第44話 新トラック

 しかし落ち着いて考えてみれば、周囲は燃え盛る炎。

 巨大な怪物の死骸。つかこれどうやって処理するんだ?

 まあ刻んであの海の境界に放り込めばいいのか。

 人力だと大変だから投石器が必要だな。

 というかそんな事、今はどうでも良い。


 さっきの奴が出た影響か、海岸から新たな敵は出てこない。

 かなりの武器弾薬を失った身としては、ここで大規模戦なんてやられたらどうにもならない。

 逃げる足も無いし。

 まあ俺は全弾しっかりと持っているし銃も問題無い。

 ただ他がなあ……。


 途方に暮れていた俺だが、他3人はなんか優雅なものだ。

 特に焦りも無いし、進むでも戻るでもなく何かを待っている感じだ。

 あのセスナの二人か?

 静岡空港で補給して戻って来るまでに30分だったか40分だったか。

 確かに早いが、そこまで敵も待ってはくれないよな。


 ブッブー。


 そんな俺たちの横に、クラクションと共に炎を突きって1台の装甲トラックが止まる。

 見知った車というか、さっき爆発したのと同じ奴じゃないか。


「待たせたな、早く乗れ! 敵は待ってはくれないぞ!」


 大宮サンダース教官!?

 どうなっているんだ?

 まさか予備の車を近くに隠してあったのか?

 だが怪我も無ければ服も汚れていないぞ?


「急ぎましょう。そろそろ海岸から、またビーンが湧き出て来るわ」


「クラゲが出て来ても、俺はもう相手しないぞ」


「早く乗りましょう」


 それぞれひょいひょいとジャンプ1回で飛び乗っていくが、こちらは普通の人間なんだよ。

 しかも体中ボロボロだ。くそう。


 何とかよじ登ろうとすると、高円寺こうえんじが手を差し伸べてくれた。

 有難い。心にピカーと光が射した気がするよ。


「急ぎましょう」


 その言葉と共に、腕が抜けそうな勢いで引っ張られた激痛で現実に戻されたけどな。





 ◆     ◆     ◆





 まだ納得していないが、大宮サンダースの武装トラックで海岸線をひた走る。


「なあ、サンダース教官はお前たちと同じ様な感じなのか?」


「TYPEの話? 彼はAよ」


「そうすると……Bにはなれなかったってわけか」


「そうね。でも詳しい事は分からないわ。薬の耐性が無かったのか自分からAである事を選んだのか。まあ聞く事じゃないわね」


「それは同意だ」


 人それぞれ事情がある。

 しかもこれは人体改造に関する事だ。俺が口出すような問題ではない。

 ただ気になるのは、このトラックと新しい武器弾薬はどっから持ってきた?

 怪我はそんなに早く治るものなのか? 服も綺麗な状態だが着替えたのか?

 なんかこいつもこいつでやべーやつな気がする。

 だがまあ、別の意味でヤバい奴は他にいるわけで……。


「ぼさっとしていないで、とっとと撃てよ民間人!」


「ちゃんと撃ってはいるだろ。お前の豆鉄砲と一緒にするな」


「なんだと! 貴様!」


「はいはい、喧嘩は無しね」


「今は戦闘中ですよ。ちゃんと集中してください! あたしだって怒る時は怒りますからね」


 高円寺こうえんじの言葉にはあまり迫力はないが、まあ怒らせたら死ぬんだろうなって事は分かる。

 ただでさえ力のブレーキが効かない子だ。

 でも同時に優しい子でもある。後悔だけはさせないようにという理由だけで、今は杉林すぎばやしとは和解しておこう。


「だから撃つのがおせーんだよ、一般人!」


 ここは我慢、我慢だ。

 相変わらず移動先からワラワラと湧いて来るビーン。

 本当に多いが、銃器の前では結構雑魚だ。

 だがあの長い腕。直線でなら素早い移動。民間人では太刀打ちできない相手には違いない。

 今は後ろを来栖くるすと高円寺が対処してくれているが、何とか一匹も逃さず目的地に到着したいものだ。

 というか、補充した武器弾薬の中にはもちろんアレもある。

 だが今は使わないという事は――、


「そろそろ到着だ。戦闘準備!」


 やはりな。

 予想よりも到着が早かったというか、すぐに使う予定があったから温存したというべきか。


 今までの海岸線は結構テトラポットがあったが、この辺りになるとだいぶ少なくなってくる。

 元々今まで通ってきた久能海岸はキス釣りでは有名な所だが、ここ三保の松原は近隣の釣り人にとっては聖地だったらしい。

 キスやヒラメはもちろん、イカやタコ、スズキやシイラ、ブリまで陸から釣れる。

 いや釣れただな。

 今はもう、あの海岸は幻だ。

 代わりにそこからは、真っ白いビーンの集団が地面に白い絨毯を作っている。

 まったく実に迷惑な事だ。


「あいつらの目的は何なんだ?」


「座学で聞いていたでしょう? 巣を作る事よ」


「その位はちゃんと聞いていたよ。ただあの大規模集団は何なのかと思ってね。まるでヌーの行進だ」


「あれは昔からの習性ね。今の所は、ただ単に近くの人間を襲うだけよ」


「もう調べていると思いますが、素の作り方は一つではありませんし、日々こちらに対抗するように進歩しています。今はギラントが巣を作るためにビーンが暴れるのだとされていますが……」


「あいつらが巣を作り出す可能性もあるのか」


「要は殲滅すればいいだけだ!」


 まあその点に関しては同意だ。

 連中と戦う事は俺の本懐ではなかった。だけど現状を知った以上、見過ごすことは出来ない。

 それに何だかんだで技術も身に付くしな。

 しかも、もうそれは過去の話となった。

 用宗港もちむねこう――だったか? あそこでの戦いで奴が現れた。

 当然ながら、今もここにいる保証はない。

 だけど今はなんとなく感じている。

 奴はまだこの地にいる。そう遠くない未来に、必ず会えるだろう。

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