第39話 三保松原への道

 嫌な予感はするが、のんびりしてはいられない。

 こういう時の高円寺こうえんじは素早い。

 というか、俺以外は全員速い。

 もう彼女は警報と同時に自室に装備を取りに行った。

 当然、俺も追いかけているがワンテンポ遅れた上に彼女の方が元から早い。またどやされそうだ。

 ただ怒っている杉林すぎばやしを想像すると笑みがこぼれてしまうのはなぜだろう。

 難儀な事になったという気の毒さはあるが、これもまた人徳というものだろう。悪い方向にだが。


 部屋に付くと、もう高円寺は山盛りの装備を担いでハンガーへ向かう所だった。


「急いでね」


「ああ」


 そうは言ったものの、追いつく自信はないぞっと。

 さすがに多弾頭ロケットは車庫の方にあるのだろうが、普段使っている装備だけで対戦車ライフルという名の無反動砲に大型で大量のマガジン。それに何本かのロケットランチャーも担いでいた。

 総重量は100キロを軽く超えているだろあれ。

 それで俺より早く走っていくのだから、さすがの身体能力といった所か。


 俺もまた部屋に入れば兵装の全てが整えてある。これも日課だからな。

 当然すぐに担いで出るのだが、当然ながら彼女の姿はもう見えない。


「さすがというかなんというか……」


 俺が常に支度してあった様に、彼女もまたすぐに持ち出せるように全てを整えてあったわけだ。


「もっと努力しないと、並び立つどころか足元にも及ばないな」


 俺の場合はいつアラルゴスが出てもいいように支度しておくのは高校の頃からの習慣だが、彼女は実戦で培った風習だろう。

 追いつくのは大変そうだ。というか色々な意味で。


 当然のように、到着したのは俺がビリ。

 あの状態の杉林に負けたのは癪だが本人はそれどころではない様だ。

 こちらをじろりと睨んだだけで何も言って来ない。


「ほら、早く乗って!」


 代わりに来栖くるすからせかされた。

 うん、のんびりしている余裕はないな。


 乗っていくのは相変わらず武装トラックの荷台。

 後ろには高円寺の荷物が大量に積んである。ただ前回の倍以上――というか5倍はあるな。

 相当荷台を圧迫しているぞ。

 アレが多弾頭ロケットであることを考えると、ここに攻撃だけは来て欲しくないものだ。


「全員乗ったか? なら出発するぞ」


 といいつつも、こちらの話なんて聞かずにもう走らせているし。


「今度は何処へ行くんだ? それに――」


 全員の装備が前回より多い。

 予備の銃、弾丸、手りゅう弾なんかも相当なものだ。

 前回は舐めていた?

 それは無い。彼女らは百戦錬磨のベテランだ。

 俺はあの戦いしか知らないが、他のメンバーにとっては幾多の戦いの1つしかない。

 なら今回は、相当にヤバいって事だ。


「そうね。勇誠ゆうせいには聞こえなかったと思うけど、私たちには通信が来ていたのよ」


「あの空中に映像が出る奴か?」


「それね。でも通信だけだから頭に直接ね。それで今回の場所だけど、三保松原よ」


「あー、聞いたことはある。風光明媚な場所だそうだが」


「確かに有名な場所ね。でも別の意味でも有名よ。流血の三保松原。あそこはいつも大軍が現れる最前線なの」


「なぜに――というのも野暮だな。向こうの考えなんぞ分からんか」


「そうですね。ふふ、でもなんだか勇誠さんも手慣れて来ましたね」


 高円寺もかなり緊張している様だが、少しだけ笑みが見える。

 良い事だと思う。適度な緊張感は良いが、緊張してはダメだ。


「手慣れたと言ってもまだ2戦目だけなんだけどな。ただ訓練とかでサンダース教官がな……」


「確かに一人前の兵士にするんだーって頑張っていますものね」


「俺はハンターになりたいわけだが。でもまあ、これもその過程だと考える事にするよ」


「最初の時からそうだったけど、いつも前向きよね」


「そりゃね。後ろなんて見ていたってしょうがないさ」


 嘘だ。あず姉やけい、みねに支えられてはいたが、俺はずっと後ろを見続けている。

 毎日、毎日、それこそ変わる事はない。決して忘れない。

 確かに普段は前を見ているが、それはある意味、たった1点を見つめているだけに過ぎない。

 そしてそれを見るために、また後ろを見るんだ。

 俺にとっての目標であり人生。赤兜を倒す為に。この誓いの為に。


「それより、目的地まではどのくらいかかるんだ?」


 学校――と呼んで良いのか今更だが、そこから三保松原までは前回よりは距離がある。

 まあ車で行けばすぐなのだが、いかんせんこの無駄に付いた装甲版と荷重積載だ。車に詳しく負ない俺でもエンジンの悲鳴が良く分かる。


「前の倍くらいじゃない? 30分もあれば到着するわよ」


「案外近いんだな」


「道自体は殆ど真っすぐだから。一度産業館西通りまで出たら、そのまま久能海岸まで直進。そこから左に曲がって進むだけなの」


 なるほど。

 観光地というから、こう奥まった細道を想像してしまっていたよ。

 さすがは大都会静岡。

 何処まで信じられるか知らないが、アーカイブでは東京とかいう都市があったそうだ。

 ただあれはさすがにSFチックすぎて、何処まで信憑性があるかは分からない。

 やっぱり俺にとってはこの土地こそが世紀の大都会だよ。


 こうして静岡駅を抜けるまでは2度曲がる事になったが、左手に有名なツインメッセ静岡が見えてきた。

 アレがホビーショーの聖地か。


「産業間西通りに入りました。後は当分直線ですよ」


「了解した」

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