第11話.かくて婚約は破棄された
記憶の底から戻り。
目を、開く。
私は今、25。
長かったが……あと、一息だ。
結局最後は、両親に泣きつくことになった。
情けない話だが……二人は最初から、私の味方だった。
私だけが、何もわかっていなかった。
公爵家から婚約解消の話を打診しなかったのは。
つまり、私の好きなようにさせてくれていたのだ。
私のやっていたことは、ずっと何もかも、バレバレだったようだ。
ふふ。
確かに私も、さして隠す気はなかった。
少し露骨に、家の役に立ちすぎたかもしれないな。
悪党どもが減ったおかげか、お父さまも最近は少し動きやすいようだ。
そうして動いてくれたお父さまのおかげで。
きっと、今日がある。
こうして直接対決に及んだということは。
奴はもう、手札がないのだろう。
我々が撒いた藁を、掴むほどに。
「ローズティア貴様、とぼけるつもりか!」
呼ばれ、王太子に向き直る。
貴様に名を呼ばれる筋合いはないのだがな、怖気が走る。
否、その筋合い。まもなく消し去ってくれよう。
「はっきり仰ってくださいまし、王太子殿下」
少し、ざわつき始めた。
長年、よからぬ噂が立ち続けた、王太子とその婚約者の対峙だ。
無理もないだろう。
国王陛下がお若いとはいえ、成人から10年……結婚もせず、王位にもつかなかった王太子と。
顔に醜い火傷の跡があり、黒い噂の絶えない公爵令嬢。
せいぜいこの喜劇を、楽しんでくれよ?
私の最後の、晴れ舞台だ。
王太子が、そばに控える侍従から巻紙を受け取る。
……ふふ。無警戒だこと。
こちらの目配せに答え、彼女が引き下がる。
「窃盗、放火、殺人、隣国三国との内通。
貴様のやった悪事のすべてだ。
証拠もたんまりとある」
王太子が得意げだ。
ざわめきが大きくなる。
――心地よい。
くく。それで、すべてだと?
全然足りないではないか。
私がこの10年で!
どれほどの悪党を、焼き尽くしたと思っている。
流してやったそれは、ほんの一部だ。
もう、自分で調べるだけの勢力も残っていないか。
ふふふ……実に滑稽だ。
「それで?わたくしをどうなさるおつもりですか?」
奴がたじろぐ。
そして目にさらに怒りが走る。
当然のことを聞き返されて、いら立っているようだな。
貴様の中では私……いや、女とは蔑み、嘲るもののようだからなぁ。
愚かだと、侮っているのだろう?
「無論、貴様を捕え、処刑する。ダンストン公爵家は取り潰しだ」
おお、怖い。
やってみるがいい。
……できるものならな。
「あら。王太子殿下に何の権限がありまして?」
広間にどよめきが広がる。
悪事を行った――事実だ。
証拠がある――結構。
だが王太子に権限などない。
そこに国王陛下が、座っている限りは。
国王陛下が頷かなければ、何も動きはしない。
動かせるのか?その証拠とやらで。
動くと思うのか?お前の今の、その政治と金と、勢力で。
「ふざけるな!おい、衛兵!!」
衛兵たちは戸惑っている。
陛下の様子を伺って。
そして、誰も動かない。
……ふふ。
お前の手足は、念入りに削いだ。
どこからか潜り込ませていた兵は、とっくに皆、焼き尽くしてある。
もちろん、こちらの非が明らかならば、衛兵だって動いてくれるさ。
私が乱暴狼藉でも働いているならな。
だが罪状を読み上げた程度で、それが通るとでも?
それこそ、陛下が是と言わなければ何も動かない。
お前は私ではなく、国王陛下に奏上すべきだったのだ。
この女を捕え、調べてほしいと。
ま、お前に送り付けた怪文書くらいなもので。
証拠など、どこにも残していないがね。
さて。
ここでお前の味方をするものは、あとわずか。
その手をとってきた、共犯者たち。
さぁ、最後の仕上げだ。
「王太子殿下。婚約者にそのような言いがかり、いかがなものかと存じますが」
煽るように言う。
奴の眉が、目の端が、吊り上がる。
「貴様など婚約者なものか!」
ふむ。悪くない。
だがもう一言いただこう。
「では、婚約は破棄なされると」
「当たり前だ!」
王子の声が、響き渡る。
場が、静まり返る。
――――大変結構。
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