第8話 不吉なラブロマンス
小夜子が目覚めたのか、身体はもっと女らしくなった。
僕と君は一つなんだ、と僕は心を割るように小夜子を押しこめた。
「いったい何を言ったら君はわかるんだい? 僕がいなければ君はこうして生きていなかったんだ。僕を消そうとしている無礼者を葬って何が悪いんだ。小夜子、君は勘違いしている。君の身体の主宰者としてふさわしいのはこの僕だ。君は邪魔なんだ。僕を作り出したくせに僕を殺そうとしているから」
僕は鏡の底で君を強く睨んだよ。君は委縮すると思ったけれど、それは間違いだった。
「私は治りたいの。こんな病気を治したいの。別に真一さんを殺すわけじゃない。真一さんは私だから。私の心の傷だから」
小夜子まで僕を疎み始めるなんて、僕はここで本気で小夜子を殺して自分も死のうとした。
心中というありきたりなラブ・ロマンス、そんなことを考えようとした僕もまた堕落したのか。
僕は最後の手段を使おうとした。
姑息な手段だ。
あえて、小夜子の一番の傷を告げる。
「いいかい、小夜子はあの優しいお父様から毎晩何をされた? なぜ、たがいに肌を嬲り合ったのかい? 愛するため? それとも、父と娘の表現のため? でも、ただの愛情ならあんなことまでする必要はないだろう。まるで、グリム童話のロバの皮をかぶった王様だよ。あのとき僕が君を覆わなければ君はもっと発狂していたよ」
卑怯だったのは僕の方かもしれない。
小夜子は悪い記憶がリフレインし、胸を抱えて泣き出した。
僕の身体も自然と胸を抱えた。
「とにかく僕は君を守るためにあのやぶ医者を殺す。いいかね、僕は君を永遠に愛しているのだから」
「先生を殺すくらいならお父様を殺して」
小夜子は泣きながら僕に訴えた。
「あの男が私を狂わせたの」
もちろん僕は聖断を下した。
「父親に向かってそんなふうに言うなんて、第一、君は記憶の中にあの男のことは一ミリたりとも入っていないじゃないか。僕があの記憶を持っているんだから、今の君みたいにいちいちウジウジしていたら僕の方こそ狂うね」
僕はいつも以上に冷淡に言い放ち、小夜子はさらに泣きじゃくった。
「真一さんだけは私の味方なのに、私が作った友達なのに」
小夜子は泣くのをこらえようとしている。
憐憫。そんな浮ついた琴線なんてこの場では感じなくていい。
「とにかく今夜は寝ることだ。ねえ、小夜子。これ以上ここにいたらお父様にもばれてしまうよ。大人になった君に対して、お父様があんな卑猥なことはしないとは限らない。今のお父様は君のいとこに夢中でよくじゃれ合っているけれど、大人の君が性的玩具になる可能性は消えたわけじゃない」
「私はあの男をこの手で殺せるなら殺してやりたい、あんな小さい子まで手を出すなんてあんな鬼畜」
狂乱した小夜子は高飛車に怒鳴った。
僕は
「まあまあ。君には一切関係ないことよ」と別に意味もなく諌めた。
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