03 水は大切

 ところで、部屋には今のところベッドだけだが、とりあえずこれでいい。


 他の家具は必要になれば作ればいいと思っている。


 今のところ、生活周りは最低限になっている、というか、最低ラインを作っているところだから、色々と充実してきてから、だな。


 テーブルもイスも、今あっても日中はずっと部屋の外で作業してるから必要ないんだ。


 服は数枚しかないからタンスは必要ない。


 スタイルチェックするようなお洒落しゃれさんじゃないから姿見すがたみも必要ない。


 小物はだいたい土で即席だから、棚すら必要ない。というわけだ。


 余裕が出来るか、ちょっと休憩したい、とか、寄り道したい、とか思った時に気分転換にでも作ろうと思っている。



 そんなこんなで快眠寝床を午前中に作り、午後に作るのは調理場だ。


 ここ数日、何を食っていたかと言えば湖で網を使って漁をして取った魚を焼いて食っていた。


 網は土で即席だ。網というか格子だったかもしれない。追い込み漁ってやつだな。


 ある程度の空間を格子で封じて、格子を寄せて集まったやつから数匹分を浮動の魔素を重ねた水ごと持ってきて、はいおしまい。だ。


 まぁ、魚が取れればいいのさ。


 だが、ずっと焼き魚じゃ飽きるから、まずは調理方法の充実からだ。


 それに野菜も必要だろう。そっちも後々のちのち畑を作るから何とかなる予定だ。


 これはこっそり村からなえをいただくつもりでいる。



 さて、水回りは魔石に頼ろうと思う。


 食材を洗うにも、煮るにも、冷やすにも、まず、水が必要だ。


 飲料水も必要だしな。ライフラインの一つでもある。


 一々湖から取ってくるのはナシだ。飲んだり料理に使ったりする分は煮沸しゃふつ消毒が必要な気がするし、そもそも面倒だ。


 だから、魔石を使って水を生産しよう、というわけだ。


 魔石の水は問題無く飲める。

 それは村時代の俺が証明済みだ。


 よくやった過去の俺。


 採取生活からの生産ラインの構築は、たぶんどの生産系シュミレーションゲームでもやってることだと思う。


 序盤も序盤、最序盤。もの作りの基本中の基本だな。

 これゲームじゃないけど。


 ちなみに、魔石、というのは魔素の結晶を指すらしい。特に濃密な魔素が数年掛けてゆっくりと結晶化したら魔石になるんだとか。


 これも例の魔導士から聞いた話だ。


 が、ご存知の通り俺は魔素をそこそこ自由に動かせるわけだ。


 これも、村で数々の失敗作の末に作り出すことが出来ている。



 作り方は堅実の魔素の中に魔石にしたい魔素を閉じ込めて、ギュギューッと圧縮するのだが。


 これがシンプルながら地味に難しい。


 気を抜くと中の魔素が出てくるし、均等に圧力を掛けないと中の魔素が噴き出してしまう。


 しかし、これが最後までいけば、その中心に魔石が出来る、というわけだ。


 この時、そこにある魔素は濃ければ濃いほど成功率が上がるので、基本的には、魔素がある場所で作る。


 水の魔石なら湖畔、火の魔石なら実際に燃える火の近く、という感じ。



 なお、失敗すると最初からやり直しだ。


 前世のゲームでもよくあった難易度だ。

 全てを失った時は奇声あげて発狂するヤツな。


 これも練習しまくって、水の魔石に関しては失敗はほぼなくなったが。


 発狂した回数?覚えてないよ。それぐらいはやった。


 ちなみに、水の魔石は湖畔で簡単に作れる。


 あ、いや、簡単っていうのは魔素を集めるのが簡単ってだけで、実際に魔石を作るとなるとそれなりに集中しないといけないし、時間もかかるんだけどな。


 失敗はほぼ無くなったが。


 だから、村時代に先のためと作り溜めておいた水の魔石が無くなるまでは、作るつもりは無い。


 ただ、そう、火の魔石はね。うん。作ってないから作らないといけないんだけど。うん。


 火の魔石はね……うん。


 これも、余裕がある時に色々と魔石を作る予定だ。

 きっと色々と使い道があるはずだからな。



 ところで、俺の作る魔石はだいぶ小さい。ほんの1cm程の大きさだ。その分、一般的なもの、というか街でチラ見したモノよりかはかなり純度は高いみたいだ。


 売ってたやつはなんか…濁ってたり石が混じってたりしたけど、俺の魔石は透き通っていて綺麗な感じに仕上がっている。


 ……小さいからそう見えるだけかもしれないけど。


 磨く必要もなくこうなのだから、その純度たるや!という感じだ。

 だからか、小さいけど高出力なんだ。


 わざわざ作った甲斐かいがあるってもんさ。



 これを使って何が出来るかと言えば、魔道具が作れる。


 と言っても構造はそんなに難しいものじゃない。魔石に命令を刻み込んで、それが機能するように道具の型にはめ込むだけだ。


 街で見本を買うことが出来れば良かったが、そんな金は無かったので、路地裏を探し回って壊れた魔道具の残骸を調べたので、どうすればいいかは分かっている。


 結果としてやったことはゴミあさりではあったが、壊れた魔道具を探し出すのはまぁまぁ楽しかった。宝探し気分だったからかな。


 それに、初めて見るものばかりだったから、冒険心を刺激されて、ついつい予定時間よりも長く滞在してしまった。


 これはどんなふうに使うんだろう、とか、おっ、これはちょっと動くぞ、とか。


 動いたヤツの動き方から、何に使うのかを想像するのは、なんか最新の家電を使い方を見ずに何に使うのかを予想するのにちょっと似てた。


 前世では、たまにテレビ番組でやってたのを見てたさ。面白いよな。


 だけどまぁ、時間も押してたから泣く泣く切り上げて来たというわけ。


 ちなみに今考えると時間の半分ぐらいクイズごっこして遊んでたかも。


 ま、まぁ、息抜きも大事だから。うん。


 とはいえ、ごみ溜めだったから、臭いには辟易へきえきしたし、路地裏の住人たちにはにらまれてしまったけどな。


***


Tips

姿見すがたみ

全身をうつせる鏡のこと。

実家にはあるが自分の家には無い、という方は多いのでは?


※例の魔導士

主人公が村にいた頃、時々やってきた旅人の1人。

魔法に興味を持つ主人公に(暇つぶしで)色々教えてくれた。

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