ゲームセット

モヘンジョ・太郎

第1話 第一の出会い

 「キーンコーンカーンコーン」


 ようやく七限目の授業が終わった。俺は疲れ切った重い腰を上げ、真っ先に帰宅の用意をする、とまあこれがいつものルーティーンだ。


 中学の頃から帰宅部だった俺は高校生になってもろくに部活動に入らず、家に帰ってはすぐに大好きなゲームへと手が伸びてしまう。


 始めは俺もこのままでいいと思っていた。このまま何一つ変わりのない平凡な人生を送っていくのだろうと、そう確信していたのだ。


 そんなある日、いつものように帰る支度を済ませ、下駄箱へと足を運ぼうとしたとき、


 「よっつぁ、部活動見学行かね?」


 と、突然安田が声をかけてきた。こいつは中学からの友達で、ゲーム仲間の一人だ。いつもの調子のやつの言葉に一瞬ためらったが、


 「しゃーねーなぁ、行ったるよ」


 とだけ返事をして、そのまま校舎をあとにした。




 「俺、実は運動部に入ろうと思ってるんだよなー。よっつぁは?」


 「まだ決めてねぇんだよなぁ」

 

 いきなり痛いとこを突かれた俺は上手く身をかわすように答えた。


 「運動」。俺が世の中で最も嫌いで、生まれてからの16年間できる限り避け続けてきたことばだ。


 はっきり言って運動神経が悪い俺は、残念ながらスポーツとは無縁の存在であった。だから、体育の授業などという時間はもってのほかであった。


 そんな気持ちを押し殺して、俺たちは各運動部を回った。サッカー、バスケ、卓球、バレー、バドミントンといろいろな部活動を見て回ったが、安田はどれもしっくりきていない様子だった。もちろん俺は心底つまらなかった。


 「なあ、もうそろそろ帰ろうぜ。」


 おおよそ18時を回った時計を見て俺はそう言った。


 「それもそうだな。どの部活も楽しそうではあったけど、なんかこう、魅力を感じなかったなぁ。」


 「まあ、無理して部活に入らなくてもいいと思うぜ。それより、早く帰って今日の降臨クエスト一緒にやろうよ。」


 「当たんま!やっぱ行きつくのは結局ゲームかぁ(笑)」


 そんな会話をしながらまさに帰ろうとしたその時、


 「パコンッ! パァン!」


 どこからか、打球音が聞こえてきた。俺も安田も思わず気になって、自然と足が音の方向へと向いていた。体育館を通って裏庭を抜けると、そこにはあたり一面に緑の美しいテニスコートが広がっていた。


 「すげぇ。」


 俺は思わず小学生のリアクションのような声を上げていた。コート上を駆け抜け、そこから繰り広げられるショット。俺は一瞬にしてこの「テニス」という「スポーツ」に心を奪われた。


 これが俺とテニスとの運命の出会いだった。




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