第4話 地蔵と鳥居

 童子(どうじ)たちが訪れたのは大きな山のふもと――家々が田んぼと畑の合間を点々と陣取っている、そんな場所だった。

 それも深夜ともなれば、人も生き物も静寂を守る。そのためおボケは耳鳴りの感覚とともに目覚めたのであった。

 童子たちを乗せ、ここまで飛んだ竜は風を巻き起こし消えてしまい、残された二人は顔を見合わせた。

 のんきなことに、おボケの方は前後の記憶が曖昧だった。のちに童子と出会ったこと、そしてその童子に殴られたことを頭のすみで思い出し、ほんのすこし息をのんだ。

「あなたってあやかし、なの?」

「どうでもいいだろう」

「そんな上等な衣(ころも)も見たことないし」

「それより、地蔵を探せ」

「お地蔵様?どうして」

「我は地蔵の気配を感じない。命を狙われているゆえ、そこを隠れみのにする」

「えぇ?あたしだって、お地蔵様の気配なんて感じないよ?――あ」

 おボケは変な声をあげ、童子の向こうを振り向いた。

 童子もつられてそれに習う。――そこには地蔵があった。

「変ね、本当に気配が。ちょっとあんた、あたしに悪さしたんじゃないでしょうね」

「そんな暇はない」

 童子が地蔵に手をかざすと、鈍くも景色が歪んだ。

「ひっ」

 その圧に、おボケが怯え悲鳴をあげる。しかし逃げる足腰を失ったのか、そのまま唖然とし続けた。

 その間にもバチバチと閃光のようなものが童子をつつむ。

 再び風が巻きおこる。この童子を中心に色んな気配が遠ざかっていくのをおボケは感じて、目を閉じた。単純に怖い。

「おボケ、手を出せ」

「いやだ!」

「強情を張るな!はやくしろ」

「あう……」

 すぅっと、おボケは手だけを童子の方へと出した。

 バチンッ。

 次の瞬間、おボケは地蔵に吸いこまれてしまった。


 ◇


 こ、ここは――。

 家だ。おっかぁたちと……、皆とすごした家だ。

 どういう仕組み?さっきまで、お地蔵様の前でヘタリこんでいたのに。

『きこえるか。――そこは地蔵の中だ。お前は地蔵に愚痴も言ったが、布をまきつけたりもしたろう』

「う、うん。でもそれは村の、あたしの故郷にあるお地蔵様で」

『お前に感謝していると言っている。いいか。魂は物にも宿るんだ。このように』

「――」

 その言葉に、おボケはなんだか救われる思いがしたのだった。


 ◇


 一方、巨大な都――アオリにて。

「おい。そこの大男!まさか貴様、昨今、鳥居を切り飛ばしてるあやかしではあるまいな!顔を見せろ!」

「見せる顔は、ない」

「何っ?!」

 声をかけた男は、あっけなく首をはねられた。

 あたりにひと気はない。そう悟るや否や、大男は男の体のみをズルズルと引きずり運んだ。

 彼の通ったところには、血の道がずっと続いた。まるで何者かを招いているかのように。

 そうして歩みをとめたのは、神社の前だった。

「ふんっ‼」

 眼前(がんぜん)にあった鳥居がすっ飛んだ。――はねたのは、大男の握るなまくら刀で間違いない。

「この俺こそが、やつを倒す覇者だ!」


 ◇


 一方その頃。

「――来たか」

 おボケの入った地蔵を前に、童子はぼうっと立ち尽くしていた。

 山の向こうから、巨大な何かが飛んできた。

 それは、――鳥居だった。

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にび王 ぐーすかうなぎ @urano103

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