第9話.そして悪事は見抜かれる
私は23になった。
ふふ。とっくに行き遅れだ。
だがそれ以上に我慢ならないのは。
…………回り道ばかりしている。
もう10年も、経ってしまった。
やつは放蕩の裏で、地盤を固めようとしていた。
それを邪魔しつつ、国内の掃除をするので手一杯だ。
盗み。燃やし。殺し。
私も随分、悪事に馴染んできたものだ。
表向きは、公爵令嬢……貴族の端くれとしての活動を続けている。
国内を、国外を周り、領の発展に貢献し。
言い訳としては、なかなか結婚してくれない王子に認めていただくため、であるが。
……我ながら、吐き気のする言い訳だ。
そんな私を見かねたのか。
王宮に、呼び出された。
王妃殿下との、お茶会だ。
…………一対一での。
アマンダ王妃殿下。
食えないお方だ。
この方は正妃。王子殿下――否。王太子となられた殿下の、お母上。
実の息子のこと、気づかぬわけもあるまいに。
10年も放っておくとは、何か意図があったのだろうが。
中庭で、差し向かい、茶を飲みながら当たり障りのない会話を続ける。
「ときにローズティア。最近、よからぬ噂をいくつか、耳にするのです」
…………来たな。
「噂、とは。何でございましょう」
「我が国の王太子。やはり以前とは別人のようになって……何かあったのでは、と」
そりゃあ八年も経てば、周知というものだ。
むしろ放っておき過ぎと言いたいところでは、あるが。
今、それを言って来た。それこそが、事態の核心を示しているということだ。
奴の伸ばしていた手は、奴が来る以前から王宮に伸びていた手と同じ。
私が手勢や勢力を削ることで、それが少し緩んできたのだろう。
いったいどれだけの年月、工作し続けていたのだろうな。
しかしそうなると気になるのは……あの夜だな。
本当の狙いはなんだったんだ?
王子殿下の居合わせは、偶発的なもの。
彼が狙いとは……少々言い切れない状況だ。
あるいは……王宮にいないから探しに来た、とか。
…………いずれも、妄想の域を出ないな。
今は、目の前のことに集中しよう。
改めて、アマンダ様に顔を向ける。
「王太子殿下が、でございますか」
「ええ。婚約者として……何か思うところはありませんか?ローズティア」
視線の意味するところが、読めない。
「王太子殿下はお優しくも、未だ火傷女と結婚の約束を交わしてくださっています。
変わりなく、と思いますが」
「本人とはあまり会っていないようですが」
「お忙しいようですので。月に一度は、お会いしております」
動向を伺うためにな。
「そうですか。ですがそろそろ、陛下もお年。
あなたを迎え、次代を、と考えていますが――ローズティア」
「はい」
だろうな……時間をかけ過ぎたか。
奴が炙り出されてくれると思ったが。
「あなたは覚えもよく、妃としての教養、作法の習得は十分です。
しかし。派手に何かしていると、そう聞いていますよ?」
「次代の王国のため。また当公爵家のため。
駆けずり回っている次第でございます」
「ものは言い様ですね。
ローズティア。一つ、提案です」
嘘は言ってないわけだが……把握、されているか。
無理なからんな。
「なんでございましょう、アマンダ様」
「我々は、王太子を王にするつもりです。
この国の習わしとして、それには正妃が必要です」
「はい、承知しております」
「
あなたの話を、聞きましょう」
これ、は。
「婚姻が成れば。妃としてのふるまいをせよ、と」
「そうです」
すべてお見通し、か。
小娘がしてきたことなど、この程度か。
だが、私の炎が言っている。
奴を必ず、地獄に突き落とせと。
他のすべてを、引き換えにしてでも。
「承知いたしました。王妃殿下」
自分でも。
花のように笑えたと思う。
きっとその花には。
棘どころか、毒がある。
もうなりふりは、構ってられない。
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