第45話 燃える三保松原

 目の前を行進する白い集団。

 空からもギラントとかいう翼竜が現れているが、こちらは出た端から撃ち落とされている。


「前と違って、ここの対空は凄いな」


「三保松原は絶対防空圏って言われているの。対空に関して心配はいらないわ」


「それに彼らは空中には巣を作れないの」


「今は――だろ」


「そうね。でもそうなったらどうせお終いよ。対抗手段が無いもの」


「ごもっとも」


「無駄話はいいから手を動かせ」


「当然」


「やっているよ」


 当たり前だけどこうしている間も撃ち続けている。

 ただ普通の弾ならかなり自作してきたが、他と違って俺の銃はこれだけだ。

 予備の銃を使う事も考えたが、今はこれを1000パーセント完璧に扱えるようになりたかった。

 ただそれが仇となって、今は休憩中。

 俺がというか、銃身がだな。

 これ以上撃つと、歪んで元に戻らなくなってしまう。

 ただでさえ高熱が出る銃だ。交換用の銃身は10本持ってきたが、今はどれも触れないほどに熱い。

 もっと他の銃の練習もして用意してくればよかった。

 というか目の前なんだけど――、


「道が無いぞ」


「ここからは道路が無いのよ」


「マジかよ。じゃあ――」


高円寺こうえんじ!」


「了解です!」


 教官の指示と共に、積んであったクラスター弾が一斉に火を噴いて発射される。

 どうせここから先に、素手で運び込むことは出来ない。もう大盤振る舞いだな。

 上空を飛来しながら小型爆弾を撒き散らし、その様子はまるで爆発の道が作られるようだ。

 当然そこを走っていたビーンは壊滅したが、何匹か紛れていたクラゲも一掃された。

 というかいたのかよ。


「情報だと、相当数が出てくるわ。だからハイ」


 そう言って、ズタ袋を投げてよこす。

 これは――と思って中を見ると、小型のサブマシンガンと弾倉。それに手りゅう弾が満載されていた。


「こんなもの投げるな!」


「そのくらいで暴発はしないわよ。とにかく撃つだけなら出来るでしょ?」


「まあ予備の武器は欲しかったところだ。感謝するよ」


 予備の銃身はまだ撃てない。今の俺は、ただの足手まといだ。

 そんな訳で、これは正直嬉しい。

 こちらの考えを見透かされていた感じだな。


「Go! Go! Go! 突撃! 奴らを殲滅しろ!」


 教官が号令をかけるが、皆もう走り出している。

 美しかったであろう林は、今はクラスター弾によってごっそり破壊され、割れた幹や枝が轟々と炎を吹き出している。

 あの中に火薬を持って飛び込むのは嫌だなー。

 と思ったら、三保松原には入らずに廃墟となっている建物に向かっている。

 あそこに籠城でもするのか?


「作戦はどうなっているんだ? それに守る範囲は?」


「範囲はこの三保半島全部よ」


「無理だろ」


「だからあそこに向かっているの」


 見た所、3階建ての廃墟だ。

 入り口には何か刻まれていたらしいが、文字はもう読めない。

 というか道が繋がっているんだけど。


「あそこで車を乗り捨てなくても良かったんじゃないか?」


「それだけ迂回する時間は無かったでしょ」


 確かにもう既に三保松原を埋め作る量がいた。普通に迂回していたらあの群れに飲み込まれていたか。

 それに建物の敷地内にも多数のビーンが入り込んでいるし、入り口は錆びた鉄柵で封鎖中か。

 全部予定通りって訳か。


 来栖くるす杉林すぎばやしが自動小銃で殲滅しながら、建物の中へと向かう。


「一応確認しておくが、この建物に爆発物は仕掛けてないよな?」


「あるわよ?」


「ふざけるな」


「大丈夫ですよ。ここは防衛ポイントの一つですから、起爆させる時は人力です」


 それでもあるにはあるのか。

 まあ爆破は最後の手段。そう簡単に起爆しないなら問題ないな。


 途中で敷地内に入り込んだビーンを殲滅しながら建物に入る。

 幸いというかなんというか、中には入ってない。

 元々防衛用という事で、窓は隙間を開けた鉄板張り。

 扉も爆破にすら耐える耐火扉になっている。

 どうも芋虫の様な下半身のわりに壁は登れないようだし、何とかなりそうだ。





 ◆     ◆     ◆





 なんて思っていたんですよ、屋上に出るまでは。


「何だこりゃあ」


 見渡す限り真っ白な世界。アレが全部ビーンかよ。

 その中に巨大クラゲもフヨフヨと漂っている。

 そして空には毎度の翼竜ギラント。

 更にビーンの中に、黒くて丸い胴体に不自然なほど細く長い――まるで関節の付いた鉄パイプみたいな足を数十本付けた奴が混ざっている。黒いから良く目立つな。

 頭に付いている大量のフジツボのようなものは何だろう? 攻撃器官かそれとも目?

 少なくとも、アイツらに寄生虫が付く事は無いだろう。

 というか高さは8メートル級だ。

 数十万にも及ぶ芋虫のケンタウロス――ビーンの地響きが起こす重低音が自身のように響く中、その黒い奴が発するカチンカチンという音が別の意味で威圧的に響く。


「あの黒いのは何だ?」


「ドリンクアーロンね。元々は中国に現れたから別の名前が付いたのだけど、まあ反対があってね」


「それで正式な呼称を付ける時に、国連がそう命名したんです」


「どんな流れだったのか大体予想がつくな。それで攻撃手段は? でかいだけの的なら楽なんだが」


「フジツボのような器官から5千度近い体液を吹き出すわ。当たらないようにね」


 当たらないようにと言われても困ってしまう。

 というかこの眼前の光景……。


「これ無理だろ」


「確かに厳しいわね。でもごめんなさいね、貴方を逃げしてあげる方法は無いの」


「そうですよね……今まで普通に戦えていたのでなんとなく成り行きで付き合って頂きましたが、この規模はあたしたちの範疇ですよね」


「まだ一人なら逃げられるだろ。サンダースから車を借りて、さっさと逃げちまえよ」


 なんか随分と舐められたものだ。

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