【 三保松原の戦い 】
第38話 戦いの音が鳴る
3日後、2人は新品のセスナで飛び去って行った。
なかなか慌ただしいものだ。
正確に言えば予備機を回収するために車で2度も戻って来ての往復だったから相当なものだった。
ちなみに俺も手伝わされたのだが、基本的に荷物運び程度しかやる事が無い。
ただその時に――、
「やあ
なんでもやっいてる
まあ休憩中だから良いけど。
というか、そうでなくてもこの人には逆らわない方が良いな。
「なんでしょう?」
「また君の銃と弾を貸して欲しいのよ」
「まあ構いませんよ」
以前の用宗港の戦い以外にも、連日の射撃訓練でいつも俺の愛銃は悲鳴を上げている。
その度に可能な限りのメンテナンスは行うが、パーツの交換なんかではいつもお世話になっている。
戦っていない時くらい構わないさ。
ただ――、
「量産は無理そうなんでしょう?」
「これはちょっと驚いたというか、どうしてそう思ったの?」
「いや単純に、
「君は見かけによらず鋭いよねえ。やっぱり群馬で育つと、野生も育つのかしら」
関係ねえ!
「それで何で無理なんです? というか、無理と分かっていても試すんですか?」
「まあねえ。タヌキ弾は――あっと、神弾だったね。あれはあの銃でなければ撃てないのだから、やっぱり何丁か欲しくなるというものなのだよね」
「そういや何で無理なんです?」
「それはどっちかな? まあいいや。銃に関しては、素材の問題よね。当たり前だけど、普通の銃で炸裂弾なんて撃ったら粉々に吹き飛ぶわ」
「そりゃ、ありゃ爆発物ですからね」
「実際研究資料はあるのよ。実用化された物もあるにはある。確かに初速、射程、威力共に段違いだったそうだけど、兵器としての運用には耐えられないわね。とても携帯できるようなものじゃないし、同じ重量なら武器を軽くして装薬を使った方が良い。威力を求めるのなら、弾頭の方に炸薬を使えば良い。それが常人の結論だよ」
ひい爺さんが異常と言われたようなものだが否定はしない。
いくら威力があっても、まともな人間なら手りゅう弾で銃弾を飛ばそうとは思わないだろ? まあ炸薬を使うというのはそういう事だ。
「それと神弾だけど、こっちは火薬、弾頭、どっちを作ってみても効果が無かったよ」
「それは分かりますね。あれは神事によって効果を持つべきものですから」
「タヌキの神事ねえ……」
「なにか?」
「何でもないわよ。まあ今度送ってもらう時には、通常のライフル弾を神弾にした奴を送って貰って頂戴。今はそれで間に合わせるしかないわ」
「それがですねえ、一方通行なんですよ。こちらから連絡できないんです」
「そいつは困ったものだ。ただ送られて来るのなら連絡は取れそうなものだけどねえ。今度校長にでも聞いてみるといい」
「何か知っているんですか?」
「それは保証できないけどね。ただ偉い人ほど色々な情報に精通しているものなんだよね」
ふむ。無駄かもしれないけど、アポを申請してみるのも良いかもしれない。
「参考になりました。ありがとうございます。もし群馬に戻る事があったら、神弾に関しても聞いてみますよ」
「期待しているよ」
◆ ◆ ◆
まあそんな事があったわけだが、結論から言えば無理だった。
校長はいつも指令室にいるそうなんだが、何度訪ねても留守。
中に入る事も出来ず、インターホンからオペレーターを名乗る女性に追い返されるだけだ。
教頭もセットで行動しているそうで、毎度居ない。
教頭の意味あるのか? まるで秘書か護衛じゃないか。
「今日も難しい顔をしていますね」
「ああ、
「ふふ、
「なんか散々言われたからな。しかしまあ、どうせ毎日訓練だ。いつかは戻って来るだろう」
「前向きですね。ちょっとうらやましいです」
「人間何とかすれば何とかなるものさ。円も、もしどうにもならない事があったら俺の所に来ればいい。1人くらい支えるだけの甲斐性はあるつもりだよ」
「え、それって――」
急に
だが友人とはそういうものだろう。互いに支え合ってこそだ。
「俺だってもし自分だけで解決できない事があったら、円を頼らせてもらうよ」
「は、はい……その、末永くよろしくお願いします」
「あ、ああ」
多分これからの学生生活のことを言っているのだろうが、なんか急に畏まられるとちょっと焦る。
そんな訳でちょっと微妙な雰囲気になってしまったが、今日は講堂で座学となっている。
相変わらず2年と3年は外なので――というか先日2年生は見送ったばかりだ。
そういや3年生1人をまだ見ていないな。
まあ癖が強そうだし、会わないなら会わないでいいや。
そんな事を考えながら講堂へ向かったのだが――、
<ビー、ビー、ビー>
いつか聞いたけたたましい警戒音が響く。
またかよ。なんか嫌な予感しかしないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます