答え合わせ④
大旗はサイダーのペットボトルを持って来て、コップに新しく注いでくれた。
「さっき、協力者にヒントを出させなかった理由について、出題者の身元がバレないようにって言ったよね。
クラスのみんなが協力して謎を解いて、それで仲良くなってもらうのが私の目的だった。出題者の姿がちらつくと、どうしても出題者と解答者の構造が生まれてしまって、仲間意識の邪魔になるように感じたんだ。だからみんなにも出来るだけ接触は避けるようにお願いしたし、何を訊かれても一切バラさないようにお願いした。――でもね、それはみんなを納得させるための表向きの、半分の理由」
えっ、と声が漏れる。視界の端では矢永も目を丸くしていた。どうやら矢永も知らなかったらしい。
「もう半分は、みんなが優しいから。困ってる君たちを見たら手助けしちゃうんじゃないかなって思って、接触を避けるように念を押したの」
大旗はハイネックで隠れている首の根本を指差す。
「中三の時に甲状腺の病気が見つかって、それ以来ずっと薬を服用しながら経過観察してたんだ。激しい運動ができないから体育にもあんまり参加できなかったし、検査で早退する日も多かった。でも、去年の一年間は充実した高校生活だったよ」
指差していた右手を降ろして胸の前に当てる。
「私の体調が悪くなったらすぐに気遣ってくれるし、受けられなかった授業の内容を教えてくれたり、一組のみんなが支えてくれたから、私は楽しい日々を送れたんだ」
窓の外に目を向ける。その瞳に映っているのは、青空よりももっと遠く、広い光景なのだろう。
「私、中学まではそんなに社交的じゃなかったんだ。普通に友達はいたけど、普通に同じクラスでも喋ったことがない人がいたりね。でもみんなの優しさに触れて、変わりたいって思った。全員と仲良くなりたいって」
「そういえば五月辺りからクラスで目立つようになってきてたね。それまでは大人しそうな印象だったのに、急に前に出るようになって」
「そんなにあからさまだったかな。でも、確かにその辺りからだったかも。私から積極的に話し掛けるようになったのは」
フフッ、と思い出したように噴き出す。
「一番大変だったのはアンナちゃん――雪松さんだったんだよ」
「あの絵を描かれた、方ですよね」
「そうそう。話し掛けても全然リアクションしてくれなくて。でも私も負けじと食らい付いていってね。迷惑そうな顔されても、何回も何回も。したらその内、心を開いてくれるようになってくれたんだ。次の一年一組の生徒に何か仕掛けたいって相談したときも、真っ先に協力するって言ってくれるぐらいになったんだよ」
「謎解きゲームをするっていうのは、ずっと構想にあったんですか?」
大旗は「んー……」と唸りながら腕を組む。
「最初は何か、私にできることはないかなーって漠然と考えてたんだ。それで色々案を出していく内に、次に入ってくる新入生たちも、私たちみたいに仲良くしてほしいなって思うようになって、そこから更に考えて最終的に謎解きゲームにしようって決定したの。協力プレイしやすいし、共通の目的があったら団結力も高まりやすいかなって。でもね、その段階ではまだ私と他の数人で実行するつもりだったんだ。けど……」
大旗の表情に暗い陰が落ちる。何が起こったのか、水城も知っていた。
「三学期に入ってから徐々に症状が悪化していって、期末試験の直前で検査入院することになったの。そこで手術が必要って話になって……。終業式の日までは学校に行って、三月の終わり頃から入院することが決まったの。その時に初めて、みんなに全部を打ち明けたんだ」
「まあ私は元々、もっと人数増やせって言ってたし。拒否する人もいないって分かってたからね」
「美瑠の言う通り、みんなすぐに協力してくれるって言ってくれた。そこからもっと分かりやすい方が良いんじゃないかとか、学校のことをもっと知れるような内容にしようとか、話し合ってみんなで作り上げていったんだ。二年になったらバラバラになっちゃうけど、最後に良い思い出作りができたよ」
だから、と大旗は水城の目を真っ直ぐ眺め、ゆっくりと頭を下げた。
「私たちの作った問題を最後まで解いてくれて、ありがとう」
その姿を見て、いつだったか廻立が言っていた台詞を水城は思い出した。
「出題する側は、解いてもらうために謎を作ってるから。見破られて悔しいって感情もあるけど、ちゃんと正解してくれた嬉しさもあるんだよね」
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