最終話:謎めいた少女

その謎めいた少女の存在は、村の人々にとって長年の間、不思議な現象として語り継がれていきました。だれもが彼女の願いや姿の正体を知ることはありませんでしたが、彼女の姿を目撃した者たちは、その不気味な体験を他の村人と共有し合いました。


ある夏の夜、村に住む一人の老人が村の酒場で、その少女に遭遇したという話を語りました。老人は酒に酔った勢いで、恐ろしい経験を次々と口にしました。彼は語るにつれて、周囲の人々も耳を傾け始めました。


「あの少女は、一見して人間の姿をしているように見えたんだ。でも、彼女の目はどこか異様で、まるで闇を見つめているかのようでした。私は彼女に話しかけようとしましたが、声が詰まってしまったんだよ。彼女はじっとこちらを見ているだけで、何も口にしませんでした…」


老人の話に聞き入る村人たちの中には、興味津々というよりも、戦慄を感じる者もいました。そして、夜が更けるにつれて、彼らは皆、ひまわりの畑に立つ少女の存在を想像し、背筋が凍るような気持ちになりました。


その後も、夏の夜になると、たまに少女の姿が目撃されるという話は続きました。噂は村を超えて広がり、遠くの村からも人々が訪れるようになりました。一部の人々は少女に会いたいという好奇心から、一部は恐怖を感じつつも、少女の姿を探し求めるのでした。


ある晩、再びひまわりの畑に立つ少女の姿を目撃したとされる集団が、村の入り口に向かって歩いていました。彼らは胸を躍らせ、不安げな笑顔を浮かべていました。そして、彼らは集団で少女に話しかけることに決めました。


「お願いだから、何かを伝えてくれ! 私たちは君に何も悪いことはしない。」


すると、突如として風が吹き始め、ひまわりの花がざわめき始めました。少女の姿が消えるかのように、ひまわりの花が次々と茎を折られ、地面に倒れていきました。それはまるで、ひまわりの花たちが悲しみを抱えるかのように見えました。


集団のメンバーたちは恐怖に震えながらも、不思議な力に引き寄せられるようにして畑に近づいていきました。そして、ひまわりの花を持った少女の姿を見つけました。しかし、彼女の表情は何も語っていませんでした。


「君の願い、何なんだよ…」


すると、少女は突然口を開き、その声は不思議なエコーを帯びて響きました。


「わたしの願いは、ひまわりの花たちが幸せに咲き誇ること。私がここにいる限り、彼らを守るのです。」


驚きと恐怖に包まれた集団のメンバーたちは、彼女の言葉に言葉を失いました。そして、少女が立つ場所にはもはや何も残されていなかったことに気付きました。


以降、ひまわりの畑に立つ少女の姿は目撃されなくなりました。しかし、その後もひまわりの花たちは美しく咲き誇り、村人たちは彼女の願いを尊重して、ひまわりを大切に育てるようになりました。少女の存在は不可解で怖ろしいものだったかもしれませんが、彼女の願いが少なくともひまわりたちに幸せをもたらしていることは確かでした。

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謎めいた少女とひまわりの願い O.K @kenken1111

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