04 試行錯誤は楽しい

 それはさておき、今は工作の時間だ。


 魔石に刻み込む命令っていうのは、要するに魔石の中の魔素に何をさせるかってことだ。入出力だとか、どの方向に向けるのかとか、そういうことを魔力で示してやる。


 その刻み方は土板つちいたにメモしてきた。


 紙とペンなんて(村の子供の小遣いでは)高すぎて買えないと思ったので、村から街に向かう途中で作って持ち込んだが正解だったな。


 ちなみに数ミリの厚さに圧縮してあるから意外と軽くて小さい。筆記方法はとがった石で傷をつける感じだ。傷をつけたら消えないように『保存』する。完璧だな。



 そこから分かったのは、回路が意外とシンプルってことと、刻む方法だ。


 回路は、いわゆる電気回路の書き方の亜種みたいな感じになっている。


 違うのは流れる方向の表示がプラスマイナスではなくて、二重の不等号<<みたいな記号で決まることと、入力口、出力口にそれぞれ個別の記号があり、そこで途切れる、ということだな。


 それ以外の記号は情報不足で分からなかったが、これだけ分かれば十分だ。


 方法は、魔力で刻印しているっぽい。


 魔道具に使われていた魔石の場合は、魔石自体は無事なこともあるみたいで、魔力を通したり、割ってみたりと色々試した結果、魔石を半分に割ってから刻印しているように見えた。


 でも、これ、俺の魔石でやると割る必要がないみたいなんだ。


 試しにやってみたら簡単にできてしまった。


 目を閉じて回路をイメージして魔石に重ねると、刻印されている、という感じだ。


 実際はどういう現象が起きているかよく分からないが、出来たなら別に構わない。


 ただ、イメージがハッキリしていなかったのか、ちょっとぼやけてしまったが。


 単に小さい1cm大だから難しいというのもあったか。


 そもそも割る必要が出てくるのは魔石が純粋じゃないからっぽい。


 にごった魔石に魔力を入れようとすると、抵抗があるとか、不純物が邪魔して入らないとかありそうだ。


 だから魔力を通して、明確に回路の形をイメージすると、その形に刻印された。


 まぁ、あとは立体の物体の中に平面を入れるって想像が、そもそも難しいのかもしれないな。俺は前世のゲームのアイテムとかで慣れてるけど。


 これで例えば、蛇口の根元に上方向に出力する刻印をした水の魔石を埋め込めば……


 その魔石に手をかざして魔力を送ると、送った魔力に応じて水が出てくる、というわけだ。



 ただ、一々魔石のところに手をやるのは分かりにくいし、魔道具にする意味がないので、回路をいて、本来ひねるところがある部分に入力ぐちを作る。


 そして、この時点で気が付いたんだが、別に回路はむき出しでも良いっぽかった。


 魔石の場合は表面が丸くて形が歪みやすいことと、単にその方が綺麗だからということ、傷をつけると支障がありそうなこともあるだろうな。


 そう思ったので、回路は蛇口の上に刻印して、その上から新たに土をかぶせてカバーすることにした。


 断然簡単だった。


 さすがに透明じゃないものの中に刻印するのは、ゲームで慣れてる俺でも大変だからな。


 テストがてら、土のカバーを取り外して蛇口の頭の上に魔力を入力する。その魔力けん動力が回路を通り、魔石に達して水が出た。


 でも、勢いよく出過ぎて、蛇口が大破した。


 ビックリした。


 だって、バァンとかいったぞ。

 並の破裂音じゃなかった。


 『保存』する前だったのが幸いしたな。そうじゃなかったら、シンクに大穴が空いてたところだ。


 この蛇口の細い穴から出る高圧の水なんてたまったもんじゃない。


 これじゃあ、とてもじゃないが手なんか洗えない。



 こうなると、修正が必要だ。


 今、思いついたのは、出た水を一時的に他の場所に溜めておく機構を作るか、あるいは、入力した魔力の方を別の何かに溜めて、そこから改めて適量の魔力を魔石に送るか、だが。


 前者は水が腐る心配があるし、後者は後者でやり方が分からない。


 回路は簡単なものしかメモしてきてない。とはいえ、今から研究するのも時間がかかりすぎる。


 そこでふと閃いた。


 そもそも、送る魔力が通る回路を細く絞ればいいのではないか、と。

 

 電気コードだってそうだ。太いのもあれば細いのもある。


 まぁ、電気の場合は太いからって多くが流れるとかじゃなかった気もするが。抵抗とかあったしな。……うん?抵抗?


 そうか。細くするより、抵抗を大きくした方がいいのか?


 となると、魔力を通しづらいもの……か。うーん。


 そう考えると逆に思いつかないが……いや、待てよ?はっきりと刻印しない方がいいのかもしれない。


 ぼんやり、はなんか危ない気がするから、ドット状に刻印しない場所を作って、魔力が全て魔石へと流れないようにする。


 よし、これでやってみよう。



 ドットの大きさはそもそも魔石が小さいので、色々と考えた結果、白黒漫画で色合いを表現するときに使うドット模様をイメージして刻印してみた。


 紙の部分ではなく、インクの部分を刻印せずに抜く感じだ。


 これは何回か土の板に練習して本番をやった。


 まぁ、水の魔石なんていくらでも材料はあるけど、無駄にしないに越したことは無いからな。

 魔石にするのも一苦労あるし。


 2度目のテストは安全上の理由から、ちょっと距離を取って試してみる。


 すると、1度目ほどではないが、なかなかの勢いで水が蛇口から噴き出した。


 アレだ。思いのほか手応てごたえが軽くて、思い切り水が出てしまった感じの勢いだ。


 完全に失敗というわけでもないが、つまり、調整が効かないということでもある。


 手を洗うたびに水を飛び散らせるのもなぁ。保存はあくまで状態保存だから、速乾性とかそういうのは無いのだ。


 というところで時間切れ。


 そろそろ日が落ちてくるので、網漁をして魚を食わねばならない。


 まともな料理にありつけるのはもうちょっと先みたいだ。残念。


 しかし、材料が高品質すぎて、道具作りが上手くできないのも困りものだ。


 水の魔石に関してはえて不純物を混ぜるのもアリかもしれない。


 そう考えながら、俺は屋敷を出て湖へと向かうのだった。

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