第23話 クラゲ撃破

 来栖くるすの両手の自動小銃から、アラルゴスめがけて派手に弾がばら撒かれる。

 下がろうとしていた奴は上空へ避難しつつも、別の奴がぐるりと回ってこちらに来ているな。

 しかし幸いだ。狼なんかもこんな動きをするが、一斉に襲われたらお陀仏だ。

 だが向こうも向こうで一つしか無い命。勝機もないのに玉砕覚悟で全軍突撃なんて馬鹿な事などしない。野生動物は、相当に賢いんだ。あれをそう呼んで良いのかは知らんが。

 まあそんな事をするのは追いつめられた人間くらい――じゃなかったな。あの芋虫ケンタウロスも翼竜も、いくら倒されても次々と突撃して来た。

 やはり知能に差があるのか。

 ただ追い詰められれば状況は変わるかもしれないが、いまはまだその段階じゃないって事だ。


 こちらに回り込んできた奴は背後の石垣の下で姿を隠すが、羽音で位置はバレバレだ。

 上昇音と同時に振り返って狙撃する。

 虚空に向かって撃った光の弾は上昇したアラルゴスと蜂合わせるように交錯し、それを塵へと変えた。


 同時に高円寺こうえんじもマガジンを変え、巨大浮遊クラゲに向けて発砲していた。

 ただ、これは大誤算だ。

 彼女の大型対戦車ライフルから発射された弾は、炸薬さくやくの推進で飛んで行く。

 数キロ先まで届き、戦車さえ貫通する高威力。しかも先ほど見た限りでは、遅延信管付きの榴弾付き。いわゆるAPHE――徹甲榴弾……いや、ライフリングが無いから装弾筒付翼安定徹甲弾か。

 さすがに面倒なので略称のアルファベットは省こう。長いし。

 ただ言えることは、乗員や弾薬庫、それに燃料タンクもろとも一撃で吹き飛ばし、完全に戦闘不能にする必殺兵器。まさにその名にふさわしい戦車キラーだ。


 はい、そんなものをこの近距離で撃ってもダメですね。

 衝撃波で大穴は空くが、弾は止まらない。

 あの芋虫ケンタウロスでも作動したのだから、当たれば起動する型の遅延信管ではあると思う。もしくは発射後の時間だな。

 なのでまあ爆発はしたのだろうが、弾は消えた。言われていた境界線の向こうだな。

 確認する術はないし、爆発の音も衝撃も光もこちらからは観測できない。

 更に2発目、3発目と撃つが、巨大な穴が開いただけ。

 何処かに弱点はあるのかもしれないが、当たらなければあんなチーズ穴を空けても意味がない。

 そもそもある保証すらない。

 それに発射には装薬ガンパウダーを使うとはいえ、3連射で銃身が焼けている。しばらくは無理だ。


 どうする?

 神弾は確かにアラルゴスには有効だが、アレはあず姉いわく、この世ならざる相手を滅ぼす弾だ。

 何故アラルゴスがそんな存在なのかは知らないが、まあ見分けはある意味簡単だ。

 通常の弾が効くなら普通の害獣。神弾が効くならこの世ならざるものだ。

 そんな訳で、あのクラゲ相手だと神弾はただのライフル弾でしかない。

 既に無数の穴が開いているが、普通の生物とは根本的な構造が違うのだろう。動きが全く鈍らない。


 ただ手段が無い訳じゃない。俺が使う弾は幾つかある。

 今まで使っていた弾と神弾とかではない。数種類の弾と、それぞれの神弾を持っているんだ。

 敵の柔らかさは見ての通り。爆発物には弱そうだ。なら、それに有効打を与えられる弾はある。

 ただそんなに器用に切り替える余裕がまるでない。


 高円寺の対戦車ライフルを奴の真下に打ち込むという手もあるが、浮遊している相手に下からの衝撃がどれだけ有効かは何ともいえない。


 アラルゴスが未だに上空で様子を見ているのは、既に自分たちを倒せる相手であることを理解しているからだ。

 たとえ有効だとしても、もしその弾を撃てば即襲い掛かって来るだろう。

 ただ慎重なだけじゃない。勝率が高いとなれば行動は素早い。


杉林すぎばやしさん!?」


 高円寺の叫びで一瞬思考が止まる。

 見ると、杉林は倒れていた。

 防弾ジャケットはボロボロなのはさっきと変わらないが、傷口が紫色に変色して腫れ上がっている。

 あれはただの怪我じゃない。


「毒は効かないんじゃなかったのかよ!」


「まだ分からないけど」


 来栖の言葉の歯切れが悪い。

 俺よりも現状を理解しているはずだ。

 ならもう……試すか。

 というかやるしかない。


 ボルトを引いて弾丸を排出し、新しい弾倉を装着する。

 狙う相手はもちろんクラゲ。

 だがアラルゴスはまだ様子見。

 予想通りだけどな。神弾から神弾に変更するなんてよくあり過ぎるトリックだ。

 そんな物が通用するほど、アイツらは甘い相手じゃない。

 けどだからこそ――いや、今はやるべき事に集中だ。


 狙いを定め、クラゲに対して引き金を引く。

 杉林はちょっと嫌な感じの奴だったが、仲間を見捨てることは出来ない。

 撃ったのは今で装填していた弾じゃなない。いくつかある別バージョンの一つ、榴弾だ。

 炸薬で撃って炸薬で破壊する。本当にひい爺さんの頭の構造はどうなっていたのだろう?


 とにかく狙いは傘とその下に伸びる胴体――とは言ってもそう見えるだけで、生殖個虫と感触体部分。まあ本当にクラゲならの話だけどね。

 轟音と共に発射された弾は予想通り、着弾後にほんの数センチ食い込んだ所で大爆発を起こした。

 その穴はもうチーズ穴なんてもんじゃない。まるで重さで千切れるように、ゆっくりと胴体がブチブチと音を立てて落下する。

 それに呼応するように傘も歪み、大きさからは想像も出来ないほど静かに全体が落下していった。


 ただそんな物を見て喜んでいる場合ではない。

 こちらが弾を変えた今がチャンスと見て、上空のアラルゴスが一気に降下して来た。

 当たり前だが、俺には未来予知は無い。

 だから一発目は榴弾で、2発目以降は神弾なんて器用な装填はして来てはいない。まあ当然だな。そんな状況、想定できるか!

 だが――、

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