第22話 新たな敵
衝撃で右肩が外れたが、何の痛みも感じなかった。
ただ白い光が回転するアラスゴスを撃ち抜き、それは塵となって消えた
同時にこちらの息の根も消えそうになるが、ギリギリで踏みとどまる。
――まだたったの2匹じゃないか!
その想いが寸前のところで意識を繋ぐ。
しかし状況は好転しない。
そんな時、
実にありがたいし、体を支える柔らかなクッションがこの地獄を天国だと感じさせてくれる。
……が、なんか高円寺が持っている対戦車ライフルから煙が出ているのだけど。しかも真新しい。
さっきの衝撃波はこれかよ!
確かに助けられたが、撃つならアラスゴスを撃ってくれ!
なんて考えもするが、あの距離じゃあまり変わらないどころか、跳弾した弾が此方に飛んで来たら爆散してさようならか。
どんなに威力があっても、あの弾では連中に傷一つ付けられない訳だし。
というか傷と言えば!
「二人とも大丈夫?」
こちらの様子を見て、
お前こそと思うが、彼女の右手には傷一つない。
確かにコートは裂けているし血も付いている。俺もあの瞬間を確かに見た。
――これが強化人種って奴か。
確かに兵士としては素晴らしいんだろうな。
だけど同時に、恐れられている理由も分かるよ。
まあ俺は気にしないし、半分以上は嫉妬の様な気がする。
ただ彼女らの境遇。そして人類の守り手。そう考えると、事はそう単純なのだろうか?
もっとも、今はそれどころじゃないほど複雑な問題を抱えているわけだがな。
「あたしは大丈夫だけど、
まあ確かにこちらで被害を受けたのは俺だけです。
「……骨に異常はないわ。肩が外れているだけね。はめて」
じっと見ただけでそこまで判断できるのか? というか……。
「了解よ」
ゴキッという音と共に外れた右腕の関節が戻されると同時に、声も出ないほどの激痛が襲う。
実の所、肩が外れるのは実際初めてではない。
こんな銃を使っていれば、体が出来ていない頃はよくあった事だ。
ただ彼女の場合、人体構造とか考えずに力任せに戻しやがった。
ここまで痛いのはさすがに初めてだぞ。
「これで戦える? 悪いけど、休んでいる様子は無いの」
「……分かっているさ」
と言いながら、全然わかっていなかった。
相変わらず上空を飛び回るアラルゴスの群れ。
それだけならともかく、いつの間にか新しい奴が海岸から現れていた。
フワフワと漂う透明な姿はまるでクラゲの様だ。
それに自ら青白く発光し、まるで水族館のクラゲが飛び出てきたようだ。
だが大きさは違い過ぎる。
頭の大きさは直径10メートルを優に超える。
それが重力を無視してフワフワ漂っている姿はある意味幻想的だ。
頭の端から伸びる多数の触手と、中央から伸びる長い体と口腕が
その
しかし攻撃している時の触手の先端は見えない。
暗闇という事もあるが、一応はまだ公園の木々は燃えている。明かりが無い訳ではない。
人間の使う鞭でも、先端は音速を越えるという。あれはそういった類か。普通に戦ったらどうにもならないな。
但し根本の動きを見れば、大体の予測は出来る。
とはいえ百パーセントじゃない。
実際、杉林の装甲服はあちらこちらに裂け目があり、出血も見える。
すぐに援護しないとまずいが――、
「一般人は来るな! こいつは毒持ちだ!」
と言われてもなあ……。
「なあ、
「強いと言いますか……」
「私たちには毒は効かないわよ。病気にもならないし」
「確か杉林は、3人の中では一番古いタイプなんだろ? それでもか?」
「それでもよ。もっとも、向こうも日々進化しているわけだし、いつかは私たちに有効な毒を身に付けてくるかもしれないわね」
随分と余裕を持って言っているが、それが今かもしれないだろ!?
と言いたいところだったが、彼女の目には余裕なんて無かった。
まあ当たり前か。ここは一つの判断が死に直結するところだ。それはもう、身を持って分かったよ。
それに状況的に考えれば、1番余裕が無いのは間違いなく俺。
まだ炎に照らされて動き回るアラルゴスが見える。
赤い奴はかなりの上空のまま。
高円寺の対戦車ライフルなら届くが、当たるとは思えない。
そもそも当たった所で普通の弾じゃ意味がない。
やはり一番危険な相手への警戒を怠ることは出来ないが、だからと言ってこのままでは杉林がヤバい。
かなりの弾丸を中心に撃ち込んでいるが、相手に怯む様子はない。
実際のクラゲと同じと考えない方が良いのだろうが、どちらにしても、あれを通常の銃で倒すのはかなり無茶だ。
即死させるような弱点でも抱えていてくれればいいのだろうが、そう都合よくは行かない。
それに通常弾で戦うにはあまりにもでかすぎる。
とにかく吹っ飛ばすには――、
「アラルゴスは俺がやる。円は杉林の支援をしてくれ」
「ええ、分かったわ」
「じゃあこちらは牽制ね」
言ったはいいが、頭の中で何かが否定する。
それだけではダメだと。
それが虫の知らせとかいう奴なのかは分からないが、何にせよ頭には留めておこう。
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