第9話 初夏の庭
ナイフをその晩、ベッドの下に隠すと次の受診までまだ時間があるので、僕は小夜子をしばらく眠らせることにした。
でも、いつまでもじっとこんな狭い部屋に引きこもるわけにもいかないから、僕は休憩もかねて庭に出る。
小夜子の家の庭は手入れが行き届いており、色鮮やかな花が咲き乱れている。
とくに木工薔薇がこの時期は見事だった。
僕はその棘で自分の指を刺した。
日曜日なのか、小夜子のいとこにあたる女の子がブランコで遊んでいる。
小夜子はこの女の子にまでお父様は手を出していると妄想を膨らませていたがその心配性はない。
この子どもは毎晩自分の母親と寝ているし、小夜子のお父様も溺愛はするものの、この女の子を性の対象としている素振りは一切ない。
第一目が違う。
好好爺のような一直線に女の子を溺愛する、この目は普通のおじさんだ。
なぜ、小夜子がそんなくだらないことで悩むのか、何のための架空の存在としての僕なのか、話し出したらきりがない。
「小夜子お姉ちゃん! 一緒に遊ぼうよ!」
僕は子どもが基本嫌いだ。
小夜子は大の子ども好きなのだが、僕の性根には子どもはあっていないようで、子どもを見るたびに僕は蕁麻疹を無理やり搔きむしられたようで気分が悪い。
女の子は僕の険しい顔を見て機敏に気配を察したのか、
「小夜子お姉ちゃんに何かまた取り憑いている、怖い!」とギャアギャアと叫んで逃げ去った。
嫌いなら最初から近づくな。
僕はぶつぶつと唱えながらブランコに腰かけた。
あの男をどうしたら抹殺できるのか、考えこむとお父様が僕に近づく。
「小夜子、病態はいいかね?」
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