第2話 部活動体験

 これほどにも俺がスポーツに目を奪われたことがあるだろうか、いや、あるはずがない。そう思いながらフェンスにへばりついて見ていると、


 「君たちテニスに興味あるの?良かったらせっかくだし体験しない?」


 と、一人の男子生徒がこちら側に駆け寄ってきた。俺たちはその男のあまりの勢いに飲まれてしまい、ただ見学しに来ただけなので遠慮します、と言うこともできず、

そのままテニスコートの中へと足を踏み入れた。



 あー、来なければよかったと後悔したがもう遅かった。安田はやる気満々だし、もうシューズもはかされて、おまけにラケットも持っているのだ。

 

 「ようこそテニス部へ!キャプテンの如月勝太きさらぎしょうたです。よろしく!」

 

 キャプテンと名乗った男の人はまさにさっきの人だった。俺たちは如月先輩に次いで、軽い自己紹介をした。


 「じゃあ、早速だけど、まずはラケットの握り方から。ラケットを地面において、そのまま上から握ってください。」


 俺は先輩の言うとおりにグリップを握ってみる。おぉ、なんだかすごく持ちやすい。


 「これがフォアハンドのグリップの握り方です。まあ、スイングとかいろいろ説明したいことはあるけど、実際に打ってみたほうがはやいから、とりあえずやってみよう!」


 如月先輩にそう言われ、まだ握り方しか教わってないんですけどー、と内心思ったが、とにかくコートに立った。


 「今から俺が見本見せるから、みんな見ててね。」


 そう言って先輩は構えに入った。そしてボールが出ると、


 「タッ、タッ、スパーン!!」


 小刻みなステップから正確なフォームとスイングで放たれたショットは、美しすぎる放物線を描き相手コートに落ちた。


 「まあ、こんな感じかな。じゃあ、吉田君打ってみて。」


 いやいやいやいや大ざっぱすぎるよ、と言いたくなるが、そんなことを考えているうちにもうボールが来てしまう。よし、俺は如月先輩のフォームを見よう見まねでやって、思い切りスイングした。


 「スカーンッ!」


 俺のラケットは空を裂いた。人生初テニスの初球を空振り。


 やっぱりか、と俺は思った。そう簡単に俺に打てるわけがないんだ。

先輩は、


 「ドンマイ!今日初めてやるんだから仕方ないよ。」


 と慰めのような言葉をかけてくれたが、その時の俺にはどんな言葉も無意味だった。ただ、にじみ出る悔しさだけがあったのだ。


 続く安田は、なんと一発でラッケトに球を当て、それどころかしっかりボールをコート内に収めていた。


 「安田君すごいね!よく一発目であんな球打てるよ!」


 そんな先輩の言葉に俺はよけい惨めになって、体験中で楽しんでいる安田を置いて、一人帰路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る