第2話 白の賢者


 あら、我が始祖アルフレッド・ビュシュルベルジェールをご存じなのですね。ですが、そんなこと誰でも知っております。


 我がビュシュルベルジェールは建国以来、ずっと王族アルドアン家に仕えて参りましたの。ビュシュルベルジェール家の歴史、それはすなわちアルドアン王家の歴史でございますもの。


「誰でも知っているって? じゃぁ、俺だけしか知らないことを教えてやろう。アルフレッドと初代国王グランラン・アルドアンは相思相愛の仲だった。二人は愛をはぐくんだものの実らず、お互いにきさきを迎えた。国のためだ」


 次から次へと、よくもまぁ出まかせを。


 我が家と王家は古きよりえにしを結んでおるのです。むろん、この私も王太子ラファエル殿下と婚約しているの。自由恋愛とか、そんなふしだらな間柄ではございませんのよ。


「むむ。婚約しているとな。そうか。そなた、アルフレッドの生まれ変わりか。その感じ、確かにアルフレッド。そして、ラファエルとやらはグランラン。俺は黄泉の国に片足突っ込んでいるからか分かる。そういうことか。俺が転生出来なかったことが関係しているようだ。アルフレッドが女に生まれ変わったとなるとやはり運命の歯車はズレてしまっていた」


 私と王太子ラファエル殿下は運命、と申しますのね。おあいにくさま。あなた様に指摘されるまでもなく国民全員がそう思っておりますわ。


「まずいな。このままでは」


 あら、奇遇ですね。私もあなた様に構っている暇はないと思っておりました。一刻も早く王都に帰って王太子ラファエル殿下に私の無事をお知らせしませんと。


「あくまでも俺の言葉を信用しないっていうのだな。ならば見せてしんぜよう。俺に触れよ」


 あ、それはお断りします。私の艶やかな肌は王太子ラファエル殿下のためにあるのです。何かあったら申し訳が立ちません。


「そなたは手袋をしているではないか」


 あら、まぁ、私としたことが。


「手袋のままでいい。さぁ、触れよ」


 無理です。あなたはやっぱり汚らわしすぎるもの。


「だが、知りたいのであろう。顔に書いてある。お前たちの仲が本当に、運命かを」


 確かに。そのご指摘は間違ってはおりませぬわ。最近、殿下の様子が変ですもの。男爵家の女に入れあげているって私の取り巻きが逐一報告してくるの。


 初めは取り合わなかったですわ。なぜって。相手は貴族でも最下層。辺境の、それも作物の実らない枯れた土地を所有する貧乏貴族。


 常識的に申し上げて、側妃にすらなれませんわ。我が家は王国にとって無くてはならぬ存在。結婚しないなんて選択肢はありませんのよ。


「どうする? 俺はどっちでもいいんだが」


 ううっ。そこまで言われるのでしたらしようがありませんね。分かりましたわ。では、………。


「………。では、と言ってから随分と時が経つが。もしやそなた、怖いんじゃないだろうな」


 あら、何をおっしゃるのでしょう。我がビュシュルベルジェール家は王家と共にこの土地から魔物を追い払った武勇を誇る家柄。こんな骸骨ごとき誰が恐れるものですか。


「威勢はいいが、そなた、手が震えておらぬか」


 そうでしょうか。少し冷えて来ましたのね。あら、もう夕暮れ。


「あ、足元にヘビが」


 いっ! いややぁぁー。あ、骸骨さんの頭を胸に抱いしまっている。


 と思いましたら、どういたしましょう。気が遠くなる。ああ、頭の中に画が。あああ、男同士がキスをしている。貪りつくように激しく。この二人は、我が始祖アルフレッドと初代国王グランラン・アルドアン?


 私は? あら、地面に倒れている。なにこれ。なんなのでしょう。もしや、目くらまし。こやつ、魔物!


「今のは俺が四百年前に見たものだ。俺は何度も生まれ変わっている。アルフレッドとグランランは四百年前の友だ。俺たちはこの国で魔物たちと戦った。我が名はヒューゴ。白の賢者と呼ばれていた」


 ………白の賢者ヒューゴ。我らの始祖を導いて下さいました伝説のお方。


 はじめまして。改めましてアンジェラ・ビュシュルベルジェールと申します。ヒューゴ様のご高名は、かねてから伺っております。

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