第53話 補給

 などと言ってみたものの、現実はそう甘くはない。

 突っ込んできたアラルゴスをガードレールを利用して避けるが、まるで障子紙を破るようにあっさりと突き抜けて来る。

 小型でもこれだよ。どいつの攻撃でも、当たったら即死間違いなしだ。

 まあ突き抜けてきたこいつは横から徹甲弾で撃ち抜いておく。

 貴重な弾だが、敵を減らさない事にはどうしようもない。

 何て考えていても虚しさは残るけどね。


 確かセスナ隊は航続距離を犠牲にしての重装備だと言っていた。

 今こうしている時も、何処かで待機中だろう。

 仲間も戦っている。

 新たに現れているドリンカーアーロン相手に、高円寺こうえんじは戦えているのだろうか?

 やはり時間が無い。

 弾もない。何も無い。

 さっき落とした成形炸薬弾を拾えればとも考えるが、現実は非常である。

 どちらかといえば、小型の――と言っても俺よりでかいが――茶色いアラルゴスたちの攻撃から逃げ回るだけで精一杯なんだよ。

 何か手段が欲しい。

 どうにかして見つけて当てて、最悪の場合奴を撤退させ……ダメだよ。その時は、俺が赤兜にやられる時でもある。飛行ルートの確保も奴の気分次第だ。

 帰ってくれればいいが、居座られたら相手が入れ替わっただけじゃないか。

 何か……何でもいい。たった一発の弾丸でも良いから、誰か俺に希望をくれ!


 なんて――俺が誰かに頼るなんてらしくはなかったな。

 ならやってやるさ。まだナイフの1本くらいはあるんだ。

 通常の銃だって、そこらに何丁か落ちている。

 意味がない? 知っているよ。それがなんだよ!


 ブオンッ!


 空の銃を構え突撃しようとした俺の上空から影が差す。

 しかし敵意は感じない。むしろこの懐かしい音は!?


 俺を飛び越え、ボロボロのアスファルトに着地し、キキィーと耳障りな音を発したもの……それは間違いなく、今まで使っていた武装トラックだった。


「待たせたな、援護する。急いで乗り込んで、支度を整えろ」


「サンダース教官!?」


 もう何がなんやら意味が分からない。こいつは不死身か?

 何台トラックが吹っ飛んだよ。

 その度にボロボロになっていただろ?

 何でそんなピッカピカの軍服着て歯を光らせているんだ?


 しかし僥倖ぎょうこうには違いないんだ。

 荷台から大量のミサイルが打ち出される。

 今までのクラスター弾じゃない。おそらく追尾型。

 機動力を考えればアラルゴスに当たるわけはない。ギリギリを華麗に躱し――あ、爆発した。

 なるほど、近接信管か。しかしあれでは脅しにもならない。

 と思ったら、至近弾を受けた茶色いアラルゴスは塵となって崩れながら落ちていく。


「お前から預かっていた神弾、とりあえず返すそうだ。うははは。整備してくれた一ノいちのせに感謝しろよ」


 確かに、危険物が混ぜられていた事に若い茶色はパニックになっている。

 だが5本角は動じない。

 これで3本角まで参戦していたらヤバかったが、幸い向こうは赤兜に夢中だ。

 今は色々と疑問があるが、この際どうでも良い事だ。

 急いでトラックの荷台に乗ると、皆の予備武器に混ざって俺の弾倉が入った袋がある。

 というか、こっちに来る時に持ってきたボストンバッグじゃねえか。

 まあ探さなくて良いのは良い事だ。


 中身は成形炸薬弾の弾倉が3マガジン、徹甲弾が3マガジン。重くて持ち切れなかった分だ。

 主力弾の形成炸薬弾を多く残してきたのは、あまり使うとは思っていなかったかなんだよね。

 何せ荒れ弾だ。銃に与える負担も大きい。本来精密射撃を得意とする俺にとっては、こういった威力特化の弾は使いにくいんだよ。

 だけどこれは運がいい。

 急いで徹甲弾の弾倉を装填する。

 今はまだこちらで良いだろう。


 そんな事をしている間に、当然敵は向かって来る。

 トラックの荷台から5本角に向けて徹甲弾を撃ち込むが、さすがに何発撃っても当たらない。実に綺麗に避けやがる。

 同時に茶色いアラルゴスがトラックに襲い掛かるが、さすがに焦りでもあるのか? 動きが単調だ。

 さほど苦労も無く、3匹を葬った。


 ただ茶色が減る様子はない。

 赤兜の方にも行ってくれているのが幸いだが、トラックも攻撃されたらアウトだ。

 何せ小型とはいえ2メートル級。

 あんなものの体当たりをくらったらひとたまりもない。


 しかし、ふいにチャンスが訪れた。

 おそらくこのミサイルの発射は教官がやっているわけではない。最初の一発から、ランダム要素を織り交ぜた時限式。そして狙いはカメラとAI、信管は近接式と時限式の複合型だ。

 連中もそろそろ慣れてきたようで、上手いこと爆発範囲から離れている。

 しかし見える。煙の向こうにあるヒットコース。

 弾は相変わらず徹甲弾だが、この際それでいい。変えている暇が無いともいう。


 手前を飛んでいた茶色いアラルゴスに、ミサイルが接近する。

 だがもうこちらの手の内はバレバレだ。

 華麗に躱すと、時限式の信管が作動して爆発する。

 全部ではないが、神弾が混ざっている爆発だ。避けられるとはいえ警戒は欠かさない。

 それと同時に、こちらへの注意を欠かさない。だがその神弾の煙のせいで視界が切れた。


 初めて5本角が本格的に動く。

 これまでの弾を避ける動きではなく、本格的な場所移動。

 当然気付いたわけだが、どの方向にも避けられる静止状態よりも、こちらの方が当てやすい。

 だがそんな状況は長くは続かない。すぐに回り込んだ他のアラルゴスが状況を教えるだろう。

 だから残弾は全て連射。更に2つ目の徹甲弾倉に切り替え、弾切れまで連射。

 間断を置かない爆発に薬室が悲鳴を上げ、砲身も赤く抗議の色を出す。

 だがこれが良い。

 というよりも、こうでなければいけないんだよ。

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