第54話 ボスの最後
いくら特別に頑丈な銃だとは言っても、炸薬で弾を撃ち出すという無茶は相当な負担を与える。
銃はもちろん、撃っている俺自身にも。
そして既に一度加熱している銃身は再加熱により、ライフリングに齟齬が生まれる。
銃本体もガタガタだ。
結果として、発射された弾丸は全て直進ではない。僅かな機動だが、それでも25メートル先の空き缶にすら当てられないほどに乱雑して飛んで行く。
さぞ分かりにくいだろう。だけど、俺には見えている。
1発、2発、確かに当たる。
しかしその弾は、たとえ神弾であっても強固な装甲に弾かれる。
やはりだな。だから爺さんも榴弾を使った。
3発目、外れ。
仕方ない。奴の起動と複眼は、弾丸を正確に把握する。
しかしそれでもどう動いても避けられない弾はある。
4発目、外れ。
最初の2発と違い、もう煙の煙幕は無い。
不規則に曲がってくる弾すら正確に躱す。
しかしそれにより、行動は制限される。
車は急に止まれない――って訳でもないが、動けば動くほどにその次の行動は制限される。
そして5発目が、内側にある薄翅を貫通した。
こいつらの形態はカブトムシに近い。
外側の殻は飛行にはあまり意味はない。しかし内側の翅はそうはいかない。
しかも外角の裏に当たった弾が跳弾して、もう一か所撃ち抜いたら堪らない。
神弾が撃ち抜いた翅は、他のアラルゴスのように円形に広がって塵となっていった。
流石に本体まで波及する事は無かったが、片方の翅は完全に消滅だ。
これでもう飛ぶことは出来ない。ただそれでも予断できる相手ではない。
土煙を上げて派手に墜落している間に、マガジンを徹甲弾から成形炸薬弾に変える。
どうせ最後の一発。しかも効かない。こんな所で迷ったら死んでしまう。
向こうは当然やる気だな。まあ今更引くなんてことなないだろうね。
角は再生しなかったが、翅が再生しないとは限らない。
ただ再生しないと、こいつは一生飛べない上に手負いのはぐれになるわけだ。
当然、そんな状態にしたこちらに向ける敵意が凄い。
地上しか走れないとはいえ、12メートルの巨体の突進なんて受けてはお陀仏だ。
しかもこいつらは、見た目より遥かに早いからな。
睨み合ったのはほんの一瞬。轟音を立てて巨大な5本角が向かって来る。
確かに脅威だ。恐怖も感じる。
けれど、もはやこいついつは真っ直ぐにこちらに向けて突進するしか出来ない。
ある意味でかすぎる事が仇になったな。
アスファルトで舗装されているとはいえ、既にあちこちはボロボロ。
しかもここはあくまで車が通るところ。巨大なモンスターの舞台ではない。
下手にジャンプしようとしても、逆にアスファルトを突き抜けて足が地面に埋まるだけだ。
あのたった一発の徹甲弾。
それが当たっただけで、こいつはもう詰んだのだ。
突進してくる5本角に成形炸薬弾を容赦なく撃ち込む。
流石に徹甲弾と違ってしっかりと貫通する。
中に入った超高温の液体金属は体組織を破壊するが、そもそもこいつらにとっては死をもたらす神弾だ。
だが1発では死なない。
2発目を撃ち込む。3発目も撃ち込む。
吹き出た金属が複眼を破壊し、固い外郭の羽を吹き飛ばす。
もう体は塵へとなりかけている。けれどそれでも止まらない。まさに執念か。
だが4発目で右の前足を撃ち抜くと、そのまま中、後ろと貫通し、遂には動かなくなった。
……ではないな。動けなくなっただ。
こいつの執念と殺気は、また衰えることなくこちらに向いている。
必死に片方の足だけで這いずるように近づいてくるが、ここに届く事は無い。
悪いが終わらせてもらう。先客を待たせているんでね。
もう全ての角どころか、頭そのものが原形を留めていない。
そこへ向け、5発目を撃ち込んだ。
それがトドメとなったのだろう。体は内側から崩れ出し、最後はまるで自らの重量に耐えられなくなったかのように崩れ去った。
「さて、待たせたな」
三本角のアラルゴスは、赤兜の角に腹を貫かれ絶命していた。
ついでにサンダース教官が乗って来た新しいトラックも炎上しているが、アレはまあそうなるよなとしか思えない。本人がいないから、まあまた逃げ切ったのだろう。
それよりも、死んだ3本角の体が崩れる様子はない。もし俺が生き延びれば、アレは貴重なサンプルになるだろう。
他のアラルゴスは、ボスを失ったせいか海岸の先へと消えていった。
6発目は薬室に入っている、次の成形炸薬弾のマガジンをはめて残り7発だ。
それにまだ、2マガジン12発も残っている。
「待っていてくれるとは優しいな」
殺気は消えていない。むしろ更なる高まりを見せており、まるで心臓を掴まれているかのようだ。
強さとしてはあの5本角の方が強かったかもしれない。
ただあれは運が良かった。
上手い事に翅を撃ち抜けたから最大の武器である機動力を削げた。
だけどこいつは違う。
傍目には俺を助けた様に見えたが、それも違う。今更言うまでも無いか。
単に、こいつは俺が他の何かに倒される事が嫌だっただけだ。
俺から見れば、家族の仇。絶対に自分の手で倒したい相手だ。
だがこいつの理由は何だ?
いや、今更考えるまでもないな。
爺さんがこいつの角を折ったから。
そしてこいつは、俺の中に爺さんを見ているのだろう。
実際は分からないが、まあ血縁だしな。
案外、俺と爺さんの見分けがついていないという可能性もあるが、知った事か。
「やっと邪魔者はいなくなったな」
その言葉が合図となった。
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