【 暫しの休憩 】

第26話 リハビリ生活

 俺は全治2か月。

 傷からすれば早すぎるほどの回復速度ではあるが、それだけ医療技術が上がっているのだろう。

 何せあんなに凄い人造人間を作る程だ。

 というかさ、マジで俺はまだ今の状況に関して理解も納得もしていないのだが。

 ただ激動の一日のせいで、全部頭から飛んでいた。それどころじゃなかったし。


 そして3週間もすると、立ってのリハビリが許可された。

 ずっと寝っぱなしだったので銃の手入れくらいしかする事が無かったが、これでやっと運動が出来る。

 落ちた筋肉をどうにかしないと、この銃は撃てないしな。


 一応その間もあず姉たちに連絡しようと色々と手は尽くしたが、スマホは相変わらず圏外。

 当たり前だが手紙もダメだ。

 というより、聞く限りだとやはり群馬県とは通信途絶。

 それに、誰も群馬エクスプレスを知らなかった。

 だけどそんな事は無いだろ? 常識的に考えれば有り得ない。

 いきなり予定にないリニアが到着したら、駅員はパニックだぞ。


 そんな事を悶々と考えながらリハビリをしていると、群馬から荷物が到着した。

 いや待て!

 配達員に聞いても詳細は不明。

 本局に確認したが、そんな荷物は引き受けていないという。

 謎だらけだが、中身は補充の神弾と群馬名物のうどんだった。

 早くも故郷の土産に涙が出そうになるが、俺はそんなに女々しくないだろ。しっかりしろ!

 取り敢えずうどんの方は今度皆にも振舞おう。

 因みにお礼の手紙を何度も送ったが、相変わらず状況はさっぱり。

 戻って来るわけでもないし、追跡を付けても途中で途切れる。

 謎だ。


「ただいま」


「戻りました」


 そんな事を考えていると、来栖くるす高円寺こうえんじが戦闘から戻ってきた。

 もうさすがに狩りとはいえなくなった自分の順応が怖い。


「おかえり。だけど二人ばかりに負担をかけるな」


「群馬人とはいっても普通の人類とそう変わらないんだから仕方ないわよ。今は傷を癒す事を第一にね」


 気を使ってくれるのは良いが、来栖コイツはどうも一言多い。


「今の所、アラルゴスは現れていません。だからどうにか大丈夫ですよ」


「それは良かった」


 なにせ話を聞く限り、まともに対処できるのは俺の銃だけらしいしな。

 だからといって、貸すわけにはいかない。たとえ俺がこんな状態でもだ。

 俺とこの銃は一心同体。手放してもしもの事があったら人生お終いだからな。

 もしその時が来たら、きっと貸した事を死ぬまで後悔するだろう。そして貸した相手を恨み続けるだろう。

 それが分かっているから、これだけはダメだ。


「今の所は平和って感じね。ただ各地は一進一退みたい」


「群馬はどうして参戦しないのでしょう? 佐々森ささもりさんの話では、何も知らず平和に暮らしている様子なのですけど」


「それに関しては本当に分からないな」


「それ以前に、まだ公式には群馬と連絡は取れないのよ。群馬エクスプレス? あれに関してもさっぱり」


 ……あのお土産はどうやって運ばれてきたんだろう?





 ◆     ◆     ◆





 療養中、来栖と高円寺は各地に出た害獣――なんてもう呼べないな。怪物退治にたまに出撃する。

 ただ基本は勉学と教練だ。

 俺もリハビリ中とはいえ、授業には出られる。そこで色々と知った。今のこの現状の事を。


 俺にとっては2026年だった今は、実際には2107年だった。

 もうこの時点でおかしい。群馬では誰も異常に思わなかったのか?

 近所の人は? 飲みに来るおっさんは? 先生たちは? それにあず姉たちは?

 他の地域に行った人達は?

 というか、群馬エクスプレスに乗っていた他の人たちは?

 何もかもが分からない。

 だがとにかく、改めて歴史も教わった。


 最初の出現は2041年。

 海岸で出会った芋虫のケンタウロス。名前はビーンだそうだ。

 由来は最初に出現したのが、アメリカのビーン・ホロー・ステート・ビーチだったからだそうだが、そんな不名誉な名前を付けられてよく納得したものだな。

 まあとにかく、ああいった連中が突然に現れた。世界中に。

 当時の新聞や週刊誌、ニュース動画なんかもアーカイブで見た。

 当初は異星人や、別の時空、或いは悪魔召喚とか言いたい放題だな。

 まあ分からないでもない。何せ、理解不能な状態だったのだから。


 ただ人を襲わない限り、研究対象として世界中が注目していた。

 それが悪かった。

 次第に行方不明になる人間が増え始めた。

 そりゃそうだ。そんな事をしている時には次々と巣とやらが作られていたわけだ。

 そんな中、何がどうしてそうなったのか、奇跡的に巣から生還した人間が現れた。

 こうして巣の存在が明るみになり、各地の巣が次々と発見された。

 まあ石を投げれば分かるからな。

 ただ都市部にはさすがに作れなかったようだったのが、発見が遅れた多いな要因か。


 ……いや、作れなかったではなく作らなかった。

 そう考えた方がどこか納得する。

 最初はそもそもどこから来たのかの説に、海底に巣がある可能性が浮上した。

 まあ卵が先か鶏が先か。そもそもその巣は誰が作ったんだよ言う話になる。

 堂々巡りだからこの話はパスだな。


 そして巣の位置が特定されると同時に、現れる怪物たちとの死闘が始まった。

 戦闘は人類の優勢に進み、人々の被害が余り出なかったという。

 しかし彼らの目的は巣作りだった。

 一度作られたら、人類には破壊不能の異空間。

 次々と敵を倒し、兵器産業が潤いながらバンバン新兵器を出している裏で、ひっそりと巣は増えた。

 そして巣が増えると敵が増える。

 やがて対処が追い付かなくなった人類は、遂に長時間戦え、奴等の巣を見る事が出来る人体改造という形に踏み切った。

 薬学に関して俺は分からん。だからアーカイブを見てもよく分からなかったが、その薬は奴等の体液が使用されていた。

 だから境界が見えるのか。

 そしてタイプDやEなんかは、胎児の頃からその体液の中で成長した。


 敵を倒す為に、その存在に近くなった人間たち――世間の人が彼女たちに触るのを嫌うって理由はそれが最大の原因か。

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