷、更に鎖は対象の魔力を吸収して外に放出するという物だ。早く外さなければ、魔力を全て吸い出され命を失う危険があるので、さっさと拘束具を外したいのだが、流石に見張りだけに拘束具の鍵を渡すようなざるな警備はしていなかった。

  ので、拘束具の鍵を所持していないルクレティアは「さて……どうしたもんか……」と呟くと、レティシアが再び口を開いた。


「ねぇ……この鎖だけでも貴方の魔法で断ち切れない?」


「あぁ?まぁ、それぐらいなら出来なくもないが……」


ルクレティアはノワールナイツの団長として、レティシアのように拘束された黒の魔女を救出してきた。いくら最高峰の監獄島で使われている拘束具の鎖でも、それぐらいなら断ち切る自信はルクレティアにはあるのだが……


「だが、その魔力を封じている手枷と足枷は無理だ。そいつは魔力を絶対通さない特殊金属アダマントが使われているからなぁ……」


特殊金属アダマント。その金属は魔力を全く通さず、アダマンに魔法を放っても打ち消されてしまう程だ。故に、盾や鎧、レティシアのような犯罪者を拘束する道具として使われている。

  ただ、希少な金属である為、滅多にアダマントが使用された道具を使われる事はない。現に、鎖はアダマントは使用されていない。まぁ、鎖には対象の魔力を吸い上げて、世界に放出する役目がある為、アダマントではその役目を果たす事が出来ないというのもあるのだが……


「問題ないわ。鎖さえ断ち切れば後はどうとでも出来る」


レティシアはキッパリとそう言い切ったので、ルクレティアは数秒悩んだが、鎖を断ち切った後で腕輪と足枷はどうにかすればいいかという結論に至った。


「オッケー。それじゃあ……やりますか……」


ルクレティアは魔力で練り上げた黒い剣を出現させ、それを手にし、レティシアを拘束する鎖を断ち切った。


  ジリリリリリリッ〜ーーーーーー!!?


「レベルXに侵入者だ!!」


「黒の魔女がいるぞ!?」


「目的はまさか……大罪の聖女か!?」


鎖を断ち切った瞬間、大音量のサイレンが鳴り、軍用に躾けられた魔獣を引き連れたクロックダウンの兵士達がルクレティア達の所へ集まってきた。その状況にルクレティアは舌打ちする。


「ちっ!鎖にも無理矢理外された時の仕掛けがしてあったか……まいったねぇ……これは……」


兵士の数は軍用魔獣を含めてもざっと2、30以上はいる。まだこの場に駆けつけていない者もいるだろうから、魔法を封じられた状態のレティシアを守りながらそれらを蹴散らすのは、ルクレティアでも至難の技だ。


  絶対絶命の状況のルクレティアだったが、突如、背後から強大な魔力を感知し、ゾクっと背筋に悪寒が走った。

  何事かとルクレティアが後ろを振り向くよりも先に、背後から強風が吹き荒れ、ルクレティアは思わず目を瞑った。そして、目を開けると……


「なっ……!?」


  先程まで自分を捕らえようとした兵士達が全員首を切断され血を吹き出し倒れていた。軍用魔獣も同様にである。ルクレティアはその光景にしばし呆然と固まったが、すぐにハッと我に返り後ろを振り向くと


「……マジか……」


そこには、レティシアが冷たい瞳で、死体となった兵士達を見下ろしながら立っていた。しかも、アダマントで作られたはずの腕輪や足枷を、粉々に破壊して……

  そのあまりにもあり得ない光景に、驚愕の表情を浮かべるルクレティアだったが、また再びここへやって来ようとする兵士達の声が聞こえ、レティシアはその美しい顔を歪めて舌打ちする。


「面倒ね……とっとと終わらせるか……」


「終わらせるって……って!?うわあぁ!?」


まるで荷物を担ぎ上げるかのようにレティシアの片腕に抱えられるルクレティア。その後、レティシアは天井をぶち壊し空高く飛んだ。


「マジか……いくら古い監獄施設とは言え、かなり魔力耐性のある石材で作られてんのに……」


が、レティシアの行動はそれだけでは終わらなかった。かなりの距離を飛び上がった後、そこで止まって浮遊し、片手を上げると、そこからクロックダウン全体を覆い尽くすような強大な魔力の球体が出来ていて、ルクレティアはギョッとする。


「ちょっ!?一体何を……!?」


「もちろん。決まってるでしょ。ちょうど世界へのいい宣戦布告になるわ」


レティシアは練り上げたその魔力の球体をクロックダウンに向けて放つ。その魔力を受けた世界最大と言われた監獄島「クロックダウン」はあっという間に消滅。更に、その魔力によって強大なクレーターが出来、レティシアの魔力の影響なのか、そのクレーターを囲む海水が、クレーターの穴に入る事はなかった。


「それで……貴方は私をどう動かすつもりかしら?」


こんなとんでもない光景を生み出した張本人はまるで動じる事なくルクレティアにそう尋ねた。そんなレティシアを見てルクレティアはしばし呆然とした後、軽く溜息をつき


「やれやれ……これじゃあ……どっちが魔女と契約したのか分からないな……」


こうして、大罪の聖女レティシアは監獄島「クロックダウン」から脱獄した。「クロックダウン」を消滅させるというおまけ付きで……

が、これを知るの世界各国の王族と、高い地位を持つ貴族と聖女達だけである。世界の人々には魔力実験により「クロックダウン」は崩壊したと伝えられたのだった……

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