第6話 孤独なナンセンス、あくる日
あくる日の夜、僕は本を読んでいた。
君を寝かして、あちらの世界に居座らせる。
君の心を前面に押し出すと、精神を崩壊させる危険性があったから、やむえないことだった。
女の身体のままでいることに僕は慣れてはいたものの、この丸い乳房がブラブラと地下に吸い寄せられているのは慣れない。
僕は君の乳房を撫でながらわずかながら興奮しているのがわかる。
撫でるとありもしない陰茎が熱くなるような気がしてならない。
この孤独な身体に僕の架空のそれを合わせられればどんなにいいことなのだろう。
孤独な魂同士が結びつく。
全くのナンセンスだ。
でも、それは君の身体に失礼だね。君の身体を借りているときは必要最小限、マナーというものが必要だ。
とはいいつつも、僕は君の身体を撫で続けた。
「僕は君を守り続けるから。あの男が何と言おうが僕は君の味方だから」
眠っている君を無理やり起こし、僕は忠告した。
君は眠り眼のまま、俯きがちに話を聞いた。
僕が身体を覆っているときは難解な小説でもスイスイと読めるのだが、君が身体を覆うときは不安定のためか、一行でも読めない。
僕は君の読書好きのため、あらゆる本を読破したい。
君は暗闇の中でひっそりと泣いている。
ウジウジと僕を求め、厭い、傷口を舐め合う。
僕と君を結ぶ鏡の底は暗い。
「小夜子は僕が嫌いなの?」
タブーの言葉を発してしまったとき、僕はいくらか後悔した。
これを言ってはおしまいだ。
何のための仮面としての存在かわからなくなる。
「真一さんのことは嫌いじゃない。でもねえ……、先生がこのままだとダメだって、私が私じゃなくなるって。真一さんを消さないと私は生きてこられないって」
あのやぶ医者、そんな屈辱を小夜子に与えたのか、僕が知らない間に。
「僕を殺したら、君も死ぬ。その節理は今も昔も変わらない」
冷淡に命令を施したが、それで良かったのだろうか。
僕自身も最近わからなくている。
僕は小夜子が生み出したキャラクターだ。
母親の子宮から産み出されたわけでもない。
小夜子が立ち上がれたとき、僕は死ぬ運命だ。
そんな理不尽なこと、許されてたまるか。
「真一さん、私はあなたが好きだから。いつまでもいてくれるでしょう」
「もちろんだよ。僕は小夜子のことをこの世の果てまでも愛している。君が死んだら僕も死ぬ。僕が死んだら君も死ぬ」
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