答え合わせ①

 四月二十二日 土曜日。

「緊張してる?」

 駅の南口を出てすぐの橋を渡りながら、矢永美瑠やながみるは水城に問い掛けた。橋の上は風が強く吹いており、矢永のミディアムロングの黒髪がなびいている。

「は、はい。少し……」

「大丈夫だよ。今日のことはもう本人にも話してるから。それに、緊張するような相手じゃないし」

 安心感を与える笑顔と声質とは裏腹に、矢永はきっぱりと言い捨てた。

 大通りを歩くこと二十分。「ここだよ」と矢永は一棟のマンションを指差した。結構前からすでに視界に入っていたそのマンションは、三十階はあるだろう、この辺りでは一番高層のマンションだった。

 自動ドアをくぐった奥には銀色の扉が行く手を塞いでいる。矢永は扉の右側に設置されたパネルに部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押した。しばらくして、

「はいはーい。美瑠?」

 陽気な声がマイクから聞こえてきた。

「そうよ。前に話した子も一緒に来てるから」

「りょーかい。今開けるね」

 矢永がマイクから顔を離すと、銀色の扉がひとりでに開いた。

 こ、これがオートロックか……。

 水城は初めて体験するシステムに高揚していた。

「どうしたの? 早く入らないと閉まっちゃうよ」

 水城が圧倒されている間に矢永は扉の内側に進んでいた。水城も慌てて後を追う。水城が入った瞬間に扉が閉じ始めたので間一髪だった。

「な、慣れてますね。矢永先輩」

「んー? そうだね。何度も来てるからね。私も最初は緊張したなー」

 エレベーターで十一階まで登る。十一階でも通路からの景色は壮観だった。目を凝らせば先程降りた駅舎の屋根も見えそうだった。最上階ともなると、一体どんな景色が広がっているのだろうか。

「あんまりキョロキョロしてると不審者みたいに見えるよ」

 矢永に優しく諭されつつ、目的の部屋の前に到着する。インターホンを鳴らすと、今度はすぐにドアが開いた。

「こんにちは。君が美瑠の言ってた、例の子かな?」

「は、はい。一年一組の、水城姫華、です。今日は、時間を頂いて、ありがとうございます」

「私は二年一組の大旗おおはたゆめ。よろしくね」

「ほら、緊張するほどの相手じゃないでしょ?」

「ちょっと! 私の先輩としての威厳が無くなるようなこと言わないで!」

「はは……」

 矢永はそう言うものの、水城はやはり緊張を禁じ得なかった。奥手だった自分が一人で初対面の上級生と話をする。それだけでも動悸が速くなる思いなのだが、水城が緊張していたのはもう一つ理由があった。

 確認の意味を込めて、水城は尋ねた。

「大旗先輩。あなたが、謎解きゲームの、出題者……ですか?」

 水城の問い掛けに、大旗は目を細めて悪戯っぽく笑った。

「うん。そうだよ」

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