第43話 巨樹の最後
「それはまた簡単なお願いね」
そう言って真上に跳ねる。
ああ、完全な停止とは言えないが、上昇から下降に切り替わる僅かな時間。それだけあれば十分だ。
上昇中にマガジンを外してポケットとベルトから3発の弾を取り出す。
どれも予備の神弾だ。だがベルトの方はクラゲにも使った榴弾。カバーを付けてあるとはいえポケットに入れる勇気はない。まあこの状態だとそこまでの危険はないけどね。
感覚で分かる。もうすぐ上昇が終わる。さあ、見せ場だ。
コックを引き、手動で装填する。先ずは貫通弾。
それは轟音と爆発の様な――いやまあ実際そうなんだけど――火炎を銃口から引き出すと、白い光となって巨大なセンザンコウの首を貫いた。
反動で大きく離れるが、水平じゃない。首が狙える位置にいた俺たちは、斜め上空へと飛ばされる。
まだほぼ一直線。たとえ距離が離れても、もはや止まっているに等しい。
すぐさま薬莢のカスを排出し、上昇中に榴弾を装填。
ここまでまだ1秒程度。
さっき確信した。こいつが痛みというものを感じるまでに、3秒は時間がある事を。
目指すは先程あけた穴。
頭に近い分、さっきより反応が早い可能性がある。
だけど俺には予想できる。来栖に言わせれば見えているという奴だ。
迷わず2発目を張射する。
それもまた白い光の筋となり、たった今空いた首の穴へと吸い込まれた。
それと同時に起こる内部からの爆発。炎と共に幾つもの穴を空けて輝く光が神弾の威力を物語る。
だが――、
「あれじゃあまだ足りない」
「そんな事は分かっているよ。だから最初に3発用意したんだ」
そしてもう、準備は出来ている。
向こうは痛みで大暴れを始めているし、俺たちはさっきの射撃で更に上空まで飛ばされている状態だ。
しかもあの首は半ば千切れ掛けているため、暴れる事で更に激しく揺れ動く。
距離も離れ、あれだけ大きかった奴の体も小さなものだ。
けれどな、アラルゴスに比べればあまりにも的は大きく、不規則な動きも止まって見えるよ。
ほぼ間髪いえずに発射された1条の光の線は、2発目と同じ榴弾。それは先程大穴を空けた首に吸い込まれ、爆発とともにそれを胴体から切り離した。
巨体は暫く暴れたが、やがて爆薬を仕掛けた民家へと倒れ込み、壮絶な爆発と共に吹き飛んだ。
「アラルゴスと違って、死ぬと無敵化は解けるんだな」
何て感想を述べている間に、これまたまるで羽のようにふわりと着地した。
「そうね。アレが奴らと同じなら、相当な量の材料が手に入ったのだろうけど」
「そこまで甘くは無いって事か」
奴らが次々と人類に対応していった歴史は座学で学んだが、奴もまたそこまで考えて進化したのだろうか?
案外、何処かの異星人が作っている生物兵器かもしれないけどな。
「でもどうして、タヌ……神弾が有効だって分かったの?」
「見た目通りに硬いのは分かったんだけどな。だけど何というか、ちょっと不自然さを感じたんだよ。あれで鱗の1枚にヒビでも入れば、そうは思わなかったかもな」
「ふーん」
あまり納得していない感じだが、それはまあ実は俺も同じだ。
他の攻撃は無駄に感じた。
どのみちあれだけの爆発物に絶えたのだから、今更自動ライフルなんて何万発撃ち込んだって無駄だろう。
それでも、神弾が有効だと直感した。とうか、貫通するする様子が浮かんだ。
これもまた、彼女の言う見えたという奴なのだろうか?
「
お、
まあ2人ともあれでどうにかなるようなタマではないが、ちょっとだけ心配はしていたんだ。
無事でよかったよ。
……というか、こちらに走って来る高円寺の速度が落ちない。
仕事熱心だなあ……そう、死んだ目で俺は彼女を見つめていた。
「良かった! 怪我はありませんか!?」
その言葉だけなら大丈夫だよと言えたのだが、速度を緩めずに俺を抱きしめる。
確かなクッションが俺の肋骨を守るが、同時に確かな圧力が俺の両腕と内臓を締め上げる。
それ以前に、体当たりされた衝撃で口から内臓が出そうになった。
「あんな無茶をするなんて。もし
高円寺は泣きそうだが、俺は死にそうです。
ついさっきまでピンピンしていたのがまるで嘘の様だ。
「口から血が! 早く治療しないと」
「ああ、大丈夫だ。どうせここじゃあ治療は出来ないよ」
「顔色もかなり酷いです」
それは君が離してくれないからだよハハハなんてジョークを飛ばす余裕もない。
というかそろそろ肺の空気が無くなります。
それはそれとして、衝突の衝撃で歯が割れたんだな。
かなり痛いが、たしか痛み止めが……あ、車の中だわ。
大宮サンダース軍曹。惜しい人を亡くしたな――と思ったが、ちゃんと逃げてたわ。
ただ薬が無いという現実は変わらない。いっそ抜いてしまうか。
というかさっきから高円寺の抱擁が止まらないので、そろそろ冗談じゃなく死にます。
早く助けろ来栖。
「
「あ、いけない! ご、ごめんなさい!」
やっと解放された。
「だから大丈夫だよ」
という言いつつ全く大丈夫じゃない。
今更だけど、この子って結構人との距離感無茶苦茶だなあ。
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