第29話 3年生の2人

 部屋に戻って考えるが、赤兜あいつの事はやっぱりわからないな。

 何故単体で群馬にいたんだ?

 一番有り得そうなのが、群れで群馬に来たが迎撃されてアイツ1体になったパターン。

 単体だったと考えたのがそもそも間違いだった……その方が納得する。

 少なくとも、始めて見た時は3本角だったのだから。


 当時の俺にそんな余裕はなかったが、神弾を持っていたのは爺さんだけじゃない。

 装薬そうやく式の狩猟銃を持っているハンターだって神弾を持っている。

 迂闊に群馬に踏み込んだ結果がアレなのかもしれない。


 まあ奴の事情なんてどうでも良い。

 それで何か出会えるヒントがある訳もなさそうだ。

 ただそれよりも、奴から感じたのは明らかな殺意だった。


 ビーンと呼ばれている手の異様に長い芋虫のケンタウロスは、敵意や殺意という感じは無かった。

 ただ感情も無く攻撃し、殲滅し、蹂躙する。

 そして何の感情もなく次々倒されていった。

 ギラントとかいう奴もそうだな。

 アイツらの攻撃は、何と言うか餌を取ろうとする感覚に似ている。

 どれほど同胞が倒されても、その辺りに変化はなかったな。

 しかしアラルゴスは違う。あいつらにはどれも明確な敵意があった。

 まあ、そんなものはスズメバチにだってある。気にしても仕方ないか……。





 ◆     ◆     ◆





 こうして座学で基本的な事を学び、射撃訓練、車両の運転から対空砲や野戦砲の撃ち方など、おおよそここに来る前は想像もつかなかった事をやらされた。


「もっと慣れて来たらセスナやヘリの使い方も教えてやろう。存分に励めよ、若者よ!」


 今日の訓練――装甲車……と言う名の武装トラックの運転技術を学んだあと、サンダーズ教官はいつものように去って行った。

 あれもなかなか不思議な生き物だな。タイプとかあるんだろうか?


 その後は3人で座談会をしながら夕食。

 もう完全にいつものパターンだ。

 あれからまだ1か月程度だが、俺は既に完治済み。

 医者も驚いていたが、治ったものは治ったのだ。


「やはり群馬の生物は凄いな」


 出向できたという若い医者からそんな事を言われたが、次はお前が入院するかと言いたくなった。

 まあ今のご時世、貴重な医者に何かしたら大騒ぎになるが。

 ……って、俺も毒されたな。普通の状態でも誰かを入院させたら大事だよ。

 というか――、


「結局杉林すぎばやしの奴はどうしたんだ? あれほど人の事を一般人とか言っておきながら、本人はいつまでダウンしているんだよ」


 まああの毒の強度を知らないから、本来は言うべきではない言葉ではある。

 俺なら即死だったのかもしれないしな。

 だがあれから何の音沙汰もない。ただ毒で入院中と聞いただけだ。

 どうしても気になってしまうし、気になれば悪態の1つも出る。


「あれ? 聞いていなかったのですか? 杉林さんの容態は2日ほどで回復しましたよ」


「そういえば言ってなかったわね。聞かれもしなかったし」


 まあ確かにあまり気にはしていなかったが――、


「それなら――」


 いったいどうしているのか? と聞こうとした途端、


「よお、邪魔ずるぜ。久しぶりだな、高円寺こうえんじ。それで、杉林の奴は何処にいるんだ?」


 背後から太鼓を叩いたかのような野太い声が響く。


 振り向くと、大柄な男女のペアがいた。

 男の方は俺よりも少しだけ背が高い。おそらく188センチって所か。

 黒い長髪に黒く長い顎髭あごひげ

 だが年寄りには見えない。かなり若々しく見えるが、それでも30歳は超えていそうだ。


 服装ははちきれんばかりに胸元を開けたシャツに防弾の黒いジャケット。

 杉林の防弾チョッキにアーマースーツと違い、来栖たちの形に近いな。

 下はズボンだが。

 それに背にはかなり大型のライフルを担いでおり、ベルトには予備弾倉や手りゅう弾などが大量に装備されている。


 それだけならある意味普通だが――いやそれを普通と言うのはおかしいが――とにかく体中に血痕や何かの体液がこびりついている。

 服やズボンもあちこち裂けており、見るからに実戦帰りといった所か。


 もう一人は女性だが、こちらも背が高い。およそ180センチ。

 濃い目の褐色肌に茶色い髪。瞳が赤い所を見ると、多分――いや、そもそも全学年タイプ何某なにがしだったな。


 服装は壬生や高円寺と同じくオフショルダーに赤いジャケット、それにスカートにベルトと完全に一緒。

 違うのは装備だが、こちらは小型のサブマシンガンを背負っている他に、何丁もの拳銃をベルトから下げているな。

 彼女も全身に戦闘跡がありありと残っている。


「これは舘岡たておか先輩に流伽るか先輩。お久しぶりです」


 高円寺を始め、来栖も綺麗な姿勢で直立する。

 そういや此処は軍人の養成学校だっけ。

 どうにも慣れないが、一応俺も立っておこう。


「久しいな、高円寺。とは言ってもまだ半年程度だろう。どうだ、教練には慣れたか?」


「おかげさまで、何とか実戦でもやれています」


「うはははは! 出会った時は動くモノは敵味方関係なく全部撃っていたお前が、まるで人間みてえじゃねえか」


「やっほ。元気そうで何より」


 なんかまるで違う独特の空気を纏った女性の方が後ろで手を振っている。

 視線からして、あっちが流伽先輩か。


「ここを紹介してくださった皆様のおかげです」


 ……高円寺さんに意外な過去が。

 というか、ここを紹介とか半年程度とかの時期を考えると、彼女はこの2人とは入学前からの知り合いか。

 ただ共闘していたと考えると期間が短すぎる。何戦かした程度かな?

 さっきの話を考えると、単純に双方で撃ち合っただけかもしれないけど。


「それで先輩方はなぜこちらに? 実戦から戻ったばかりに見えますが」


「ああ、普通に焼津を中心に防衛陣地を構築していたんだがよ、杉林の奴が毒でやられたって言うじゃねえか。それで笑いに来てやったのよ! うはははははは」


 ――なんかカチンときた。

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