第3話 家出少女からの呼び出し
二日目から早速予約投稿忘れるとは思わないじゃん??本当にごめんなさいorz
今後も忘れていたら多分お昼更新です
―――
「朝っぱらから疲れ切った顔してんなあ、ゆっきー。どうした? 彼女と朝まで寝つけないほどの大運動会でも繰り広げたか?」
「……違う。あと俺に彼女はいない」
無事に遅れることなく大学に到着し、眠気を堪えながら講義を待つ俺にダル絡みをしてくるのは顔良し性格悪めの数少ない友人、黛貴也。
仏頂面で返したであろう俺に気を悪くするでもなく、下品にも指で作った輪に人差し指を出したり抜いたりするさまを見せてくる。
こいつ……頭の中が中学生止まりなのに顔が良いからモテるんだよな。
しかも頭もいいときた。
天は二物を与えないんじゃなかったのか?
黛と知り合ったのは一年の頃。
初講義から教科書を忘れたこいつの隣に座っていたのが俺で、教科書を貸しただけなのにやたらと感謝されてなんやかんやで仲良くなった。
陽キャの怖さを実感した瞬間だった。
まあ、黛と友達になれてよかったとは思ってる。
こう見えて気配り上手だし、一緒にいて面白い。
「じゃあなんだってんだ? 朝までゲームって柄でもないし、酒の匂いもしない」
「……俺はまだ19だ」
「真面目ちゃんだよなあ、ほんと。表立ってやらない方がいいのは確かだけどよ、隠れて飲んでるやつは山ほどいる。要はバレなきゃいいんだよ。浮気と同じだな」
「最悪だよお前」
俺が本心から吐き捨てるも黛は「まあまあ」と笑っていた。
友達だとは思っているが、こういうところは少しだけ苦手に思ってしまう。
以前も黛とこういう話をしたことはあったけど「ゆっきーはそれでいいじゃんね。人には人のなんとやらよ」となんとも軽々しい調子で肯定されて苦笑してしまった。
色んな考えを否定せずに認められる懐の深さが黛の魅力なんだろうなとつくづく思う。
「それよりも……今日の『白雪姫』、なんか違くないか?」
ふと黛が上げた話題に心臓が僅かに跳ねるも、その動揺を悟られないように表情を作りながら「そうか?」と答える。
「いやさ、こう見えても俺はモテるわけで、色んな女を見てるんだけどよ……その勘がビビッて告げてんだ。ありゃなんかあったぜ、って」
「なんかってなんだよ」
「このお年頃であることなんて決まってんだろ? 男だよ」
ニヤニヤと笑いながら黛は講義室の前の方の席に座る『白雪姫』こと琴朱鷺へ視線を送る。
俺もつられて目を向けると、一度家に帰って着替えたのか服装が地雷系から清楚系へと変わっていた。
……やっぱりどっちも似合うんだよな。
「想像してみろよ。いつも澄ました顔をしてる『白雪姫』が男の前でどんな顔をするのか……ってさ」
「……それ、なんの意味があるんだよ」
「あたかも健全ですよーって顔の真面目な奴がいざ大好きな奴とセックスするってなったらどんな顔するのか考えるのめっちゃ楽しくない? ゆっきーも全年齢向けの漫画に出てくるキャラがエロ同人誌でアヘ顔晒してるの見たらなんか興奮するでしょ? それと同じ」
「例え話が最悪すぎるし同意を求めるな」
あと、間違ってもこんな朝からする話題じゃない。
黛は俺にしか聞こえないくらいの声量で言っているからいいものの、周りに聞かれていたら俺まで共犯扱いにされかねない。
こんなことで評判を落とすのは勘弁願う。
だけど……琴朱鷺が男の前でどんな顔をするか、か。
琴朱鷺は大学ではまるで表情を変えないのに、朝食を食べていた時は少しだけ笑っていた……気がする。
決して表情がないわけではない。
それを見た人が今までいなかっただけ。
「そこまで言うなら黛は琴朱鷺のことが好きなのか?」
「んや? あれは値札のつけられていない見本用の非売品。遠目に眺めてるのがちょうどいい。そもそも俺には彼女いるし」
「……一応聞くけど何人だ?」
「一昨日三人に増えた」
平然と三股するな。
「いつか刺されるぞ?」
「そうか? 俺がこれまで付き合った女も別れた女も全員別の彼女作るのは納得してるぞ」
「……マジで凄いなお前。尊敬はしないけど」
「褒められても何も出ないぜ? 昼に俺のおごりでラーメンでも食いに行くか?」
「乗った」
思想は相いれない部分が多いけど、ノリはなぜか合うから気にならない。
「んで……ゆっきーは『白雪姫』となんかあったのか?」
意識の隙間に差し込むかのように黛から言葉が投げられる。
「あるわけないだろ? 俺と琴朱鷺の間にどんな接点があるんだよ」
「いやー、なんか教室来てから俺と話している間もチラチラ『白雪姫』の方を見てた気がしたからカマかけてみた。――話したくないならそれでもいいさ。もしも相談事があればいつでも聞くぜ? ゴムの薄さに関しては0.01ミリ一択だから異論は受け付けないけどな」
「…………」
黛……異様に察しが良すぎる。
というか俺、琴朱鷺のことをそんなに見てたのか?
完全に自覚がなかった。
気を引き締めないとな。
寝不足だし、こんなことで集中力を欠くわけにはいかない。
そんな雑談をしていると教授が講義室に到着し「授業始めるぞー」と声がかかる。
俺が指定された教科書のページを開いていると、トントンと黛に肩を叩かれた。
「悪い、教科書見せてくんね?」
「へいへい」
それからは何事もなく授業をこなし、昼に黛とラーメンを食べて大学に戻り、午後の授業が行われる教室に黛と二人で向かっていると――
「待って、湊」
昨日今日で何度も聞いた声が俺を呼び止めた。
黛と一緒に振り返ると、そこにいたのは案の定『白雪姫』として大学では沈黙を貫いていた琴朱鷺。
「おいおい、マジかよ」
黛が心底驚きながらゲラゲラと腹を抱えて笑い出すも、俺は気が気でない。
ここは大学で、他の人の目があって……琴朱鷺と俺たちへ行きかう人たちの視線が集中しているのを肌で感じる。
「……琴朱鷺、何の用?」
「話したいことがある」
「……授業が終わってからでいいなら」
「私は四限で終わり。湊は?」
「五限まである」
「じゃあ学食で待ってる。授業が終わったら呼びに来て欲しい」
間髪入れずに琴朱鷺が返事をすると、伝えるべきことは伝えたのか視線も気にせず踵を返して逆方向へ立ち去った。
沈黙の中で俺に痛いほどの視線が集まる。
『お前と琴朱鷺はどういう関係なんだ』――そんな疑問が幻聴として聞こえてきそうなほどの圧を感じて気分が悪くなる。
「ゆっきー、マジで何したの?」
「……知らん」
まさか昨日琴朱鷺を家に泊めたなんて言えるはずもなく、俺は黛を置いていく勢いで足早にその場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます