第11話 空白夜陰日記


 あの医者の前だけ小夜子を起こして、それ以外は僕が主に管理している日々がしばらく続いた。


 小夜子は僕が表に出ていない間、数日おきだが日記をつけている。


 立っているだけでも大変なのに小夜子は知的好奇心が旺盛で僕に本を読ませたり、たまに小説のような雑文を書かせたりしている。


 


 僕は小夜子が何を書いてあるか、常にチェックしている。


 小夜子が日記を書いているのはあの医者が治療の一環だと薄々と感づいたので、僕は日記にページが増えているごとに破って捨てている。


 とはいえ、大事な小夜子が一生懸命書いたものだから目には通し、じっくり考えてからゴミ箱に捨てる。


 小夜子は小さな字で書き綴っていた。




12月7日 晴れ、夕方から雨




 今日も怖い夢を見た。


 夢の中でまた同じ夢を見る。


 起きてもまだ夢の中にいるみたい。


 ここにあるものも映画のセットのよう。


 周りとの境目が定かじゃなくて溶けて見える。


 人の顔が溶けて見えるの。


 人の顔、顔、カオ、そうよ、カオが溶けて見えるの。


 どうして他の人は平然と接しているのかしら。


 私にはわからない。


 人の顔が見えてこない。


 どこにも、どこにも人のカオのカタチをたどっても私にはわからない。


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