第2問 忌避「友だちって必要か?」②
四月五日 水曜日。
二問目を発見できたグループは半分ほどだった。いずれも手のひらに収まる小さなサイズのテープだった。さらに鈴堂が見つけ出した隠し場所の法則性も明らかにされた。
「――てわけで、答えと同じ数字の場所にあるんだよ。ね、鈴堂さん!」
「え、ええ……」
なぜか法則性に気付いた鈴堂本人よりも廻立の方が誇らしげだ。
「そういえば確かに、二十一番のファイルに貼ってあったかも」
「俺らは後ろのロッカーにあったわ」
「あ、私んとこも」
発見したグループからの証言により、鈴堂の推測はどうやら正しいようだと裏付けされる。
「じゃああたしらは、13を探せばいいってことね。らくしょーじゃん」
横手の言葉に柳森は胸の中で同意する。
そして放課後、四人は再び二年一組の教室を訪れた。
「いらっしゃい」
教室には約束通り鹿島先輩が席に座って待っていた。昨日と違うのは、先輩一人だけではなかったことだ。椅子の背もたれに肘を付きながら先輩と向き合うように喋っていた女子生徒と、二人の奥に立っている女子生徒も、つられて柳森たちを見る。
「今日も好きに探していいよ。見つかるといいね」
「あ、はい! よろしくお願いしゃす!」
運動部特有の挨拶なのか、それとも単純に緊張で噛んだのか分からない前田の一声で捜索を開始する。
「え、なに?」
鹿島先輩の向かい側に座っていた女子生徒が不審げに眉を顰める。
「ほら、昼に話した……あの――」
「……ああ、あれね。マジでやってたんだ――」
「まじだよ~。だって――」
「ちょっカナ、しっ!」
本人たちは小声で話しているつもりかもしれないが、静かな教室では距離があっても断片的に話の内容が聞こえてくる。やはり鹿島先輩と、カナと呼ばれた先輩も裏の事情を知っているような口ぶりだった。
「センパ~イ。この教室に13ってありますかー?」
先輩三人に対して臆することなく突入する横手が、直球の質問をぶつける。
「じゅうさん? なにそれ」
不審がっていた先輩は本当になにも知らないようで、横手の突拍子の無い質問に苦笑していた。
「探せばあるんじゃないかな」
鹿島先輩は、はぐらかすような返事だった。
「ねえねえ、もう入る部活決めた~?」
一人グループから離れたカナ先輩は宝徳に絡んでいる。宝徳の声が聞こえないのは、先輩の前でも無言を貫いているからなのか、小声よりも小さい声を発しているのか。いずれにせよ関わると面倒臭そうなので、柳森はそそくさと教室の隅に逃げる。
逃げた先の、黒板の隣に掛かっているA3サイズのカレンダーが目に留まった。当然四月のページが開いてあり、一から三十までの日付が並んでいる。
「あ……」柳森の口から声が漏れた。
13日。
空欄には『校内草むしり 校庭南側』と予定が書き込まれた、何の変哲も無いただの一コマだ。
試しにめくってみる。五月の十三日にも何も無い。どこかの月にあるのかと再びめくろうとして、柳森は発見した。カレンダーの裏側、ちょうど四月十三日の場所に、手のひらに収まるほど小さな養生テープが貼ってあった。
これでやっと帰れる。そう思い、テープを剥がそうと伸ばしかけた腕を止める。この先に起こる展開を柳森は想像した。
見つけた、と柳森が意気揚々と声を上げる。そうすると前田と横手はまず間違いなく柳森の元にやって来るだろう。そして歓喜して騒ぐだろう。もしかしたら三人の先輩も輪に入って来るかもしれない。
喧騒の中央に自ら突撃するようなものではないか。できるだけ他人と関わりたくない。注目を浴びたくない。ひっそりと高校生活を送りたい。柳森の信条から最もかけ離れた行為だった。
柳森はめくり上げていたカレンダーを静かに降ろし、誰にも見られていないことを確認する。そして何事も無かったかのように、カレンダーの前から離れた。
それからは長い戦いだった。探している風を装いつつ、横目でカレンダーの方をチラチラと窺う。誰かがカレンダーに接近すれば「気付け!」と心の中で祈り、そのままスルーすれば「なんで気付かないんだよ!」とむかっ腹を立てる。時間が無駄に消費され、下校時間もどんどん遅くなる。在り処が分かっているのに終わらせられないもどかしさが苦痛だった。
矛盾しているのは柳森自身も重々承知している。それでも自分から声を上げようという発想は、最後まで現れなかった。
カナ先輩にしつこく付き纏われていた宝徳は、逃げるように教室の壁に沿って移動していた。
「気になるコとかいた~? まだ早いか~」
「……」
廊下側の窓に沿って教室の前方へと向かう。カレンダーの前で足を止めたのを、柳森は見逃さなかった。じっと見ている。おそらく、先程の柳森と同じことを考えているのだろう。予想は的中した。宝徳がカレンダーをめくる。そして――
「あれ、これって探してたのじゃない?」
素っ頓狂な声を出したのはカナ先輩だった。その声に吸い寄せられるように全員が集まる。
「これこれ、これだよ! やったじゃん!」
「宝徳さん、ナイス」
柳森が想定した通りの光景が広がっていた。一人だけ離れたままなのは逆に浮くだろうと、柳森もしれっと歓喜の輪に混ざった。
「見つかって良かったね」
誰に言うでもなく呟いた鹿島先輩を、柳森は横目で見た。しかしタイミング悪く目が合ってしまう。疑惑の念がこもった視線に気付いたのか、鹿島先輩は少しだけ柳森に近づき、耳元で囁いた。
「詳しくは言えないけど、私は出題者じゃないよ」
「え……、あ……」
何も答えられないでいた柳森に、鹿島先輩は悪戯っぽく笑ってみせた。柳森は途端に恥ずかしさでいっぱいになった。何に対しての羞恥心なのかは分からないが、とにかく身体が熱かった。誤魔化すように、たまたま回ってきたテープに視線を落とす。
『第2問‐11 41』
時間稼ぎにもならない数の数字が並んでいるだけだった。
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