第14話 まるでSFの様だ
幸い、何故か変わっていた青い封筒には学校……と言って良いのか知らないが、ここのでカリキュラム、マニュアル、それに施設の案内に加え、各自の部屋割りまで書いてあった。
――至れり尽くせりなのは良いけど、何処で入れ替わったのやら。
群馬エクスプレスの中でもこれは読んだ。というより、外は真っ暗だったしな。他にやる事もなかった訳だし。
ようやくトンネルに光のラインが見えたのは長野からだけど、そんなものを見たって……。
急に何かが繋がった気がした。
だけど考えたくなかったから切った。
さて、取り敢えず部屋割りを見る限り、入り口から見て正面にある左右への登り階段。
それを登った先に俺たちの個室がある。
右? 左? それは全く関係ない。なぜならその先は同じフロアに到着するからだ。
二手に分かれている意味をあまり感じないかもしれないが、これは建物の構造の関係だろう。
普通に正面から登ると踊り場に着き、窓がある壁で90度曲がる。
そのまま少し進むと壁に当たって再び90度曲がる。これを登れば2階に到着。
俺は右から上ったが、左から行っても同じ結果になる。
登った先にはずらりと一直線に並ぶ扉の列。
その両端には非常扉と上下への階段。
上はそのまま上へ。教室などがあるな。
下は先ほどのフロアにはいかず、そのまま地下へと続いている。
射撃訓練場とかジムやら武器の生産施設があるらしいが、当面は関係ないだろう。
部屋の鍵は封筒にしっかりと入っていた。
あの大宮サンダースという男――いやハゲ――いやいや、教官はあれ以来見ていない。
まあ下にいた時間は短かったしな。
ただ普通、こういったものは彼から受け取ってから説明を受けるものなんじゃないのか?
俺の部屋は右から登って少し右。
そこまではいいが、左は
ただ右側が
軍隊だってもう少し配慮はするぞ。
他は殆どが空き部屋で、数少ない入居者の2年と3年もまたそれぞれ隣接した部屋になっている。
部屋に入ると造りとしては単純なものだった。
入ってすぐに土間、靴箱。
そこから廊下が続き、進む順に右側に小さな物置、トイレ、浴槽と配置され、その先が8畳ほどのリビング。さらに奥には6畳ほどのベッドルームがある。
リビングが広いのは、人それぞれ獲物が違うからだろうか。
部屋は硬質の金属製。机や椅子もそう。そして端に置かれている危険物ボックスに、壁には銃を掛けるラック。
基本的な武器の手入れなどは、自分でやれという事なのだろう。
ご丁寧に、手入れ用具一式も机の下の引き出しに入っていた。
これだけ厳重な作りだ。おそらく爆発でもした時に周囲に被害が及ばないようになっているのだろう。
ベッドルームも確認したが、こちらも武骨な金属製で窓は無かった。
実用性だけを考えたような、実に殺風景な部屋だ。
だが部屋をのマニュアルを確認していると、恐ろしい表記――いや、システムを見つけてしまった。
これはまさか、SFで見る伝説の……。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る壁に会ったコントロールパネルを操作する。
本来なら照明のオンオフやエアコンの操作くらいにしか使わないのだろう。
しかしこいつは、そんなものとは比較にならないほどに複雑で信じられない事が書いてある。
スイッチを入れ、壁紙をホテルに指定する。
するとどうだろう! 今まで殺風景だった黒い金属の壁が、一瞬にして一般的なビジネスホテルへと変化した。
高級ホテルと入れれば高級そうなホテルに。オプションに窓と入れれば窓が付き、更に天候どころか水槽にする事も可能。
これだけでも驚いたのに、いつの間にか観葉植物までおかれているではないか!
恐る恐る触ってみるが、触れることは出来ない。こいつは立体映像だ。
信じられないほどの未来感覚に目が回る。
これが大都会か! これが日本の首都か!
さっきまで聞いていた悲壮感が急速に和らいだことを感じる。
まだまだ絶望的な世紀末なんかじゃない。
詳しい事はまだこれから調べるとして、今はこの感動に浸って――なんて余裕開ないね、ハイ。
おのぼりさんモードはここまでだ。
携帯を取り出し、群馬に電話をかける。あず姉に連絡しないとな。
まだ夕方。これから仕込みの最中で忙しいだろう。
だから到着はメールですまそうかと思ったが、それどころではすまなくなった。
急いで店への通話ボタンを押す――が、
『おかけになった電話は、現在使われていないか、電源が入っておりません。番号をお確かめの上、もう一度おかけ直しください』
ワンボタンでかけているのに間違えるわけがないだろう!
もう一度掛ける――同じ。
もう一度、更にもう一回、それこそ何度でも。
だけど通じない。何かあったのか?
もうプライドなんて捨てて、一刻も早く群馬に戻った方が良いんじゃないのか?
だけどそれでいいのか? 今日の今日でいきなりの帰還。恥ずかしくないのか?
いやいや、構わない。どうせ戻って地元で就学とか就職などをするわけじゃないんだ。
ただ俺は静岡が――世界がこんな事になっているなんて知らなかった。
テレビでも、ネットでも、この異常な状況を報道していなかった。
隠されていた? だけどこっちには自警団まであるんだろ?
情報なんて簡単に漏れる。民間人が知るなら尚更だ。群馬の人間だって、今の状況を知らないわけがない。
長野はどうなんだ?
いや、今はこっちは良い。とにかく群馬にいる家族が何より重要だ。
銃と簡単な荷物を担ぐ。
確か一度入ったら、出るには許可証が必要だった。
建物の構造はもう頭に叩き込んだ。いるとしたら教員室か指令室。
もうこのネーミングからして怪しいが、この際どうでも良い。いなかったら指令室の方で許可は出してもらえるだろう。
後は現地に到着してから考えれば良い。
今度はずっとネットを確認しながら――まてよ?
スマホをネットにつなぎ、情勢を確認する……が、繋がらない。
ナビは!? こちらはちゃんと使える。それも来た時に使った限りでは、全く問題はない。
来る前に何度も確認して頭に叩き込んではいたが、それと照らし合わせても地形に変化がない。
来栖の言う事が事実なら――いやまあここまで来て疑う方が馬鹿々々しいが、81年間ナビが通用するほど変化が無かった事になる。
有り得るか? いやまあ大都会にして日本の首都である静岡なら有り得ると信じたい。
だけど実際、都会になる程に店舗の入れ替えは激しい。今もそのまま通用するとかは考えられない。
しかし改めてもう一度よく確認すると、店舗名が違う。
予定していたガンショップ、有名な定食屋、お土産屋――それらが違う店になっている。
だけど地形は同じ……やっぱり聞かないと。
――ピンポーン。
そう考えて出かけようとしたと同時に、玄関のチャイムが鳴った。
この忙しいのに誰だ。
まあ教官なら話が早くて助かるんだけどな。
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