第51話 群れの力
爺さんが折った角には火薬の跡があった。
使ったのは疑いようもなく榴弾。しかしそれ以上の痕跡はみつからなかったし、
まあ自然治癒はあるだろうが、結局はその程度だ。
やはり内部で爆発させなければ倒せない。そうでなければ、精々”痛い”程度の物だろう。
だけどそれも、3本角クラスやその手前くらいだね。
悩む前に銃身を交換し、先ほどトラックの装甲に空けた穴から寸分たがわず榴弾を撃ち込む。
やはり小型から来る。連中の習性か? まあ知ったこっちゃないが。
撃ったのは3発。回避に専念されたら当たらなかった。
だけどこちらを探ろうとしたのが甘かったな。
ホバリングしながら慎重に様子を見ようとしていたところにヒットし、3つの爆発と共にアラルゴスもまた爆散した。
その時にはもう真上に1匹飛び出していたが、もう撃ってある。
丁度クロスするように真上でヒットし、僅かな時間差でトラックの少し後方で爆発した。
この速度、意外と役に立つな。
ただ羽音からして、小型はまだ10数匹。
肝心の3本角や5本角は健在。
だが未練はあっても後悔はない。
ここが死に場所なら、全力で最後まで暴れるだけだ。
しかし、そんな覚悟をあざ笑うように全身に寒気が走る。
マズい!
ギリギリ間に合う。しかし――、
やるべきは急いでうつことだけ。薬室には榴弾だ。
当然、榴弾は普通のガラスでも起爆する。ましてやこいつは防弾。撃った時の結果が見える。だけどそれ以上に悪い結果も見える。
「教官! 逃げろ!」
これで最悪の可能性が1つ消えた。
慌ててドアから飛び出すサンダース教官が見える。
かなりの速度だが大丈夫だろう。
問題はこれからだが、
だけどそれは、無数の可能性を全部見えるような便利なものではない。
あくまで、対象を定めるか身の危険が迫っている時、そして事前の動きを視認した時に予想できるだけだ。
そんな訳で、今考えられるのは2つ。だが、片方は間違いなくダメだ。
助手席めがけて榴弾を発射する。
それは後部のガラスを突き破った時点で信管が起動。
超スローモーションで見れば、今雷管から炸薬に向けて火花が走っている状態だ。
本来ならここで起爆する。だが全速で前まで走り、ギリギリの距離で撃った。
単なる焼け石に水。だけどその僅かの距離は、ほんの1ミリにも満たない重大な距離を稼いでくれた。
ギリギリの距離で、榴弾の弾頭がフロントガラスの先に出る。
そこに現れたのは、前から様子を伺いに来ていた茶色いアラルゴス。
それは何が起きたのかもわからないまま、軽トラックの前面と共に吹き飛んだ。
こちらは何とかなった。しかしもう一方が問題だ。
噴き出した爆炎とほとんど同時に、今まで教官がいた運転席を深紅の角が貫いた。
それは防弾ガラスも装甲もまるで存在しないかのように貫き、左右の角は車体を切り裂いていった。
それはまさに一瞬の出来事。
爆発と体当たりで荷台と後輪だけとなった軽トラックは、多少減速しながらゆっくりとスピンする。
これしかなかった。3本角の突進はどうやっても止める術が無かった。
だから教官には逃げて貰ったが、それだけなら今頃トラックは高速で転倒。
そのまま火花を上げながら数秒走り、大爆発を起こして炎の中に消える。当然俺ごと。
そんな訳で、小柄のアラルゴスが来てくれてよかった。実はあれは完全なタナボタ。
丁度あそこを通る事の予想がついたので、倒すついでに爆発で衝撃のバランスを僅かにだが取ったんだ。
因みに3本角に撃っても、傷一つ付かない事は分かっていた。
角度次第じゃ角は折れるかもしれないが、多分今の段階で手負いにしても群れから攻撃されてはぐれになる事は無い。完全に無駄だ。
だから大事な榴弾は、突き抜けたと同時に後ろに撃たせてもらったよ。
甲殻よりも多少は柔らかい腹に当たった榴弾は派手に炸裂し、三本角の方が先に地面に落ちた。
まあ先にというのは言うまでも無くて――、
「ナムサン!」
荷台と後輪だけで走っていたトラックも、遂にはガードレールに激突した。
当然シートベルトなんてない。そもそもシートなんてない。
急な衝撃で荷台は跳ね上がり、俺は空へと飛ばされた。
こんなチャンス、飛べる相手は決して見逃さない。
これで榴弾の弾倉も撃ち尽くした。
だけど――だからこそ――、
「もう準備は出来ているよ」
吹き飛ばされた時に、もう成形炸薬弾を込めてある。
通称HEAT。
戦車砲の他、アメリカのバズーカ砲やドイツのパンツァーファウストに使用されたのが有名か。バズーカで80ミリ、パンツァーファウスト130ミリほどの貫通力があった。
今ではミサイルや有名なRPGなんかもそうだ。
簡単に言えば、命中すると弾頭に込められた炸薬が爆発。モンロー・ノイマン効果により中の金属は液状化しメタルジェットによって敵を貫く。
もっと簡単に言えば、普通の弾は運動エネルギーだ。火薬の力で飛ばし、それがそのまま威力になる。
だから近ければ最大の効果を発揮するが、射出した瞬間から威力は減衰。空や遠くにいる奴に有効打を与えることは出来ない。
一方で成形炸薬弾は、発射した時のエネルギーはまるで関係ない。
ある意味榴弾と一緒で、威力を出す為の火薬は弾の中に入っている。
だから距離がどれだけ離れていても、威力に変わりがない点が特徴だな。
そう、今そこで優雅にホバリングしているお前だよ、5本角。
どうせ弾数は足りない。なら倒すべきは当然親玉だろう。
こいつさえ倒せば何かが変わってくれるかもしれない。
榴弾と違う点は、その圧倒的な貫通力。そしてメタルジェットによって生じた超高温の液体金属による破壊力。
悪い点は、圧倒的な命中率の悪さと射程の短さ。
まあこの距離では射程の短さは関係無いし、命中率は俺には関係ない。
ただ命中率の悪さの一つが弾速の遅さ。どれほど正確に予想しても、相手も止まっているわけではない。ここで撃っても当たらない。
だけど2発なら? 3発なら? 4発……行ける。
4連射目の歪んだ軌道で飛ぶ弾を、奴は避けきれない。
倒せる予感はしないが、体の一部は吹きとばせるはずだ。
決まったらもうする事は一つ。すぐさま4連射――だったが、撃つと同時に予想が変わる。
今までも無かったわけじゃない。最初に親玉かと思った奴がそうだった。
命中は1発のはずが2発当たってくれたからな。
だけど今度は違う。周りのアラルゴスが、自ら弾に飛び込んだ。
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