第13話 人造人間

 来栖くるすは眉間に皴を寄せて少し考え込んでいたが――、


「さっき私たちのTYPE聞いてどう思った?」


「訳が分からない話は聞き流す事にしているんだ。聞いて良い事か分からんからな。話したくなったら話してくれ」


「嫌たいした話じゃないんだけど……群馬の人には少しきついかも」


「だからイチイチ群馬をディスるんじゃねえ」


「でぃす……なに? まあいいわ。TYPEっていうのは、戦闘用に改良された人間のことよ。薬とか――色々ね」


 それはまた返答に困る。

 志願したのかはたまた強制か。それすらもデリケートな話だぞ。

 どう返すのが正解なんだろうか。


「後に付いていたアルファベットは何なんだ? 先に行くほど階級が高いように聞こえたが」


「階級ではなくモデルね。改造の度合いと技術的なものから。最初は簡単なTYPE―A。薬だけで強化した人間よ。ドーピングと恐怖を無くす程度かしら。殆どの兵士に投与されたから、当時の兵士を指す言葉でもあるわ」


「酷い話だな」


「滅びるよりはマシでしょ。まあ結果は今の状態だけど。その後は投薬の改良が進んでBが出来て、そこから外科的な身体強化の研究が進んでCが出来て、まあ色々あって段々と増えていったの。基本的に技術の進歩の問題だから、上の方が偉いって訳ではないのよ」


「なるほど……」


 さっきの話を総合すると、アルファベットが若い程に古株という事になる。

 ただそれだけでもないだろう。予想でしかないが、世の中そんなに単純じゃない事くらいは分かるさ。

 その辺りは色々と複雑なのだろうが――、


「君はタイプEだったな。それはいきなりなのか? それとも段階的に上がっていくものなのか?」


「その辺りはTYPEによるわね。AからBなんかは簡単よ。投薬だけだもの。でも体質が合わなくてA止まりの人間もいるわ」


 なんか生々しいな。


「最初の内はそこまでしかなかったけど、次第に開発は進んでTYPEは増えたの。でも最初の影響が大きくて、BからC、CからDと上がっていくうちに、難易度は急激に上がるのよ。外科手術なんかもあるし、やっぱり最初に投与した薬が定着しちゃっているから追加は難しいのよ。まあDには2種類あるけど、おいおいわかるわ」


「うーん……それで君はどうやってEになったんだ?」


「私は最初からEとして生まれたの。ちなみに一応は人間と呼べるのはEが最高よ。今の状況だと、これ以上はもう出来ないかしらね」


「ん? Gっていうのは? 確か上官って言っていたけど」


「ハイモデルの事よ。FとGは人間のパーツを全部捨てて、脳もチップ。同じ人間を大量生産できるから、優秀な指揮官はそうやって作られて送られていたのよ。戦うだけの兵士は使い捨てても良いけど、本当に優秀な指揮官には戦死されちゃ困るのよ。特に現場指揮官は貴重だったから」


「過去形か」


「そうね……もう組織としての抵抗は難しいわ。だけど人類は諦めていない。だからここがあるの。ここは生き残った上位モデルに更なる戦闘訓練と、それ以上に指揮教練を受ける所なの。上級生はみんな出払っているって言っていたじゃない?」


「ああ、不思議に思っていたが」


「残った兵器の扱いを学ぶために各地に派遣されたり、そこにいる義勇兵を指揮しながら実戦で学ぶことになるわ。私達は1年だけど、すぐに実戦に出るでしょうね」


 ……参った。

 想定からしてまるで違う。俺は害獣狩りのための技術を学び、更に上の免許を取得するために来たんだ。

 未知の怪物を相手にするなんて聞いていないぞ。

 あれ? 何かおかしいな。


「今さっき、残っているのは静岡と長野に群馬だけって言っていたよな?」


「そうよ?」


「だけど俺が乗って来た群馬エクスプレスは、確かに愛知県を通って来たんだが」


「それよ! それを聞きたかったの!」


 テーブルの上にバンと手を置き前のめりになって来る。

 いや近いって。

 それにさっきの……ええと、高円寺こうえんじさんほどでは無いにせよ、巨大なものが目の前でゆさゆさ揺れるのは目に毒だ。


「長野県は真ん中を完全に巣にされて、群馬県との行き来は不可能なはずよ。その時点で、群馬は諦められていたの。そもそも群馬エクスプレスって何? あんな列車見たことないんだけど? それに愛知県を通ったって何? 初耳よ? あそこは残っているの?」


「列車というかリニアだな」


「そんな事はどうでも良いから」


 まあ判る。ここまで聞いた話が事実なら色々とおかしい。

 俺は確かに2026年にこちらに来た。

 時空を超えた? それは無いだろう。

 だけど間違いなくここは俺の知る静岡じゃない。

 しかも2107年? だめだ、理解が追い付かない。

 もう一度群馬エクスプレスで帰れば、2026年になるのか?

 だけど、それは本当に2026年なのか?

 でも確かに俺はあの時代にいた。テレビもそうだし、インターネットの話題もあの時代の話題だった。何処から来たのか分からない生物の話なんて聞いた事も無い。

 というか愛知県……うん、知らん。

 そうだ!


 急いでベルトに取り付けてあったスマホポーチからスマホを取り出すと、電源と入れて確認する。

 今は――。

 見た瞬間、全身から力が抜ける。

 そこには確かに2107年3月30日と表示されていたのだ。

 もし時間が飛んだなら、俺は玉手箱を開けた浦島太郎だ。

 だけど変わっていないなら、スマホの年号も変わらないはずだ。

 なのにスマホはしっかりと、今のこの場の時間を示している。

 本当に意味が分からない。


「質問攻めでごめんなさいね……なんだかすごく疲れているみたいだけど」


「いや、本気で疲れた。詳しい話はまた今度話すよ。今は少し、一人でじっくりと考えたい」


「……そうね。確かに何か、複雑な状況みたいだし。群馬県から来たのだし、当然よね」


 その言葉も、もはや気にならなくなっていた。

 それほどまでに、混乱していたのだ。

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