第15話 バランスよく、ね?

 さてさて、殿下たちの婚約者候補となった私だが、正直疑問な点があった。

 それは言わずと知れた私の体型だ。8歳にてすでに54kgを誇る私の巨体。学園入学時5年後には120kg(確定)となる私などを婚約者候補にしておいては、体裁的にどうなのだろうかという疑問がある。とはいえ、私は伯爵令嬢だから、身分的にはまだましと言える。サキにいたっては男爵令嬢だ。恩恵の事を知らなければ、到底婚約者候補に上がれるような身分ではなかった。

(フィレン殿下には『先見の目』っていう恩恵があるから、多分それが私を婚約者候補にできる根拠なのでしょうね。一種の未来視みたいだし)

 私は母親や家庭教師から淑女教育を受けながら、そんな事を考えていた。

 私が使うステータス閲覧とかいう不思議な力は、実は他人にも使えた。それでもって失礼ながらにもフィレン殿下のステータスを覗き見たのだ。ばれたら処刑ものでしょうね。

 淑女教育を終えた私は、午後には庭の手入れに向かう。どんなに言われようともこれだけはやめられない止まらない。将来、スリムな淑女ボディを手に入れるには運動や筋トレが欠かせないのよ。

「お嬢様、今日もいらしたのですか。本当に庭いじりがお好きなのですな」

 私が庭に出向くと、この日も庭師のセンマイが仕事をしていた。

「センマイが頑張って庭のお手入れをして下さっているから、私も手伝いたくなったのです。それに、将来的に痩せるためには運動の習慣をきっちり身に付けておきたいのです」

「お嬢様……、こう言っては何ですが、少しも痩せる気配がございませんね」

 私が褒めた上で意気込みを話したというのに、センマイはデリカシーの欠片もなくツッコミを入れてきた。うん、正直殴りたくなったわよ。でも、今の私は淑女、そのような乱暴を働いてはいけませんわ、おほほほほ。

「あまり詳しい事は言えませんけれど、今の私は痩せる事のできない状況にあるのです。あと、助言をしておきますけれど女性にとって体重の話はタブーですわよ」

 私は自分の首筋を手で叩いて、センマイにきつく言い聞かせておく。下手な事を言うと(物理的か比喩的は分からないけれど)首が飛ぶぞという脅しである。その私の姿を見たセンマイは、そりゃもう震え上がっていたわよ。口は災いの元よ、お気を付けなさいませ。

 庭の手入れを終えた私は屋敷へと戻っていく。そして、待ち構えていたスーラと仲間の侍女たちの手によって湯浴みが行われ、服を着替えた私は夕食を食べに食堂へと向かった。


 食事を終えた私は、自室に閉じこもってステータスと睨み合いっこをしていた。

「うーん、体重が順調に増えてるわね。運動とか食事とかいろいろ気を回しているから、増える体重は成長分を考えたとしても異常よね。そろそろ55kgよ?!」

 理不尽な体重な項目に、私はつい声に出して文句を言ってしまう。そのくらいにステータスの中でも体重の項目の比重が重すぎた。

 私はひとまず体重の事から目を逸らして、他のパラメータを確認していく。具体的な数値ではないものの、腕力と耐久力が少し上がっていた。体力に関しては上限値100で固定とはいえ、減りにくくなっている模様。着実に庭の手入れによる効果が出てきていた。

(うーん、淑女教育のおかげで賢さも上がっているけど、魔法力だけはどうしても変動しないわね。これは実際に魔法を使ってみるしかないって事かな)

 私は魔法が使えるわけなのだが、父親が公表を差し控えているので私には魔法の先生が居ない。招き入れたら周りにいろいろ噂が広まってしまうので、それを嫌ったようなのだ。

(お父様は無駄に体裁を気になさる方ですものね……。でも、私がこの体格なだけにちぐはぐ感が否めませんわよ)

 私は腕組みをしながらうんうんと唸る。で、結局出した結論というのは、

「まっ、だったら独学でやっちゃうしかないわね。魔法はイメージですもの」

 人が頼れないなら自分でやっちゃえ理論だった。この日はとっとと寝て、明日から早速実行よ。

 朝を迎えると、私は身支度をしてもらいながら、スーラに尋ねた。

「ねえ、スーラ」

「何でしょうか、アンマリアお嬢様」

「魔法書のようなものはあるかしら。私、魔法のお勉強がしたいのよ」

 私の唐突な申し出に、スーラは驚いて動きが止まってしまう。ちょっと、今髪の毛のセットの最中なんだけど?!

「スーラ?」

 私が戸惑った声を出すと、スーラは我に返ったようだった。

「も、申し訳ございません、お嬢様」

 焦ったように謝罪をするスーラに、私は改めて魔法書について尋ねてみた。想像力で魔法が使えるとはいっても、やっぱり基本ができてないと問題だと考えたというわけ。

「魔法書でしたら、旦那様や奥様が共有してらっしゃる書庫にあると思います。ですが、お嬢様はすでに魔法を使いこなしていらっしゃるので、必要ないとは思いますが?」

 スーラは魔法書のありかについての心当たりを話していたが、同時にそんな疑問を投げかけてきた。確かに、使えているのなら必要ないかも知れない。だけど……。

「確かに私は魔法を使えるけれど、基本を学ばないうちに自己流というのは危険だと考えるの。だから、将来のためにも根本を知っておきたいのよ」

 私は髪が整ったところで、瞳を潤ませながらスーラをじっと見つめる。

「う……、わ、分かりました。朝食の席で二人でお願いしてみましょう」

「やったーっ!」

 私が喜んで諸手を挙げると、

「あたたたた、お嬢様、痛いです」

「あっ、ごめん、スーラ!」

 どうやら私の手が勢いよくスーラの顔に当たってしまったようで、スーラが痛がっていた。私は慌てて治癒の魔法を使ってしまい、そこでスーラに思い切り驚かれる事となったのだった。

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