第16話 人の口に戸は立てられなかった
私が治癒魔法を使ったという話は、両親にあっさり耳に入ってしまった。スーラには黙っておいてと言っておいたのに、うっかり口を滑らせてしまったようなのだ。私が鬼のような形相で睨むと、スーラは顔を背けて笑ってごまかしていた。
「マリー、治癒魔法というのは本当に使えるのかい?」
父親は疑ってかかっている。まあ、癒しの力なので聖女と呼ばれるような人物にしか使えない、激レア能力なのには違いない話だ。
ちなみにゲームでもしっかり「ヒール(小回復)」「ハイヒール(中回復)」「フルヒール(完全回復)」「オールヒール(全体中回復)」の4種類ある回復魔法のうち、「オールヒール」以外をしっかりと習得する
ついでに言うと、この回復魔法は「水」「氷」「光」の3属性であれば習得できて、特に「光」適性があれば解毒や解痺、解呪の効果も乗ったりする
さて、肝心の私はというと、もう黙っているのも面倒になりそうなくらい父親が睨んでくるので、観念してスーラの言った事を認めた。
「その通りでございます。ですが、スーラに使ったのは、私の手が誤って当たってしまった事による痛みを取り払う程度の些細なものです。そこまで大騒ぎするほどの事ではないかと思います」
私がそのように説明していると、父親はどういうわけか頭を抱えていた。何かおかしかったというのだろうか。私はスーラを見る。
「お嬢様、たとえ痛みを取り払うだけでも、治癒魔法が使えるというだけで一大事でございます。ですので、私は報告をさせて頂いたまでです。ただし、旦那様と奥様だけですのでご安心下さい」
スーラはそんな事を言ってはいるが、私はむしろまったく安心できなかった。他人には絶対話さないでと念を押したはずである。なんでそれを喋っちゃったんですかね、スーラさん?!
私が無作法にもスーラを睨むと、スーラはやっぱりここでも顔を背けてしまった。覚えてらっしゃい、スーラ。
そういうわけで、私はものすごく不機嫌な顔をして食事をする事になってしまった。本当に誰にも言うなと言ったのに、余計な事をしてくれたわね。私が怒りのあまり小刻みに震えているせいで、子どもの割に重い体の負担を強いられた椅子がぎしぎしという音を立て始めた。
(おっと、やばい音が聞こえるわ。椅子よ、耐えてちょうだい)
間一髪、椅子がはじけ飛んで尻餅をつく前に椅子に補強魔法を掛ける事ができた。さすがに身内しか居ない席とはいえ、椅子が砕けて尻餅はシャレにならないわ。それに、砕けた椅子の破片で怪我という可能性だってあるもの。もしそんな事になれば、両親が狂ったように取り乱すのが目に見えているわ。
「こほん、魔法の話が出たついでに私から質問はよろしいでしょうか、お父様、お母様」
「なんだい、マリー」
「ええ、よろしいですよ、アンマリア」
咳払いをして心を落ち着かせた私は、両親に魔法書について聞いてみる事にした。
「魔法の制御を覚えようと思いまして、家にある魔法書を読みたいのですが、よろしいでしょうか」
私がこう質問を投げ掛けてみると、両親は無言で互いの顔を見合っていた。どうにも予想外な話に受け取られた感じに見える反応だわ。
「どうしてだい? マリーは魔法が使えるのだろう?」
やっぱり思った通りな反応をしてくる父親。
「それはそうですが、やはり、魔法の根本をしっかり押さえておこうと思いまして。第一、魔法が暴走しないとも限りませんから」
私はとにかくそれっぽい理由を語っておく。実際、これが一番怖いのである。万一魔法が暴走しても、根本を押さえた上で冷静なら、その暴走を止まられる可能性があると考えている。
私の話を聞いた父親は少し長く悩んでいた。そんなに悩む事なのだろうかと、私はずっと父親を見ている。そして、父親が出した結論は、
「まぁいいだろう。マリーがそこまで言うのなら、書斎にある魔法書を呼んでも構わない。でも、決して部屋からは持ち出してはダメだよ」
条件付きの許可だった。まあ、魔法書を部屋から持ち出してはいけない理由はなんとなく分かる。ぶっちゃけて言えば企業秘密のようなものだ。だからこそ、私は父親の出した条件を飲む。
「分かりました。では、そのようにさせて頂きます」
食事を終えていたので、私は口周りをスーラに拭き取らせて、立ち上がってカーテシーを決めてすぐさま食堂を出ていった。
「スーラ」
「はい、何でしょうかお嬢様」
「後でお説教ね」
私のすぐ後ろを歩くスーラに、私は絶対零度の微笑みを向けておく。するとスーラは顔を青ざめさせていた。言いつけを破ったんだから仕方ないわよね?
というわけで、私は両親の共有する書斎へとやって来た。扉を開けて中に入った私は、すぐさま明かりを灯す魔法を使う。すると、中にはぎっしりと本の並べられた本棚がいくつもあった。
「魔法書はどの辺りかしら」
「それなら部屋の入口から一番遠い本棚だよ」
「お父様?!」
魔法書を探す私の後ろから、不意に声が聞こえてきた。振り返れば父親が立っていたのだ。
「ふふっ、マリーは勉強熱心だね。スーラ、あまり遅くまで読ませないようにしてくれよ」
「畏まりました、旦那様」
そう言って父親が出ていく。
お目当ての魔法書を見つけた私は、スーラに止められるまで魔法書を読みふけったのだった。
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