第37話 こいつら本当に大丈夫か

 2人が入って来ると、来栖くるすが直立する。

 またこのパターンか。つまりはこいつらは上官――というか、俺にとっては上級生だな。


「あ、やっぱりここにいましたか。すみません、説明を聞いたらすぐに走り出してしまって」


 少しだけ遅れて高円寺こうえんじがやって来る。

 当然2人が入ってきた時点でドアはロックされていた。もう言うまでもないが。


「はじめま――」


「初めましてだな。俺は清峰法泉きよみねほうせん。TYPEーBだ。こっちのむっつりが五十嵐風太郎いがらしふうたろう、TYPEは俺と同じだよ」


「誰がむっつりだ」


 うわ、声までイケメン。

 天は何物を与えれば気が住むんだ。

 というか見事に言葉をかぶせてきたな。

 絶対に人の話を聞かないタイプだ。


「彼らは2年生よ」


 へえ。

 たしか2年は2人だけと聞いたから、これで全員か。


「それで、お前は群馬人なんだよな!?」


「群馬県民な」


 訂正するのももう疲れたわ。


「そんな事はどうでも良い。お前が群馬県から来たという事が重要なのだ」


 ふむ。イケメンの方が少し真面目な感じだ。


「ならば利根川を知っているな?」


「当然というか、丁度というかだな。高校に行くときは常に渡っていたよ」


「それならば話が早い。夏に利根川の上流に行くと、人のロリっ子に化けたタヌキが子種を求めてくるというのは本当か? 当然マイクロビキニやスクール水――」


「おい、この残念イケメンを病院に連れていけ。脳のだぞ」


「俺は本気で言っているんだ!」


「だから俺も本気で応えているんだよ!」


「馬鹿な……もはや公然の秘密だというのに、群馬人はまだ隠そうとするのか」


 がっくりとうなだれる残念イケメン。

 確か五十嵐いがらしさんだったな。


「悪いが上流に行こうが下流に行こうがそんな事は無い。そんな存在もいない。子供がいたとしても、絶対に普通に川遊びしているだけだからな。手を出したら逮捕間違いなしだぞ」


「ありえない……ありえない……なら俺は何のためにここまで……」


 全力で壁を叩くと、爆破にも耐える壁面がミシリと音を立てる。

 どれだけ悔しかったんだよ。


「それは俺が聞きたいわ。ええともう一人、清峰きよみねさんだったか? 悪いが期待には応えられない。こいつを連れて帰ってって――おい」


 こいつもまたぶつぶつと呟きながら放心していた。

 何なんだこいつらは。


「来栖、高円寺、説明を求む」


「そうは言っても、勇誠ゆうせいが療養中に数回共闘しただけよ」


「元々は静岡空港の戦闘機乗りだったそうですが、今は撃墜されて新しいのを作っているそうです」


「戦闘機なんて作れるのか?」


「さすがにジェットなんて無理だけどね。色々と設計図は残っているのよ。習ったでしょ、通信が途切れ始めた時に、様々な知識を世界中がばら撒いたって。もっともここの

 設備だとセスナが精々だし、プロペラの同調装置も無いから機銃は翼。そんな訳で、戦力としてはあまり当てにはならないわよ」


「失礼な。それでもペイロードは基本兵装でも2000キログラムあるんだ。あれの真価は地上攻撃にある」


 あ、立ち直った。

 ペイロードが何かは知らんが、地上攻撃とか言っているということは機体の下に爆弾とかを吊り下げるアレだな。

 しかし2トン? 確かそんな積載量は双発の爆撃機くらいじゃなかったか? あまり知らんけど。


「それでそちらが本題か?」


「いや本題は利根川の事だ。だったのだが……」


 そういうとまた膝から崩れおちる。

 口から魂みたいのが抜けかけているぞ。本当に大丈夫か?

 まあ取り敢えず来栖を手招きして小声で――、


「こいつら本当に大丈夫なのか? というかさ、なんか趣味が危なそうなんだが。もし杉林と出会ったらヤバいんじゃないのか?」


「あ、この人たち人間には興味がないからその点は安全よ」


 安全なのか? 別の意味で危なそうだ。


「と、とにかく戻りましょう。ほら、どう考えても普通の人に教える事は無いと思いますし。ここはまた別の機会にしましょう」


「そ、そうだな。確かに群馬人にも公然の秘密はある。ましてや我らはよそ者だ。今回は早計だったな」


「た、確かにそうだ。やはりこういう事は、互いに信頼関係を気付いてからだよな。がっついてすまなかった。いずれまた、群馬の事を聞かせてくれよ」


 こうしていきなり来た二人は高円寺に連れられて出て行ったが、本当に何をしに来たんだ。


「詳しい事は知らないけど、ここに来た用件は本当にあれだと思うわ」


「頭が痛くなってきた。一体何処であんな変な知識を得たんだ? 人とタヌキとの間で子供なんて出来るわけがないだろうに」


「まあそうでしょうけどね」


「詳しい事は知らないけれど、そんなことしている暇なんてあるのか?」


「あ、この部屋に来たのはさっきの用件だと思うけど、この学校に来たのはセスナの受け取りよ」


「セスナ?」


「さっき話に出ていたでしょ。ここで作っていたのよ」


「ええと……冗談だろう?」


「何でそうなるのよ。3Dプリンターくらい群馬にも――あ、ごめん」


「あるわ!」


「なら話は簡単でしょ。さすがに大型の物を作れる3Dプリンタは貴重だし、物資の問題もあるでしょ。だからここで作っているの。まあ組み立ては一ノ瀬いちのせさんだけじゃなくて、さっきの2人もやっていたけどね。気が付かなかったの?」


 多分トラックなんかが置いてある倉庫だろうが……。


「正直興味が無くてな。ただ3Dプリンターならセスナじゃなくても良いんじゃないのか? さっき設備の問題とか言っていたけど、セスナが作れるなら第二次世界大戦の戦闘機でも作ればいいじゃないか」


「設計図は結構バラバラに送られてきていてね。連絡が取れなくなった所からのデータは無いの。さっきプロペラの同調装置が無いって話したでしょ?」


「何のことかは分からなかったけどな」


「通常の戦闘機は、プロペラの後ろに機銃を付けるのよ。安定もするし、口径も大きく出来るしで良いことづくめ。でもプロペラに弾が当たったらただの自爆でしょ」


「そりゃそうだ」


「それに空戦ともなれば速度も変化するし、回転数も変わるわけ。それに合わせて発射間隔を調節するのが同調装置」


「なるほどね。それが無いから翼にしか付けられないと」


「それだけじゃなくて、色々足りないのよ。だからある設計図の中で物資と相談して作れるものを決めて、出た結論が今のセスナらしいわ」


「色々大変なんだな」

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