第5話 15年前にタイムトラベル

僕らは、ロッカーの中に入っていた。2人も入ればぎゅうぎゅうの狭いロッカー。アオが最初にピョーンと入っていた。ムラタが続き、コヤマが少し怖がる。僕は「コヤマ大丈夫だ。行くぞ。」手を引っ張って入った。中は真っ暗「おーい、アオ。ムラタ。」僕は叫んだ。「ドン。」ムラタにぶっかった。アオが「少しすれば目が慣れるさ。」1,2,3とアオは数を数えて、「ほら、見てごらん。目が慣れてきただろう?」僕は、「そうだな、目が慣れて来た。」四角の空間は案外広い。「アオ、これがタイムマシン?」「そうさ、昭和のね。前にも言ったけど、色んな場所に色んな年代のタイムマシンがあるのさ。さっき、ムラタが、言ってた電磁波タイプの光移動が今は、主流だよ。」僕は「へえー、そうなんだ。でも僕はこっちの四角い昭和タイプのタイムマシンの方が好きかも。乗ってます感があるしね。」コヤマ、ムラタも「そうだな。」とうなずく。僕は手で壁を触った。金属のように冷たい。硬い。試しに「ドン」っとたたいた。硬い金属がグニャっと曲がり手がめり込んだ。「わーあ、」僕は大きな声を出した。コヤマが「レン、大丈夫か?」ムラタが「どうした?」アオが「このタイムマシン、見かけは四角い箱型に見えるけどこれ、実は、”スライム”で、できているんだ。「えースライム?」「そうさ、スライムで、できてる。スライムは、異空間移動の耐久性や形を自由に変えられる。スーパーアイテムさ。流行の電磁波に光時間移動よりも安定感があって、飛びたい時間設定に間違いがない。強いて言えば、多少時間がかかるくらいかな。まあ、安全第一だね。「へーえ、すごいんだな、スライム」アオが力説し、コヤマとムラタがスライムに感心しているところ、素材的にいいんだろうが、僕は、どうしてもあの水色のゲームキャラのスライムの顔が浮かんできて、スライムの素材のすばらしさが頭に入ってこない。真っ暗な時間移動。アオが「特別だよ」と言って外の景色も見せてくれた。景色は逆さまになったり、形が変形してグルグル回転している。テレビで見た昭和のマンガのタイムマシンの光景と同じだった。「ドスン」僕らは、駅前の大きな池に着いた。着いたと言うより空間から放りだされたようだ。アオが「タイムトラベル成功。着いたよ。」僕は周りを見渡し、「駅前のこの大きな池は変わりないな。今と同じだ。ただ、駅前の景色が少し違うようだ。緑の木があってなんとなくのどかな駅って感じだよね。」コヤマが「15年前って僕ら生まれてなくない?そうだな。僕13だよ。生まれる2年前か?」ムラタが「駅が低いぞ。駅が高架じゃない。」僕は、周りを再度見渡した。今の駅前のロータリーはなく、両サイドのビルもない。不思議な感じだ。15:45。駅前の時計は変わらず花壇の真ん中に立っている。学生達がゾロゾロ駅に向かっている。「ちょうど下校の時間か。」桐ヶ丘中等部の女子が池の前を通るコヤマが「15年前も、やっぱり可愛いよな。」ムラタも僕も、うなずいた。アオが、「そろそろだ。池を見ているんだ。」僕ら、池の端のベンチに座った。小学生が夏休みなのか3,4人池の周りで遊んでいる。1人の子が「池に大きな鯉がいる。捕まえよう。」セミ取りの網できれいな錦鯉を捕まえた。「わーあ、捕まえた。」小学生たちは鯉を地面に上げて「どうする?」どうやら相談している。鯉は苦しそうにエラをバタバタ、尾っぽバタバタさせている。太陽が容赦なく照り付ける。ムラタが鯉を助けようと立ち上がった瞬間、背の高い色白の細い学生が池に来た。「君たち、池の鯉は、とっちゃいけないんだぞ。看板見なかったのか?」そう言いながら、弓矢を地面におき、急いで鯉を池に戻した。小学生たちは「ごめんなさい。看板見ていませんでした。」そう言ってわーっと池から離れていった。その学生は、弓矢を手に取り池の中を覗いこんで「今度は捕まるなよ。」そう言って立ち去ろうとした瞬間、僕らは駆け寄った。僕は大声で「名前を教えてください。」その学生はえっ?僕らの制服を見て「なんだ、同じ中学か、男子を好きになる趣味はないが、名前?君ら1年だな。」「お願いします。名前を教えて下さい。」その学生はびっくりするほどイケメンだった。「仕方ないな山田カイ。僕の名前は、ヤマダカイだ。」3人は大声でハモって「ヤマダカイー。山田先生ー。」僕らはその学生の顔をマジマジ見直した。面影が面影が少しだけ、ほんの少しだけあった。その学生は「君たち、いったい何者なんだ。名前を聞いて、僕が先生?」僕は、「すいません、人違いでした。失礼します。」僕らは急いでその場を離れた。アオは、さっき居たベンチで長い舌をペロペロ出して空を見上げていた。

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